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境界 その2

「……。っ!?」

「国王陛下が、知らせを待っているんだが……」

 ハマシマ・ヨシキがいた。

 迷彩柄のタンクトップ姿であるが、その上に、肩や心臓を覆うくらいの軽装鎧に身を包んでいる。胸にはカンジで書かれたよく分からない二文字『自助』。黒いサングラスは「2017」という数字の形。

 黒い布袋を背負って、ナイフを手に持っていた。草の汁であろう汚れがあちこちにある。森を抜けてきたか。

「よ。ヨシキ? ……なぜっ、ここに!?」

「……たいしたことではない」

 いいい、いや。びっくりだ。

 唐突だ!

 私にとっては、たいしたこと、だ。

「ここに罠はないか? 敵地という話だろう」

「問題ない。敵地ではなかった……それどころか、ここの主は好意的だった」

「!?」

「信じがたいだろうが……。私はこれから調査を終え、帰還する」

 私は箱をこっそり確認しながら、身なりを整えた。

 献上する品に触ったこと……バレてない、バレてない。

「……セレネローザ。見たところ、急ぐ様子さえないじゃないか」

「わかるか?」

「調査の任務というのは受けた事がないが。これくらい時間がかかるものだろうか?」

 彼はのんびりしている私を非難するような口ぶりだった。

 まあまあ。今の私は実のところ、慌てている。それをチェスでもやる時のように、表情においては隠しているだけだ。

「これは、だいぶ短いほうだぞ」

「ふん。……不勉強だったか……俺は」

 残念ながら、そう。

 こういうのは難航すれば、一週間も二週間も経つ。

 ……。私も食事や風呂などにゆっくり入っていた。だから、もっと削れたかもしれない……。

 ……ねえ? だって、食事と風呂だぞ。

 ゆっくりしてしまったのは認めよう……うん。心の中で。密かに。

「帰ろう。ケガはないか」

「……ない。道中、賊に襲われたが手当は受けた。完治している」

「ほう」

 私たちは歩きだした。

 じき、雨が降りだしそうだ。

 ああ、剣を振るってる場合じゃなかったな。わかってはいる。わかってはいるんだ……。

 背後のほうには、湖があるだろう。

 かつては美しかったというあの湖を見たのは風呂に浸かっている時である。最後、今になって、見てみたくなった。

 が、ここは好意を受けたとて、かつての旧・人魔境界。彼もいるのに緊張を解くのもよくないのだ。

 私は振り返らない。

「宮廷道化師だったと記憶しているんだが。なぜここに派遣されてきた」

「それが……アウナス大臣は、俺なしで集中したいと言いだした。どうも自分を追いこもうとしているらしい」

「……お払いバコ、ってやつか」

「今は、だ。一時的にだ」

「わかった。わかった」

「手が空いたなら、お前の生死を確認してこい、と。――どうせお前が報告を持ち帰るまで、大臣会議もない」

 一瞬、ひりついた空気が流れる。

「賊だ」

 彼はなにか、黒いものを取り出した。折れ曲がった棒のよう。

「進行方向、森にいるぞ。2時方向。距離は――」

「38メートル」

 私は剣を構える。

「すまない。セレネローザ。おそらく俺を尾行してきた」

「かまわん。敵は一人か」

「二人いる」

 ぱんっ。

 軽い破裂音が響いた。

 私はヨシキが掲げた黒いものが武器だったことを知った。

 遠距離武器であるらしい。

「これは銃という。ハンドガンだ」

「ヨシキ」

「実用可能なのは、この世界では5挺だけ」

 私でもわかる。

「こうやって使うんだ。セレネローザ」

「ヨシ、キ。おい」

 撃たれたのは、私だった。

 一瞬、わからなかった。

 私の鎧の隙間に、それが突きつけられている。

 音の残響があった。

 私の内側で、鎧のなかをそれは跳ね回った。

 音は内臓を、骨を、筋肉を、行き交い、響き、

 、

 。

 ――

 私の視界は横倒しになっていた。

 あ。

 ……え?

 頭上で、彼は言った。

「二人だ。フェアにやったぞ。相棒」

「おま、え」

「王国の忠臣に、わずかながら、敬意を」

 意識が落ちていく。

 目の前に赤い水たまりが広がっていく。

 私は回復魔法の詠唱を行おうとした。……言葉が出なかった。

「鉄は魔法を阻害する。銃弾が体内に残っているんだ」

「が……」

「じゃあな。ありがとう。さようなら」

 森のほうから、もう一人の男が歩いてくるのを私は見た。

 雨が降りはじめる。

 ひんやりとしたその感触が、熱を奪っていく。

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