疲れた人々だけを的確に吸引していくブラックホール
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和風の露天風呂である!
周囲は竹の仕切りで囲われており、笹の葉がぽつぽつと緑を添えている。
雨はまだしとしと降っていたが、屋根があるので涼しい風だけが流れこんでくる。まわりが雨の時の風は、いい。はっきり言って理想的な涼しさだ。外気浴が一番気持ちいいんだよねこういうの。
私はツボ湯に入った。
やどかりみたいである。
ここはソシャゲっぽく、背後から光でピカピカ照らして「超進化! やどかりドラゴン」とか表示してほしいところ。なんか派手な効果音つきでお願いします。
正面にはすでにお客様、セレネローザさんが入っていた。
「いい湯だ」
「ありがとうございます」
「火山地帯や、砂漠に噴出する湯の話もいくつかある。都からは、馬車に乗ってひなびた温泉への旅をする者もそこそこいてな」
ほお……。
露天風呂は、土地によって無限のバリエーションがある。
私はすごく興味を惹かれた。わくわく。
セレネローザさんはゆっくりとため息をつく。目がちょっとだけ、とろん、としていた。
「はぁ~……」
「……」
「たまらん」
「たまらんですね」
「うむ」
前の世界だとおっさんたちの話し声が男湯から聞こえてきたもので、あれは地味に好きだった。楽しそうで。
この風呂もいずれ賑わってほしいな~。
「外に……探索に出た事はあるか」
「これから、行ってみようかと思います」
「ふむ。まあ、ゆっくりでいいだろう」
「……ところで、あの……」
私のほうにも、聞きたい事はいくつかある。
「外の世界についてなんですが。……兄らしき人物に、心当たりはありませんか」
「把握していないな……」
がっくり。
期待のできない可能性ではある。
が、私がここにいるのだ。彼もこっちに来ている――と思っていたい。
――望みすぎだろうか?
「転生者、ということになるよな。判明している限りでは名簿にしている。どのような者だろう」
「料理をします。名前は瑞気 祥雲でした。私たちの世界での名ですが、そこでも名前を変えた経歴があるため、家の名は私と異なります」
アイスランド人に姓はないんだけどね。もともとは。
20年代の戦争や温暖化を背景に、帰化・移民人口が膨れあがり、2036年に新法が可決、姓名の選択肢が増えました。
「名前か……手がかりにはなりにくい。こっちでは、さらなる別名を名乗る可能性もある。辺境の風習に合わせたりな」
「私……知り合いに会えない可能性も高いってことですね」
「だが、可能性はある」
「……そうですね」
「案外、すぐかもしれない――特に、この施設の評判がよくなれば」
「……あ!」
そうか。
このホテルが評判になれば、多くの人々を集めることになる。
その中に兄がいる可能性だって、あるのだ。
いや、私の知り合いだった人も、まだまだやって来るかもしれない。
特に日本文化であるこの銭湯なんて、あそこで暮らしていた者にとってはブラックホールみたいなもんだ。
日本暮らしなら、絶対、来る。
「ますます身が入りそうだな」
「はい!」
「ところで、若干このお湯、びりびりするのだが。これ気持ちいいな」
「!」
「なんか、すごい、こう。……未知の感覚だ……あ、びりびりがなくなったぞ?」
無意識に電気を流していたのか? 私。
しかしその言葉で私ははっと気がつき、電気を止めた。
――電気を止める、っていう感覚がどういうものなのかは言い表しにくい。けども、自分の感覚はいつの間にか拡張されていて、そこにようやく気がついた、という感じ――しっぽとか角の根元がキュッと引き締まった感じ。
「電気……だったのだろうか」
「あ、あはは……」
ご、ごめんなさい。セレネローザさん。
私の新しい身体のことだし、ちょっとずつ慣れていかねばならない……。
そんな私の申し訳なさと裏腹に、セレネローザさんはなんだかぶつぶつ言っている。
「ひょっとして、電気風呂、などというものがあったら人気になるかもしれない……?」
――なんだかテンションが上がっていた。
「……待て。電気風呂、すごい発明な気がしてきたぞ! 考えついたのは私が最初か!?」
それは実はもうある。
「くっ! この私が技術者としての道を究めていれば、実現もできたのではないか!? ……いや、風呂商にかけあえば……」
もうあるってことは黙っておこうか。水を差したくねえ~。
そういえば昨日お風呂に入ったらしい三人も、タオルとバスローブを用意したら「すごい布だ!」ってはしゃいでた。女湯からも聞こえたんですよ~。
それを作って売るための手段を考えていたらしい。
風呂はアイデアを生む効果があるのだろうか。
ちょっと身に覚えがあるぞ。
銭湯上がりの帰宅途中、いいアイデアが浮かんだりして、立ち止まってスマホにメモを取っていたのだった。
わかる、わかるよ。
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ラノベかアニメになったら確実に絵がつく場面だと思っているけど、お色気展開は一般に思われるよりも人を選ぶタイプの様式美だとも思っている
書籍化などがあったら編集者との話し合い如何で盛るかもしれない




