ズボラな家の冷蔵庫の奥って「歴史」が詰まってるよね
ちゅんちゅんちゅんちゅんぴーよぴよぴよ。
鳥のさえずりで目を覚ます。
ウオオ……ここどこの現場だっけ……。
日光のもとに出てソシャゲ周回しなきゃ……。
私はややケモナーなので、レベルとかスキルを上げるキャラは、どのゲームも少ない。だから、らくちん。
どこだっけ私のiPhoneSE(愛称:ポチ)。
って。
「ここそういえば異世界だった」
『おはよう』
「うわあああああっそうだ私はドラゴン」
『……。受け入れるんだな、いい加減』
「はい」
私はまず、朝食をとる事にした。
「サラダとかも、作れるかなあ……ていうかドラゴンの主食ってなんなんだ。やはり肉?」
冷蔵庫を開ける。
中には宇宙が広がっていた。
「ん?」
私は冷蔵庫の中に吸いこまれた。
まわりの空気がすべて、そこに流れこみ、後ろから私を押してくる。
私は射出され、宇宙空間へと飛びだしていた。
音を、置き去りにした。
加速している。
瞬きの間で、すべて起こった。
「~~~~!? !?」
声が出ない。
え!?
なに!?
(うわあああああああああああ!!?!?)
宇宙。
本当にあの宇宙。
360度暗闇の、あちこちに星がある世界である。
なになになにこれ! なにこれなにこれ!(ここでDJがレコードにスクラッチをかけキュッキュさせる幻聴)なにこれなにこれ!
大きな輪のある星が、近づくにつれて極大となる。
私はその脇を通り抜けていった。
空気抵抗がない、速すぎる飛翔をしている。
(ヒイイイイでもなんだか燃えそう!!)
さらにきらめく彗星がいずこからあらわれ、私とともに併走した。
しかし、すぐに近隣惑星の重力に引き寄せられ、離れていってしまう。
(友よーーーーっっ!! 私を置いていかないでーーーーっ!!)
そして私もまた、引力を感じる。
急に、どこかへ投げこまれた。
(ぬわあああああああああ)
なにかを蹴散らし、がらがらがしゃああああん、と音が鳴る。
いろんなものが飛び散って、床に散弾のごとく降り注いだ。
ぐおあああああああああっっ。
あちこち身体が痛む。
感覚がぜんぶ混乱している。
平衡感覚などは特にぐるぐるである。鼓膜は大丈夫かわからない。目は当然のごとく回っている。
な……。
なんだっ?
何が起こったんだああああ!?
身を起こしてみると、周りは、暗い部屋だった。
……人が住んでいる部屋のようだった。
缶のごみはビニールに詰められ、瓶も同じようにしてある。
壁のあちこちに映画のポスターがあった――目が回っているので、ぜんぜん焦点が合わない。
「おお、来たかあ~」
誰かが、声をあげた。
「!?」
壁に向かった中央には、大きな机と、3DFPSオンラインゲームの画面が映ったモニター、PC、キーボードがある。
その女は、ソファに座ってゲームをやっていた。
耳には金色のヘッドフォンをかけている。
いかにも風呂上がりそのままというような、黒い下着程度のだらしない格好である。
が――ギリシャ彫刻のごとき美人であった。胸はデカい。
なっ……にいいいい……!?
「ユスタ・ルゥ・ヴェルセレレイイス、だよね?」
「!? なんで私の名前をっ……あ。すいません、はじめまして、取り乱しました申し訳ございません」
「私はあの世界を作った女神なんだけどお~、あっ敵ッッ!! 敵きた敵!!」
一瞬でモニターに向きなおる。
もの凄い集中力でゲームの操作をしていた。
画面では敵を撃ちまくり、キーボードを叩き、瞬時の判断でFキーを押して味方と連携、なにやら敵を二名倒していた。
あ、さらに倒して三名になった。『TRIPLE KILL』の文字が画面に表示される。
う、うまい。
彼女の髪が舞いあがった拍子に、私はふと、その髪を束ねるリボンだと思っていたものが腕時計であることに気がついた。
……普通のオシャレってわけじゃないな。
「ふう。失礼。……ここにあなたを呼んだのは、私だよ。強引でごめんねえ」
「呼んだ、とは?」
「すっごい、ぶっ飛んでここまで来てたねー、デュアルモニタで見てたよ」
「……ゲーマー女神……?」
「そ。……あなたが地球で死んだとき、勝手に、魂とか記憶とかを持ってっちゃったの。ごめんね」
「!!」
「おわびも兼ねて、一度話したくてね」
これは――なろう系の作品に、たまにある展開だ。
死亡の直後~転生までの間に、決まって「女神さま」なる存在が出てくるやつ。それである。今のこれは、転生したちょっと後に出てくる珍しいパターンだ。
どういう展開が、そこで起こるかというと――
「召喚の意図とかを説明しないと、ほら、申し訳ないでしょ? こっちとしてはさ」
「な、なんなん……。……お聞かせ願えますか?」
「へへへ」
そのとき、向こうの扉が開いた。
扉とは、怖いものだ。
何が出てくるかは、わからない。
そこにいたのはもう一人の女性――おそらくはまた女神。
白い虎の獣人である。
手に持ったお盆の上に、飲み物の入ったグラスを4つも持っている。
白い布がゆったりと胸や腰を隠していたが、そこから見える胸がやっぱり大きい。腰がでかい。尻尾がモフモフ。
しかし、それら個々の特徴よりも、むしろ全体を構成する流線の美しさや、ときおり骨格がアクセント的に見え隠れすることのほうが、エロティックである印象を受けた。
……そういう風に、その全身は完成している。
「あんまり説明しない方がいいよ、あんた。彼女のためにならないよ」
「え~」
虎の女神はテーブルに飲み物を置いて、ソファに寝そべった。
脚の関節は獣のそれである。
「はじめまして。バランスボールあるよ、ユスタさん」
「あ!? え、はい!?」
「今いる世界じゃ、しばらく使えないかもしれないからね。座っていけばいい」
彼女は、私の横にあったバランスボールを示した。
私はおずおずとバランスボールに座る。
ぼよんぼよん。
(……)
緊張感があって、まったく楽しくなかった。
転んだりしたら怖いよ。
なんだか、さらにここの物品を壊しそうだもの。
「まあ、召喚の理由なんて、シンプルなんだけどね……」
虎のほうが言った。
「このゲームばっかりやってる彼女のために、スパ施設を作って欲しかったの」
「え!?」
そ、そんな理由……!?
「楽しい銭湯があれば、ちゃんと風呂入ってぐっすり寝て、健康的な生活をしてくれるかなーって、ね。宿泊のためのホテル施設もいっしょにお願いすることになるだろう……って話だった。私たち、贅沢が好きだから」
ん。じゃあそれって……。
今、私は意図せずして、ほぼ達成してるってことでいいんだろうか。
「まだまだやるべきことはあるよ。建物には、レベルアップのシステムがあるんだからね。まだ発展途上のはず」
「あ、はい!! ……そうか……!」
まだ満足してはいけない。
「薄々思ってるだろうけど、呼んだこの場所は、神々の国ね」
「は、はい」
「なんでもできるから、かえって、どんな楽しみも飽きてきたところなの。ありていに言えば『自分たちの考えつく限りでの自由』とは別の遊びを下界でやりたい――うん、まあ、わかってるんだよ? 不健康って抜け出せないよね。わかるでしょ」
「わかりますわかりますほうれん草とかモリモリ食べてました」
「自由、万能、余暇いっぱい。……あなたのほうにも、そういう『強さ』とか『余裕』へのムカつきがあって、でも遊ぶ事それ自体は大好きな性質ってわけね。だから力をあげた」
「……」
「私たちが弱くならざるを得ないあの世界に、あなたの思う楽しいものをいっぱい作ってほしい。それだけだよ。こいつのためにも」
「お願いね、ユスタちゃん」
ゲームをやってるほうの人間女神が言った。
「力の使い方、わかってきたでしょ?」
「手探りではありますが、そこそこに」
「あはは! いい子」
「私たち、どっちかがそれぞれ『必然<フェイト>』『偶然<チャンス>』って名前を持ってたけど、今はどっちがどっちだかわかんなくなっちゃった」
「どっちが姉なのか妹なのかもわかんないんだよ。『時間』よりも前だったし。うちら」
「まあ、好き勝手やってください。ユスタちゃん」
「が……がんばります」
ゲームをやっているモニターに、何かが転がりこんでくる。
敵の投げたフラッシュバンだ。
閃光で目を焼くゲーム内の投擲武器である。
それが炸裂し、画面を光で白く染める――
――気がつくと、私は執務室のおふとんの中にいた。
そう、朝のおふとん。
……。
夢だった、ってか……?
いや。いやいやいや。
今のは絶対、夢じゃなかったぞ。
「忘れよう」
『ん? どうした? なんかボーッとしてたな』
「忘れるんだ……私」
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