おかね 第一章
前話から続く場面です。
ATMにはいくつかのタッチメニューがある。
『これはどういう機械なのだ』
「お金を預けて、引き出すためのものなんだけど」
通帳と、カードがないと、取引はできないはず。最低限、カードだけでも取引できたっけか。
でももちろん、そんなもの、今は持っていない。前世の世界に置いてきました。
……あ。
待てよ。
ひょっとして……。
スキル『神秘の材料』、使えるのか?
作ればいいんか?
よし。
私はツノでATMに触れてみた。
こつん。
『うおおおおなにしてるっ!?』
雷光がほとばしった。
閃光が部屋を満たした。
ハンマーがなにか悲鳴を上げたが聞こえない。頭の中の声なのに……。
そして。
――機械ががごがごと音を出す。
すると、カードが出てきた。
通帳も出てきた。
ご丁寧に「ユスタ・ルゥ・ヴェルセレレイイスさま」と、両方とも記名されている。
「できた」
『……ほう! おもしろいからくりだ。あーびっくりしたー』
「予想以上に、この能力は強いかもしれない……」
『冷蔵庫とやらがあれば、飢えも実質ないだろうしな』
「それは冷蔵庫を用いた電力の変換効率によるの、かな……?」
電力がそもそも有限なのではないかと思う。
また「自分の電力切れ」と「食糧不足かつ腹ぺこ状態」が、ほぼイコールである可能性もある。
それは詰み状況だ。ゲームオーバーつまり死に向かうだけ。
こえー!
……。あ、それでスキルの表記にあった「自分めがけて雷がよく落ちる」を狙って使うのか……?
死にかけたら雷に打たれればいいんですか?
それ、怖くない? ……考えないようにしよう。
私は、通帳を見てみた。
「口座の額が、書いてある。銀貨6枚」
たしか、あの三人の男性は、帰り際、ホテルのフロントにて、売り上げを払っていった。受付ネコの一人が徴収したのである。
そして通帳には、その合計分がぴったり、記載されている。
「ホテルの売り上げを、記録してる」
『引き出して、金に換えるからくりなのか。……! 銀行の業務を肩代わりしているってことか……!?』
「うん。でもお金として引き出さなくても、使い道はあるみたいだね……」
私は滝のモニターを見た。
――――――
ホテル雷竜荘(仮)
Lv:1
レベルアップに必要な経験値:あと70
※経験値は、売り上げ/防衛経験 から成る
Lv2の恩恵:
敷地が拡大する
――――――
そう。
売り上げは、ホテルのレベルアップ、つまり成長に使える。
たぶんこのATMで出し入れするところの口座から、引き落としになるだろう。
レベルアップとやらが必要かどうかは、よくわからない。
が、ゲーマーだと、それが絶対的に正しいことなのはなんとなくわかるのがレベルアップって言葉だ。
ゲームの話ではあるのだが――経験上、レベルの必要性を感じるときは、たいてい、レベルが足りないことを実感した時、である。足りなくなってからでは遅いもの。
なんとなく、レベルアップ、やってみたい。
薄々、システムはわかってきた。
面白そうだ。
……。
ところで。これって……。
さらにATMに電気を流して「お金」そのものを増殖させることってできないだろうか。
試してみる価値はある。




