執務室ってなんすか
「また、掃除の進捗ですが……」
「あ、うん! 聞いてるよ聞いてるうんうん」
「先ほど、地下の部屋のひとつから、灯りに驚いたコウモリがブワーッっと出てきた、との報告を受けております」
「……ヒエッ……」
「今は近隣の森に消えたようですが、くれぐれも通らない方が……」
こわい。
「また、当ホテルの執務室を整えました」
「おお」
「すぐに使える状態になっております」
「おふとんはありますか……?」
「あります」
ここ古城なのに。
そういえば私の能力の性質を考える上で、気になることはある。
この城は、見た目はイギリスやアイルランド(日本だと我が故郷アイスランドと一字違いで間違われがち)系だった。
だが実際には、なぜか、和風と化していたエリアが一部にあったことだ。
料亭とか、昭和な字体の扉とか。
あれってなんなんだろ。
私が能力を用いる以上、私の中のイメージによって建築物が建つ、ということだろうか? 実際にあった建築物ではなく。
なら、出てくる城というものも「外国にかぶれた日本建築」もしくは「日本にかぶれた外国建築」を建てることになるだろう。私自身が日本で暮らしていたので、その文化をひきずってくる、ってことになる。
「ご案内いたします」
私は地下への廊下を通り、階段を降りる。
あの暗かった地下一階廊下を歩く(爪がかちかち鳴った)、その執務室に入った。
「わああ……」
部屋は一言で表すと、SFっぽかった。
ここにある普通の物品といえば、古めの机くらい。大きくシックな木材で、回転椅子つき。
ここまではいいのだが……。
その横には、ガラスの中に水が流れて滝になってる壁がある。モニターとして、さまざまな画面を映している。タッチスクリーンなのかも。
そのほかは、なぜかATM(信じがたいが、あのATMだ)がスミッコにある。
これは国で喩えることができない文化圏の建物である。……だからSFと喩えるしかない。
確かに、地球の建築の概念ではあるだろう。
けど、こうなるとフィクションでしょ。
……。「私」を通してイメージが出てくるっていう説は確証が強まった。
こ、この部屋が、私の脳の中にもあるんですか……!?
「冷蔵庫は機能しているようです」
「え……あるの?」
「あります」
「便利……」
「中身も、オレンジジュースやコーラなど、一通りあるようです」
そのあたりも、ネコたちと同じく、この能力でくっついてくるのかな。
「では、私は調理室と冷蔵倉庫の点検をしてまいります」
「いってらっしゃい、ありがとう。落ち着いたことだし、ゆっくり休んでもいいのに……」
「恐縮です」
メイドは去っていった。
休む気はなさそうである……。
さて。
ここは執務室だが、本当に私の自由にできる空間、ってことでいいのかな。
わくわくするぜ。
『あ。今まで、大事なこと忘れてた』
今はしまってあるハンマーが、脳みその中の声にて、ひとこと言ってくる。
『ステータス、と声に出して言えば、自分の持っている能力を調べることができる』
「え、本当? やってみます」
私はすぐのせられる。
いや、本当に「なろう」の世界だな。これ。
「ステータス」
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ユスタ・ルゥ・ヴェルセレレイイス
ライトニングドラゴン Lv:1
スキル―――――――――――――――――
建築王:アーティファクト「建築王のハンマー」を所有する。自身のレベルアップが不可能となるが、その代わり、建てたものが経験値を得てレベルアップする。
神秘の材料:電力を要求する建築物や設備・備品は、追加の電力を消費することで、中身(冷蔵庫なら食品など)を生成し、補うことができる。<種族特性+スキル「建築王」の派生補助スキル>
充電:睡眠もしくは食事によって体内電力を充電する。電気を直接受けても可。自分めがけて雷がよく落ちる。<種族特性>
パンケーキだいすき:パンケーキを五年間食べないと死亡する。<前世からの引き継ぎ>
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ふむ。
なるほど。
へ~。
私は冷蔵庫を漁った。
山のように、袋入りのパンケーキがあった。
横にあった電子レンジで暖めはじめる。
「なんかさ」
『うん』
「最後の、なに?」
『最後……ああ、私でも見れるみたいだ。私がお前の所有物だからかな。ふむふむ』
「いやさパンケーキは好きだけど!」
なんか……こう!
スキル見ていたら「ふむふむこういう能力なのね~おもしろいな~どうやって活用しようかな~」と考えてたさ。
スキル「神秘の材料」は、冷蔵庫の中身を生成することが、できるらしい。すごい。
……なので、パンケーキを五年間食べられない状況はありえない。
でも!
でもさ!
なら、なんのためにあるんだよ最後のこの部分!
絶対にメリットではないし、かといってデメリットとしても比較的対処はできそうな、その微妙な効果は何なんだよ!
ペナルティ自体は死亡だから微妙な緊張感がある!
実質としては、字面の強さで、そこでただ存在感を放っているだけでしょ。
『しかもこれ、前世から存在していたようだな?』
「前世ってつまり、元の世界で暮らしていた時……ですか?」
『そういうことだ。ステータスを見る手段がないから気づかなかっただけだろう』
見えない罠……!? それ抱えて人間として暮らしていたのか、自分は。
まあ……うん。
確かにパンケーキ食べられないと死ぬかもしれん。
人はパンケーキがないと生きていけない生きものだからな。
もちーん。
電子レンジが、暖め終わったようだ。
私はパンケーキを取りだして、食べた。
うまい。
これであと五年は生きられるわけだ。
「パンケーキないと、生きていけないよぉ……」
あっあっあ、つい言葉が出た。
やはりマジかもしれん。
気をつけよう。
で。
ここにある謎のATMについてですが……?
私はおしぼり機から出てきたおしぼりで手を拭くと、それを調べた。




