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セレネローザ・ライルハイトの王命による探索 その2

「さあ、『卑剣』。提案がある」

 リーダーが近づいてくる。

「剣を捨ててこっち来たら、腕一本で済ます。復讐ってことだが払いはよくなかったしな。……こっちに来なかったら3秒ごとに矢を放つよ。切り刻むのは――全身になるだろうね」

「回復<ヒーリング>」

 私の言葉で、弓を持つ盗賊二人が矢を放とうとした。

 しかし。

「魔法って見たことあるか? 鼠ども」

 私は、手で印を結ぶ。

 その手を「敵に対して」向けた。

「えっ」

「あ……?」

「この基本にして頂点の回復魔法は、第一級禁止魔法である。つまり――使い次第、近親者含めての死罪とされている」

 盗賊たち三人の髪が、ヒゲが、伸びはじめた。

「あっ……!?」

 弓を取り落とした。

 彼らの指が伸び、目が新たに生え、森の木々の枝が伸びる。

 周辺を巻きこんで、混ざりあっていく。

「うっ……うおあああああああ!!」

「ぬわあああああああああ!! あ、あああああ!?」

 おそらく、火弾や氷矢くらいには、充分に対処の用意があるだろう。

 だから、こうする。

 彼らの髪が、ヒゲが、指が、周辺の枝や草と絡み、伸び、融合をはじめた。

 彼らだったものの肌、その表面には花が咲く。木の枝は葉を伸ばすと紅く染まり、枯れ落ちて、また生える。

 肉が膨れ、三人の境界がなくなる。

 回復は止まらない。

「うわああああああ! たすけっ! やめろおおおおおっ……!!」

「――徹底的にいきたいのだが」

 私は両手を叩いた。

 ぱんっ。

 目の前の光景が、急に消えた。

 泡を吹いて気絶した盗賊、三人が残った。

 きっちり、分かれている。もとどおり。

「これはウソ魔法。幻術なのでな」

「う……おっ……ごおおっ……ぼぼぉ……」

「ハハハハッ……でも回復魔法を使えるのは本当。だから更生してくれ。頼むから」

 ……はあ……。

 私のライルハイト家は、もともとは魔法研究の名門だった。

 本当は、私も見回りの衛兵なんてものは向いていない。

 魔法のほうが向いている。

 魔法大臣、エスペリーノおばあの家は、もともとライルハイトの本流から分かれた分家だ。けれど、ライルハイト一家が「忌まれし門」扱いをされるようになり、今はあっちに権力がある。

 私はいま、魔法への接触を制限されていた。

 もっとも、こういう任務を任される立ち位置なので「幻術」などは許可済み。

 ……。

 目の前の盗賊たちからは血の匂いがした。

 殺しに対する躊躇はないのだろう。

(こいつらは勝てそうな者だけを狙う――魔法は弱い者の希望……だ)

 罰について考えるのは、私の仕事ではない。

 私は、柔らかい土の地面に火弾をいくつか撃ちこみ、三つの穴を開けた。

 そこに、三人を、頭だけ出た状態で埋めていった。

「ロープとかないからな。……誰かが通りかかったら助けを求めるように。野犬は叫んで噛みついて追い払え」

「あ……」

「気がついたのか。見張り台で酔い潰れてる警備兵の代わりに欲しい人材な気もしてきた。牢を出た後なら紹介する」

「空……に」

「空?」

 私は空を見上げた。

 暗い夜だけがある。

 ……?

 いや……違う。

 なにか変だ。

 夜闇そのものが――動いていた。

 がさがさがさがさと音がする。

「なっ!?」

「うおあっ……!!」

 埋まっていた盗賊たちが、空に浮いた。

 !?

 黒いコウモリの群れが、彼らをつかんでいた。

 空へ連れ去っていく。

「なっ……なんだっとおおおおお!?」

「ぬわあああああああ!!」

 ……ちょっ。

 なん……何だそれは!?

 私には、まったくコウモリが寄りつかなかった。

 なぜかを考える間に、三人は空へと消えた。

「くそっ!」

 コウモリが飛び去った方向は、かろうじてわかる。

 私は森を駆けた。

 あんな奴らでも、一応は人だ。

 ――助けなければ!

(私がさらわれなかったのは、なぜか?)

 三人は軽装だった。

(私の鎧の重みを、毛嫌いした)

 走り続けると、ひらけたところに出た。

 あの城が向こうにそびえている。

 ……って。

 コウモリたちが飛んで行くのは、まさにその城だった。

「!?」

 月の光に照らされて、情けない三名が連れ去られていくのが見える。

「なんで……その場所に!?」

 どんどん小さくなっていく。

 く、くそ。

 あのコウモリたちの巣がそこにある、とでも?

 奴らをぶちこむべきは監獄だ!

 そこではない!

「おのれェ!!」

 王国兵の威信にかけて、三名の身柄を取り返さねばならぬ。

 そして、私の調査も同時に遂行してやる……!

 私の脚から、疲れがどっとこみ上げてくる。

 しかし構うことなく、歩いていく。

「クズの身柄であろうと、勝手にしていい理由はない……ッッ!!」

 旧・人魔境界め。

 どれだけの命を吞みこんできたか。

 ――私の父だって、母だって!

 この土地の戦いのために……!

 私は歩き続けた。

 やがて、それは早歩きになり、そして駆け足に変わる。

 時間にして25分が経った頃――

 ――私は、城の外壁のもとにたどりついていた。

 息をつく。

(……まずは情報)

 まわりを歩いて、城の様子を窺う。

 すぐに、崩れかけている壁が見つかる。突貫工事ならこのようなものだろうか……?

(道具さえあればよじ登ることはできるだろうが……。道具はないし、鎧では無理だ。……私の優位は、転移による退避にある。正面からの突入でいい)

 扉を見つけた。

 私を誘っているかのように開け放たれている。

(っ……。意図はなんだ)

 こういう時は罠を疑うのが普通だ。

 ここが正門だろうか。

 中にはやはり闇があった。

(どのみちあのコウモリでバレている。ならやはり――突入しかない)

 今のところ、迂回する道は見つからない。

 人命を優先するべきである。

 ……いや、違う。私の個人的な考えとして、優先したい。

 私はもう、城の情報を国に届けた。だから私が散っても、王国は第二第三の斥候を送ることができる。

(私一人の命なら……)

 かつん。

 中から、音が聞こえた。

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