セレネローザ・ライルハイトの王命による探索 その1
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この私、セレネローザは森を進んでいた。
実地調査の王命のためだ。
(さすがに暗くなってきたが……夜闇に紛れられるな)
あの雷竜と、謎の古城の脅威は無視できない。
それにしてもまさか、この森に、一日に三度も向かうだなんて……。
私にも、疲れはある。
有事に備えて体力を残しておくよう、部下に言っている私だが。……今はまさに、その有事だろう。
(くそ。情けない。……しかし休むわけにもいかん)
これでも、一番楽な動きをしている。
城を出てからは馬車を呼び、車内で仮眠を取りつつ森の入り口まで来た。そこからは、徒歩だ。
帰りの馬は用意しておくべきだったのだろうが、森の入り口から少し逸れると、宿がある。
おそらくあの馬車も、今日はそこに泊まるのではないか。馬車を引く馬ではあるが買えばいい。
ただ、その宿については、よからぬ噂を聞いている。
盗賊とつるんでいるらしい。
宿に商人の一隊が泊まったとき、宿の主人は森の盗賊に情報を流すという。
あとは、その盗賊たちは、商人らをじっと待ち構える……というわけだ。
まあ、あのおんぼろ馬車なら何事もないだろう。
宿の主人も盗賊も、しっぽさえ捕まえれば、憲兵に突きだしてやるのだが。
(城の情報を集める。転移さえあれば、無理はきく)
エスペリーノ魔法大臣に供与を受けた簡易転移は、馬の脚にして45分ほどの距離を短縮できる。
が、戦いになった場合に備えて温存しておきたいのが本音だ。
今日だけですでに2回も使っている。
……。
私は雷雲を背後にそびえる城をにらんだ。
カミナリがとどろいた。
それは城の石でできた表面を照らしだし、カラスがわめく。
――恐ろしげである。
しかし、戦士の使命とはそもそもが、恐怖を踏み越えることである。
(魔王軍め、待っていろ)
その時。
ひゅん、となにかが頬をかすめた。
「っっ!!」
私はとっさにしゃがみ、小石を拾い、振り向きざまに投げつけていた。
「くっ!」
「うおおお!? あぶねえッ!!」
「盗賊どもかっ!! 引きちぎって鳥の餌だお前らっっ!!」
私の前には三人の盗賊がいた。
軽装である。金がないのだろう。見ればわかる。
木々の合間に隠れ、暗い中、私を狙っていた。
私は剣を抜いた。
鞘から引き抜くその動きで、矢を二つ弾く。
「もう効かんぞっ! 不意打ち失敗だな! 貴様らを待つのは牢か死のみ、だ!」
「反応早いもんだな。こんなところに何しに来たんだかね、見回りが一人で」
男が前に出てきた。
刃先の短いナイフを持っており、簡素ではあるが実用性はありそうな丸形盾を構えている。
歩みを見れば、体幹の安定がわかる。実力はあるだろう。
(単刃踏破流のかまえ――ゼテア=ヌンの出身か?)
……くそ。
鎧を着た、しかも国の従僕たる私を襲うことそのものが、相当にイカれている。
私はいま、任務を帯びているのに!
「金目当てか? 見ての通り、なにもないぞ」
「俺の友達が、お世話になったみたいでな。今は檻の中にいるどうしようもないダチだ……みっちり復讐してくれって頼まれてる。ちなみに――頬を切ったその矢、毒だぜ」
「……どうも」
ゼテア=ヌンの傭兵たちは、魔王軍と切り結んだ熟練揃いだ。
サピア王国は魔王軍との戦いのために彼らを大勢雇ったが、私は、その選択は間違いだったと思う。
……証拠はある。目の前に。
魔王軍の動きがなく戦いもない今である。断崖絶壁に剣を突き刺し往復する訓練で生き残ったような奴が、職にあぶれ、賊になっている。
(――ここで転移を使うべきか?)
……。
いや、必要ない。
私は、太古の言葉を口の中で転がしていた。
(イロス・キプテム・ドヴァーララ・コー)
魔法だ。
元は、魔物たちの音楽だった。




