内部探索 その2
この地上一階にあったのは、まず中庭だった。
植物はよく手入れがなされている。
庭の中にはチャペルの建物があって、結婚式でも挙げられそうである。
さらに探索すると、そんな中庭に面して右手にパーティ用の部屋があった。建物としては私たちが出てきた棟である。
中の様子を窓越しに見てみると、円状のテーブルを椅子が囲んでいるスタンダードなテーブルプランになっていた。純白のカーテンが、窓の両脇に紐でくくられている。元が城なので部屋が台形状という制限を受けているヘンテコさはあったが、それもまた愛嬌だ。
庭園をさらに歩くと、ちょろちょろと川が流れていた。
……元になったこの土地には湖こそあったけど、川なんてなかったのに……。
おそらくは人工の川であり、和風の橋がかかっている。
(修学旅行の京都をおもいだす。ちょうど秋だった)
どうやら、これまでの洋風エリアと和風エリアの境目になっているみたい。
橋を渡ると、和風エリアは、広大な中庭の中で完結しているようすだ――このエリアの外には西洋風の外壁があるから、ともすれば風景は不調和になりかねないのだが、そんな違和感を抱かせないための配慮はあった。木や装飾の配置によって、それとなく西洋要素が隠されているのである。気配りだ!
さらに行く。
王道というべき、数寄屋造りの建物を見つけた。それは、例の人工川の上流のほうに位置しており、あの湖へ注ぐのを問題の外壁越しに見おろす立地だった。しかし! ……その外壁もまたニクいことに、見える部分だけが日本系の石垣になっているのだ。そこだけ都合よく和風に変えるのずるくありませんか? ……風景がよくなっているので、別にいいけど。
建物に近づくと、その玄関の横に「料亭」の字が掘られた石が鎮座していた。
おそらくこれは、店名を表す看板の役割だ。
が、かんじんかなめの料亭の名前は、そこから先には書いていない。どこにもない。
「これは、もしも料亭を運営するなら、自分で決めていいのかな」
『おそらくは、そうだろう』
「とはいえ、出す料理もないのに、名前を決めるのもね」
私は――。
兄のことを思い出した。
日本の料亭で修業をしていた兄だ。
「……」
『? おい、どうした』
「あのさ。私が死んだときなんだけど」
私はあの、建築現場での地面の陥没を思い出した。
「高層ホテル……つまり大きな宿の建築をしていたところだったんだ」
『大きな仕事をしていたのだな』
「うん。たくさんのお金がかかってた。それになにより――兄さん。アイスランド人でありながら日本に帰化した板前……つまり料理人なんだけど、そこの和食料理の、副リーダーをすることになっててね……」
そこまで言って、私は――凍りついた。
あの時。
兄は、私が頑張っている現場を見学に訪れていたはずだ。
無事だった、だろうか。
あの地震で、なにもなかっただろうか。
……。
考えても仕方のないことだ。
兄さん。
無事でいてほしい。
と。
中庭の向こうで、何かが動いた。
……え?
あの川を隔てて向こう、元いた洋風エリアのほうだった。




