五山の送り火に決意表明を。
「五山ねぇ。何で5つなのかな? 5つ一組なもの多いよな。人の指が5本だからか?」
カーブ、シュート、フォーク、チェンジアップ、まだよく知らんが変化球も5本の指のちょっとした握りの違いが決め手だ。
ハイタッチの英語ハイファイブも指5本全部上向きだからそう言うのかな。
5つの山、5つの指。五指に入るって言ったらトップ5位以内ってことだ。
投球を止め、手のひらをぐーぱーしながら足元に置いていたスマホを取り上げた。
「五山とは」と検索してみる。
禅宗の寺の格付け? なんだそりゃ。
鎌倉五山、あ、これだ、鎌倉五山が愛華の書いてた「建長寺、円覚寺……」てやつ。
五山の送り火、大文字山、妙法山、船山、左大文字山、曼荼羅山。
愛華が出したヒントの共通点は5つの山。
ハイタッチはハイファイブ、5つの高いところ、高い、山?
もしかして素直に、5つの高い山の中で仲間外れを探せってことかよ?
日本の5つの高い山は、富士山、北岳、奥穂高岳、間ノ岳、槍ヶ岳。
富士山以外はみんな日本アルプス。じゃあ富士山が仲間外れ。
愛華の好きな男は「藤さん」?
いくら愛華が物知りでも、世界ってことはないだろな?
とりあえず検索してみる。
地球上で一番高い山5つの中で、仲間外れを探すとしたら。
エベレスト、K2、カンチェンジュンガ、ローツェ、マカルー。
わけわかんない山名の中で、K2ってなんかカッコいいよな。ゴッドウィンオースチン山って別名もあるけどさ。
どこにあるんだっけ、パキスタンのほう?
ネパールじゃないんだ。あ、カラコルム山系。ヒマラヤじゃない。
世界の高い山10位まで全部ヒマラヤ山系なのに、K2だけが違う。
見事な仲間外れだ……。
そこへ愛華が家のほうから公園に入ってきた。
今日は塾はなかったらしい。
「今晩うちで、夏の甲子園残念会やるから来てねってお母さんが」
「はあ? 慰められたくなんてねぇよ」
「ま、いいじゃない、航大の好物のちらし寿司をたんまり作っちゃったらしいから」
食べ物に釣られるのも情けないが、実はおばさんのちらし寿司は絶品だ。
「私も錦糸卵作ったんだから食べにきてよね」
「おう、わかった。食べてやるよ。じゃ、一旦家帰ってシャワー浴びるわ」
「そうして。汗と泥まみれでしょ」
愛華が笑う。笑ってると美人というより可愛くて、昔から何も変わっていない気になれる。
愛華のほうに数歩踏み出して立ち止まった。
「なあ、お前の好きな男って、イニシャルK・Kか?」
愛華は今まで見たことない無表情で固まった。
急に心配になりもう数歩近づいて「おい、お前、息してるか?」と声をかけた。
そこで小さく身震いしたかと思うと、愛華は肩で大きく息を吸ってから、
「やっとそこまで辿り着いたのね、遅いよ」
と言ってくるりと背を向けた。
「K・Kか、誰だろな?」
オレが後ろで呟くと小声で「バカ」と聞こえてきた。
「いい加減自覚しなさいよ、自分の頭の良さも好かれてることもねっ!」
愛華は駆け足で行ってしまった。
オレは、「頭の良さ? 好かれてる?」と首を傾げながら家に帰った。
スマホで検索しただけで、考えて出した答えじゃない。
オレの頭がいいなんてオレ自身が笑いたくなる。
裸になってシャワーの下でやっと、絶え間ない水滴が熱く乾燥した肌を潤すように、何もかもが自分の身体の中に浸透してきた。
「ウソだろ、K2って、Kota・Katagiriかよ……」
その夜、谷崎家でオレは借りてきた猫状態になってしまい、折角の錦糸卵の味も憶えていない。
愛華も似たようなもので、「ちらし寿司堪能し損ねた~」と後で打ち明けてきた。
ただ、8月16日、曼荼羅山にオレンジの松明が鳥居型に走った時、愛華の浴衣の肩を掴まえてファーストキスをいただいたことだけは、ここに報告しておく。
ー了ー
最初から答えわかってたよぉという皆さま、石を投げないでください。
頭の体操にはなったと思うので。
主人公ふたり、初出の童話で既に結婚しちゃってるんですもの、ごめんなさい。




