「ぬいぐるみたちのゆめのなか」
❅冬の童話祭2024参加作品です。
「おやすみなさいー」
「おやすみ、あこちゃん」
ぱちん、とその部屋の灯りが消されるとしばらくして静かな寝息が聞こえてきます。
すー、すー……。
「……あこちゃん寝たかな?」
「うん。よく眠ってる」
「うふふ。あこちゃんの寝ている顔ってかわいいね~」
さあ、誰の会話でしょう?
答えはあこちゃんの横で一緒にお布団に入っているぬいぐるみたちです。
「あこちゃん、どんな夢見てるんだろうね~」
うさぎのぬいぐるみさんがあこちゃんの寝顔を見ながら言いました。
「きっとゆめのなかの国で遊んでるんだよ」
ねこのぬいぐるみさんが答えました。
「ゆめのなかの国?」
首をかしげたのはいぬのぬいぐるみさんでした。
〖『ゆめのなか』の国とは誰もが行ける、世界の何処かにある国〗
「にゃのさー」
ねこのぬいぐるみはあこちゃんの隣で自慢気にそう説明しました。
「じゃあさ」
「ぼくたちも行けるの? 『ゆめのなか』の国に」
「うーん、多分ね」
ぬいぐるみたちの会話はいったん止みます。
うさぎのぬいぐるみさんも、いぬのぬいぐるみさんも考えています。
ねこのぬいぐるみさんはと言うと……。
すーすー。
いつの間にかあこちゃんと同じように眠っていました。
ぬいぐるみも、眠るんですね。
ぽん!
「あれ、ここどこ?」
いぬのぬいぐるみさんがハッと気付くと、そこは不思議な色をした空が天にありました。
「いぬさん、こっちこっち!」
「あこちゃん!」
呼ばれて振り向いたいぬのぬいぐるみさんは驚きました。
不思議な色をした木の下で、あこちゃんが嬉しそうに自分を呼んでいるではありませんか。
「あこちゃんー!」
いぬのぬいぐるみさんは大きく手を振って駆けだしました。
そしておもいっきりあこちゃんに抱き付きました。
「いぬさん、いっしょにあそぼ!」
「うん!」
いぬのぬいぐるみさんはあこちゃんの手を握ってうなずきました。
いつもは動けないぬいぐるみの自分が動いているのが不思議ですが、何より大好きなあこちゃんとこうして手を繋いで遊んでいる。
それが信じれません。
これがねこのぬいぐるみさんが言っていた『ゆめのなか』の国なんでしょう。
隣を見るとうさぎのぬいぐるみさんも、ねこのぬいぐるみさんも一緒に笑って遊んでいます。
「あこちゃん、あこちゃん大好き!」
「わたしもみんながだいすきよ!」
あこちゃんの腕の中でねこのぬいぐるみさんといぬのぬいぐるみさん、うさぎのぬいぐるみさんの笑い声が『ゆめのなか』の国に響き渡りました。
すやすや……。
あこちゃんのお母さんは眠っているあこちゃんの腕をお布団の中に入れました。
「うふふ」
「あら、どんな夢見てるのかしら」
そしてあこちゃんの部屋を後にしようとした時。
「「「あははは」」」
あこちゃん以外の笑い声が、聞こえた気がしました。
あこちゃんのお母さんはびっくりして振り返ります。
でも、あこちゃんがベッドで眠っている以外はだあれも居ないのです。
あこちゃんのお母さんは何だか懐かしい声を聞いたな、と思いながら部屋の扉を、そっと閉めたのでした。
お読みくださり、本当にありがとうございます。