第七話...初任務へ・朝
ヒトカラ、五時間はつらいね
午前五時頃、先道海時、起床。
水面台に向かい、歯磨き粉と歯ブラシを手に取り、チューブ絞ってブラシに付けて口に入れ、三分間磨く。
コップに入れた水を口を含んでうがいを終え、口に含んだ水を吐き出すと置いてあるティッシュで口を拭き、ゴミ箱に捨てる。
シャワーを浴び、鏡に向かって立ち、ブラシで長い髪を梳かす。
自室に戻って寝巻きから外着に着替え、キッチンでホットミルクを一杯飲むと屋敷を一人後にする。
五時三十分丁度、エクレシア=エルヴェール、起床。
洗面台で歯磨きと髪の手入れを終えるとキッチンに向かう。
ダイニングキッチンで食パン三袋を置き、冷蔵庫から卵を一箱取り出し、黄色いエプロンを着ける。
半目を見開き、珈琲豆が入った袋を片手に持ち、コーヒーミルをテーブルに置くと珈琲豆を挽く。
圷堵はイルカの様な半分寝ているのではなく、毎日の様に同じ行動しているから身に付いた、器用な奇行。
喫茶店出身な事もあり、育ての親であるカフェが子供達に教え、十人全員が珈琲を淹れる事ができ、味は専門店にも劣らない。ただ、圷堵以外、皆が自分の為にしか淹れない。
淹れるとしても、兄妹達に振る舞う時だけ。
IHの電源を入れ、6に設定。油を引いて広がると卵二つを指に挟み、フライパンに軽く叩き付ける。
割ると殻が入らない様に気を使いながら、目玉焼きを作る。
戸棚を開けて皿を出し、目玉焼きを乗せてレタスを皿に盛り、トマトと予め茹でていた卵を刻み、乗せる。
六時頃に帰宅した海時が買って来た魚六匹を捌き、刺身する。
六時十二分頃、天龍寺圷堵、エクレシアの声で意識半分起床。
ダラダラと寝癖がついている状態のまま意識を半分眠らせたまま目玉焼きが乗ったトーストを口に入れ、噎せる。
コーヒーをズルズルと音を立てながらちょびちょび飲み、ホークをトマトに突き刺して大きな口で食べる。
目玉焼き、トースト、サラダ、刺身、コーヒー。コレが彼等三人の朝ごはん。
海時とエクレシアのトーストには目玉焼きではなく、バターが乗せられている。それに目玉焼きは皿の上にある。
コレは寝ながら食事している圷堵は一度、黄身の部分をホークで突き刺して飛び散った事がある。
なのでトーストの上に乗せ、一度に食べられる様にしている。
「うまっ......むにゃ......おいし...ムニャ......」
「今日が初任務だと言うのに、このダラケようか......」
「まぁ、ルーティン何でしょう」
「これをルーティンと言っても良いのかを、疑うがな」
「ずっと聴きたかった事なのですが、質問良いしょうか?」
「なんだ?」
「何故貴方には教養があるんですか?外に教育施設などない筈なのに」
かい
海時はそう言われると微笑み、自分の過去を話した。海時がいた村には図書館があり、そこで彼は必要な情報を取り入れていた。
海時の祖父は漁師であったが、動物や魔物を調べることを調べて本にして、出版していた。
異能都市から離れ、海に面していることからドワーフやエルフの旅人や、幽鬼族などの異種族が行き交う港のような役割を果たす村に住んでいた。
現在も祖父や村の住人との関わりはあり、仕送りをしてまらっている。
「昔は結構な悪ガキで、よく怒られたな」
「なるほど。貴方は村の人に愛されていたのですね」
「エルフも居たから、魔術も教えて貰ったし、俺が持つ刀はドワーフの叔母さんに造って貰った。本当に、良い場所だ」
「......」
「どうした?」
「いえ、私には分からない気持ちだったので。私は覚醒遺伝と言われるもので、生まれながら父上とも、お母様とも同じ種族ではありませんでした。それ故に親戚や他の人達からも距離を置かれ、裏では化け物と罵られていました」
「そうなのか」
「ですので、圷堵が声をかけて貰って、同じ気持ちであったであろうライアさんに影璽が声をかけて、護ろうとしてくれているのを見て、嬉しかったんです」
エルヴェール家は権力が強い。それ故にプレッシャーを乗り越える者が表舞台に立つ。
他の者もエルヴェールの性を名乗るにはと、努力して平凡を許さない。
過去に天使と交わったと言えど、殆ど残っていない天使の血が覚醒したとなっては気味悪く感じる者も一定数おり、信仰にも似た支持をも得る。
エクレシアは家や街でも奇異な眼に晒されるので、気苦労が絶えなかったが、圷堵などは種族を気にしないので絡み易い。
それに、エクレシアからしてはあの二人の方が人間離れしている様に感じる。
「用意は終わりました?」
「大丈V!」
「圷堵、ネクタイが曲がってますよ。何故そんな風に曲がるのか、知りたい位不思議です」
(弟って感じだな)
「だって難しいし〜」
「はい、コレでバッチリです」
「ありがとう」
「なら行くか」
日が建物を照らす。まだ決闘から一週間しか経ってはいない。四月の肌寒さがマシになっては来ているが、皆が上着を着て居てる。
三人でそれぞれのカバンを背負い、並びながら登校する。
学校から徒歩10分の位置にあり、商店街を進めば直ぐだ。なので生徒の殆どが徒歩で学校に登校しなければならない。
遠ければバスやバイク、交通機関の使用は認められはいるが、殆どの生徒の家は徒歩でも30分程度なので使う事はない。
一年生で使用するのは影璽とライア、春羅の三名だけである。彼らの家から徒歩で行けば三時間は必ず掛かる位置にある為、交通機関を利用している。
だが三人は山を降りるのに30分はかけるので、朝が早い。
「おいおい、ネコネコ、ニャニャァ」
「何の病気を持っているか分かりませんから、触るのは避けてくださいね」
「白猫か......いや、圷堵は馬鹿犬だな......」
「誰かと思えば、圷堵じゃないか」
「まーにぃ!」
「久しぶりだね、圷君」
腰まで長く伸びた髪を括り、女性にも男性にも見える紅井磨器伌。高校三年生でありながらエルフ帝国の襲撃で英雄となった探偵。
白い髪をストレートに伸ばし、赤い月を連想させる美しい瞳を持つ上位貴族の一人、月姫明麗。
月姫家は他の上位貴族とは違い、代々と吸血鬼族のみ産まれてくる。
夜姫家とは違い、自ら外に出た貴族と知られ、外に出た後でも権力は強く、同じく化け物と恐怖される夜姫家とは違って支持率が高い。
「そうか、廻希では無くなったからそうか」
「紅井磨器伌。死を偽造してエルフ帝国を一人で落としたと聴く、彼ですか?お兄さん?」
「は?」
「お兄さんでしたか。......えっ?」
「同じ場所で育ったんだ。義兄妹的な?」
「ああ、なるほど」
「あと〜七人くらい居るかな」
「そんな俺達の家族関係は別に良いが、お前の背負ってる物はなんだ?」
「スナイパーライフルだけど?」
「見りゃあ分かるよ。俺が聞いてるのは、何でそんな対物ライフルを背負っているのかを俺は聴いてる」
「昨日の授業は近接武器の使用だったんだけど、俺は武器を持つ戦闘スタイルじゃないから、エクレシアに頼んで造って貰ったんだ」
「煉兄さんが泣かない程度に頼むぞ」
対物魔装ライフル、その名を魔刀型砲撃力式。
圷堵は異能や魔術に長けてはいるが、スナイパーライフルの様な化学技術にはとても疎く、スナイパーの様な遠距離攻撃は得意ではない。
なので銃剣の様に、銃の先端部に装着して、槍のような戦い方ができるように工夫し、エクレシアの人脈に寄ってドワーフに作成依頼された。
ドワーフには特殊な加工技術があり、人の様に異能を扱う事ができ、高性能な武器には意志が宿るとされ、幻聴を聴く者が絶えない。
──煉。まさか峨欟煉の事でしょうか?これまた有名人が。
エクレシアはふと思う、化け物と恐れられて来た人生で客観視して過ごしていた人生では、他者をミステリアスに思った事はなかった。
でも、圷堵には底知れないモノがあり、警戒が必要だと思った。
「じゃあ俺たちは先行くから」
「じゃあね」
「またね〜!」
「我々も行きましょうか。決闘などで延長になった教官決めと、初任務があるので」
「そうだな」
体育館。そこには怒号が響いている事から、複数人が喧嘩になっている事が分かる。
声からして成人いるのは解るが、エクレシアと海時は《《理解》》したくはなかった。何故なら成人しているのは教官のみである。
──この感じ、何処か懐かしいな。
──はぁ、当たってしまいましたね。
──此奴ら、何で喧嘩してんだよ。
読み通り、喧嘩しているのは教官達。二人の予想外は二人の想像寄りも数が多いこと。
人数は12人。それぞれがエクレシアが知る超が付くほどの実力達。
喧嘩の内容は圷堵を誰が教育するかで揉めており、底なしの異力と魔力は教官にとっては魅力的なのだろう。
伸びれば自身の昇格にも関わる話なのだから。
「私が教えると言ってるんだ。私なら最高の武器をおも創れる!貴様らにはとてもとても!務まらない!身の程知らずの馬鹿共が!失せろ!」
「何を言ってるんだ?天翅?あの人の得意分野からして僕が適任だろう?普段冷たい君はキャラ崩壊じゃないか。僕こそが相応しい!」
「選んで貰えば良いじゃないですか?まぁ、私が当然選ばれますけど」
「言う様になったな!区暮?私が選ばれるに決まっておろう?」
「お前らな、そんなみっともない喧嘩してる場合があれば、少しは冷静になったらどうだ?」
「欤艴?なんでお前は落ち着いてられる?余裕か?」
「当たり前だろ?お前ら寄り、私の方が立派に育てられる。それに、私がこの中で《《最強》》だからだ」
「「あ??」」
「おいおい、おいおいおい待て待て待て。ちょっと〜待てよ欤艴。何時も大人しいお前が、何時の間にそんな面白くもねぇ冗談を覚えたんだ?お前からしたら渾身のギャグだったのかも!知れねぇが、うぜェェ!!!」
「五月蝿いなぁ!」
圷堵が喧嘩に割り込むと、皆が圷堵を睨み付ける。
が、直ぐに圷堵だと分かると膝を地に付け、頭を下げ、蹲った。その姿はまるで、圷堵に敬意を表す様に二人には見えた。
十二人は声を揃えて言った。「我らから一人、師をお選び下さい。」圷堵は頭を傾げ、数秒悩むと「全員で良いよ」と答えた。
生徒の皆が「は?」と声を漏らすが、エクレシアは胸を撫で下ろした。
余り積極的では十二人が圷堵にやる気を出しているなら、他の教官も心配は要らないので効率的ではある。
あのまま一人を選べば、最悪殺し合いに発展していた可能性が高い。
「ちゃんと鍛え上げますから、安心して三人は死ぬ覚悟をして下さい」
「天翅先生は天使ぽっいから......俺の事はGODとでも呼んでくれたまえ」
「この馬鹿......」
「時間もととうに過ぎてますので、向かいましょう」
「分かりました。先ず、手始めに貴方達が受ける任務は知っています。捕縛任務でしたね?」
「はい」
「捕縛なら残列と欤艴で文句ないよな?」
「「なし」」
こうしてアッサリと任務に着いて来る教官が決まり、今回の任務は麻薬組織の捕縛であり、危険な任務を一年に任せる事は普段はしないのだが、彼ら三人のレートが高い為、今回は教官二名の指揮の元、特例で行う。
残列、銀髪の髪の短髪女性。ダメージジーンズを履き、胸元には四つ以上ぶら下がったネックレス。
男性が日惚れる抜群のスタイルを持つが、一番彼女に眼を向けるのは頭部に生えた獣の耳だろう。
獣人族と言われ、男性は獣の二足歩行型と言う見た目をしているのに対し、女性は美形で獣要素が耳と尻尾しかない。
外では女性が多く捕らえられ、奴隷商人に寄って売られるためか、獣人族の女性にして、髪が銀色の残列は価値が高い。
中性的な見た目と声色、腰まで伸びた銀色の髪が特徴的な男性。
常に黒いロングコートを着用し、煙草を咥えている。担任になる教官の能力を情報として得ていたエクレシアが唯一能力を知らない。
彼の情報では肉弾戦等が強く、武器等を作る構築魔術が得意な事と、教官の中で指折りの精鋭とされ、実力は王族直属の護衛隊長にも勝るとされる。
これ程彼の実力を評価するのは、魔術を使用できる者が誰でも使用できる強化術の練度が高く、判断能力に長けているからだ。
強化術は施設で魔術を教えられた小学生でも使用できほど習得難易度は低い。
理由は魔術基盤の魔力通しが良いからであり、簡単で初歩的な魔術とされてはいるが、極めるのには緻密な魔力操作が求められ、イメージはチャーハンである。
「今回の任務はマフィア......ブレイクドリーマーの幹部の討伐任務があり、俺たちは周囲の警戒しつつ、構成員の捕縛を担当する」
「まぁ?言ってしまえば私達は尻拭いだね。零さざるおえなかった敵の捕縛」
「夢見る破壊者......麻薬や人身売買、暗殺、悪評を並べば語り尽くせない、最悪の集団だったか」
「ひとつだけ、質問よろしいですか?欤艴先生」
「何だ?」
「今回の討伐任務を担当するのは一年生と聞きました。誰が戦うのですか?」
「あっ俺もそれが気になってた!」
エクレシアの胸に引っかかる、嫌な予感。
それは、欤艴の吐いた溜息で三人は全てを察した。その後、ゆっくりと欤艴は討伐任務に参加させられる班のリーダーの名を言った。
「常闇影璽がまとめる班だ」
作者のキャライメージ1・レギュラーキャラ
圷堵・馬鹿犬、末っ子、赤と白
海時・狼、長男、青と黒
エクレシア・ペルシャ猫、長女、黄と白
影璽・賢い猫、死神、紫と黒
ライア・子猫、青薔薇、黒と青
春羅・甘えたがりの猫、春、桃と白