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せばすとファーストキス

というわけで、冒頭に戻る。


私が大公さまのことをこんなに調べている理由は、私がまずなんとかしないといけない人で今近づける人No.1だからである。


すぐ接触できる先生のことは置いておいて。


ちょうど先月のおわりに戦場から戻った大公の戦勝祝いパーティーが今月末に催される予定だ。


『だからぁ、今のエスタんじゃセバスチャンの言うとおり無理よりの無理つーか無理だし、ちょちょっとセバスチャンとキスして美女変化しちゃいなよ。』


「っ!しないってば!!!」


バン!とテーブルをたたいて思わず立ち上がる。


「・・何を?」


私を怪訝げに見遣ってセバスチャンが言った。


「・・なんでもないわ。」


顔が熱くなるのが分かって俯いて視線から逃げて、ソファーに座り直した。


『お互い満更でもないんだしいいじゃん、ちゅっとしちゃいなって。減るもんじゃなし。』


「っ減るわよっ!!」


「・・・何が?」


「・・なんでもないわ。」


『口と口をちょっとくっつけるだけじゃん。舌入れるんでもなし。』


「しっ!!!」


「・・・し?」


「・・・なんでもない!」


『いやー大袈裟っしょ、キスくらいでそんなそんな。』


「ぐらいじゃないわ!そっそういうのは・・もっとこう・・。」


『ああ、月明かりの下で的な?』


「そう、例えば・・そう、月明かりの下で素敵な音楽が奏でられる中で・・見つめあって・・お互いの呼吸さえも止まったように感じられるような・・ロマンチックな雰囲気で、彼の手が・・私の頬に・・添えられて・・目を・・瞑って・・。」


「・・待て。エスタ。それ以上言うな。」


ハッと我に返って口を両手で塞いだ。


視界に映ったセバスチャンの顔が再び真っ赤に染まっている。


「っ!!!」


『いやーエスタんやぁらし♡』


「ちっ、違うわ!やらしっくなんかないっ!!」


セバスチャンは額を抑えて、はぁーーーーと深いため息をこぼした。


「ああ、分かってる。お前・・ちょっと変だけど・・その・・うん。やらしくねぇ・・よ。」


「せばすぅ・・。」


布団を無理やり剥いでエッチなことをしようとした、とお父様に思われたセバスチャンは家令のオスカーからも酷いお仕置きをされた・・と、仲良しのメイド伝いに聞いた。


翌朝、私を起こしに来たセバスチャンはいつも通りで「ごめんなさい」も言ったけれど・・むしろご機嫌な感じで許してくれただけだった。


けれど・・、今後はそんな間違いがあってはならないと確信している。


じゃないと・・ちふの言うように捨てられるようなことがあったら・・立ち直れそうにない。


「その・・まぁ・・アレだ。もし・・お前がそういうことに・・その・・どうしても興味があるってんなら・・俺が・・教えてやらなくもねぇし・・。」


「・・?何を?」


『何って、バカね!えっちなことよえっちなこと!教えてもらいな!まずちゅっとファーストキスから!!』


「えっ・・・?!いっいいっいらないっ!!!」


「そう・・か・・?」


なんでちょっと残念そうにするの!!


『あーじれったー!よっし、ちょっと交代っ!』


「えっやだっ!!」


パチン


でも無情にも、頭の中でスイッチが鳴り、私は身体を奪われた。


「やっぱり教えてくれる?」


「・・え?」


『やだっ何言ってるのよ、やめて!!!』


ソファーから立ち上がって、セバスチャンの両肩の上に伸ばした腕を乗せる。


セバスチャンは私よりもずっと背が高いのに、少し膝を曲げて私の顔が近づきやすいようにしている。


そんな気を利かせなくていいのよ!!!


「ね?セバスチャン、まずはキスから・・教えて?」


ふー。と耳に息を吹きかけて私にはない色っぽさを漂わせて私が言う。


『やめてやめて!!!』


「エスタ・・エスタリーゼ・・。」


セバスチャンが私の腰を抱き寄せて、私の顎に手をかける。


私はソッと目をつむった。


『やだぁ!!!!ばかせばす!!私じゃないのに!!それは私じゃないのにぃ!!!』


セバスチャンの顔が近づいていく。


『やだぁ!!!』


と、私の唇にセバスチャンの冷たい指先が触れた。


私がパッと目蓋を開くと、セバスチャンが困ったように微笑んでいる。


「まぁ・・俺はいいんだけど、教えるとしたらちゃんとエスタリーゼに教えたいな。」


「セバスチャン・・?」


「うん、あんた誰?」


私はギョッとして目を見開いた。


同時にパチンと頭の中でスイッチが鳴った。


「せばす!!!」


がばっと抱きついてその名を呼ぶ。


「ああ。」


「せばすぅ!!!私以外の人と・・そういうことしちゃだめっ!!!」


『あーびっくりした。いや、さすが敏腕執事油断ならないわ〜つーか、エスタんそれ告白みたいになってるよ。』


「えっ?」


「エスタ・・!」


ぐいっと顔を上向かせられたかと思うと、頬に柔らかなものが当たった。


私は無様にも両手を放り出したままでお尻から抱き上げるようにセバスチャンに抱き上げられている。


そっと頬に触れたその柔らかなものがセバスチャンの唇だったと気づいた時には音もなく離れた後だった。


うっとりと私を見つめるセバスチャンと驚いて目を見開いた私は視線を重ねて見つめ合う。


ちょっと何をされたのか理解できなくて。


「・・もう一回・・しとくか?」


信じられない言葉とともに、私の唇を右から左に指の腹でソッとなぞる。


『ひぃやぁぁっぁ!えっろ!えっろせばす!!さいきょー!妊娠するぅ!!!』


とんでもない言葉が頭の中で響いて、私はようやく我に返った。


ボワっと髪が逆立つほど顔を上気させてセバスチャンに抱き上げられたままで怒鳴った。


「ばかぁ!!!!!」


ふぁっふぁっふぁっファーストキスがぁぁぁぁ!!


ぽかすかとセバスの胸を叩きながら顔をブンブン振って言う。


『いやいやほっぺたじゃん、ファーストキス除外っしょ!』


「ファーストキスだもん!!ほっぺたでもファーストキスだもん!!」


「うんうん、可愛いなエスタ。」


「かわいとか・・言うなぁ!」


「どうしちゃったのお前。めちゃくちゃ可愛い。」


「ふっ、せばす・・っもうっばかぁ!!」


「なんなの、俺の限界試してんの?」


セバスチャンは見たこともない甘い顔で私を見つめている。


でも別に何も試してはいないということだけは言っておきたい。


「ちっ、近いわ、せばす・・お、おろして・・。」


セバスチャンの息がさっきから首筋にかかっている。


「・・どうしてだ?」


「だって・・そんな近いと・・。」


「近いと?」


ものすごく見つめてくる。

どうしよう・・。

また・・また頬に・・くっついてしまうのではなくて・・?


だめよ・・こんなの・・。

だって・・。


「愛してる・・エスタリーゼ。」


再び、唇がソッと頬に当たる。


『ひやぁぁ、セバスぅ!!!うぉぉぉ、雄のセバスエロいぃぃ!!!』


ソッと再び離れた唇が少し濡れていて・・私は自分の頬に手を当てた。


これ・・は・・せばすのだ・・え・・。


『セバスの唾液ぃぃぃぃ!!!舐めとこ!!舐めとこ!!!』


「っ!!!いっ言わないでよそういうことっ!!!うぷっ!」


ぎゅっとセバスチャンに抱きしめられて言葉を胸板に飲み込んだ。


「で、お嬢さま?」


「え、なに?」


いまだ、抱き上げられたままだけれど、腕の中で顔を上げる。


「うん、お前の中にいる奴・・なんなのか、説明してくれるよな?」


「・・・えっ。」


「女だよな?俺のお嬢さまの中にいるとかスッゲェむかつくんだけど・・どうやったら出てくの?」


「ええっ、えっ、何言って・・せばす・・。」


「あーもういいから、誤魔化さなくて。もう分かってる。代われるんだろ?交代して?」


「え、やだ・・せば・・」

『やだっセバスチャンのご指名いただきましたぁ!!!はいっ交代っ!』


パチン


この交代の仕組み・・どうなっているの・・?

私の意思に・・おかまいなしだわ・・。

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