誓って!
ぽろりと涙がこぼれ落ちて、ぐうと拳を握り締めて言葉を紡いだ。
「私より・・可愛い女の子のところへ・・私を捨てて行ってしまうの・・?せばすは・・私のものでしょ・・?私のものなのに・・う・・ふぅ・・。」
「ふぇ?!え、お、おじょっ、おじょっ、なっんっ?えっおい、なっ!!」
手で両目から溢れ出る涙を拭いながら、ひくひくとと泣きじゃくる。
「私は確かに可愛げはないし・・綺麗でも可愛くもないかもしれないけど・・お前は私の執事でしょ・・なのに・・私のことを・・ふっうっ、すっすてっ捨ててっ・・うえ、ゔぇええ〜〜〜ん!!!」
いよいよ大声を上げて泣き出した私は仕方がないと思う。
だって、まだ15歳。
なりたての子供なのだ。
目の前でセバスチャンが真っ赤な顔をしてアワアワと狼狽えているけれど、もう止まらない。
「どっどどど、どうしっえっおじょっ、おいっ、泣くなって!」
『わーーエスタんのマジ泣き超激レア。スクショしてぇ〜。』
「せばすのばかぁ〜せばすのあほ〜〜せばすは、せばすは、私のなんだからぁ!!!」
「っ、なっ泣くなって、もぉ、おい、どーしたんだよエスタリーゼ!」
ガバッと強いかいなに抱かれて、思ったよりも広く逞しい胸の中に閉じ込められる。
『ぎゃあ!セバスチャンの抱擁!死ぬ死ぬ!!』
煩いわ・・。
せばすに抱きしめられたくらいでどうして死ぬというの・・?
「バカだなエスタリーゼ。俺がお前を捨てて他の女んとこにいったりするわけないだろ。」
思わぬ優しい言葉に胸の中から顔を上げる。
指で涙を掬い取られ、微笑みを落とされた。
「俺はお前のもんだ、エスタリーゼ。お前しか愛してねぇよ。これまでもこれからもサ。」
『うぎゃあ!セバスチャンのマジ告白死ぬ!悶え次ぬ!』
死なないわ・・死ぬわけないわ・・。
「・・すん、なら誓ってちょうだい。」
「え?ああ、うん、いいけど・・。」
セバスチャンは抱擁を解くと再び私の前に片膝をついて胸の前で十字を切って両手を祈るように組み合わせた。
「天地の創造神アスラに誓う。いかなる阻害が入ろうともこの身この魂は永劫に私の主君エスタリーゼ・ベルッチに捧げる。」
「・・受け入れます。」
『うっわ、リアル主従の誓い、すっご!重っ!』
すん、と鼻を啜って、でもようやく心が落ち着きを取り戻す。
主従の誓いまでしたんだから、これから先何があってもセバスチャンが私を見捨ててどこかへ行ってしまうということはないだろう。
それほどの誓いなのだし。
でも・・と、ちらりと目の前のせばすを見つめて念を押すように呟いた。
「・・絶対離れないでね・・。」
「ぐ・・っ・・は、離れねぇよ。」
「・・絶対よ・・?」
「っわぁってるよ!絶対に離れねぇ!つーかっ・・どーしたんだよお前、なんでそんなかわっ・・かっ、へっへん、変なこと言ってんだ?!」
「・・へん・・かしら。」
『変でしょー、普段のエスタんなら絶対そんなデレまみれなセリフ言わないし。』
デレまみれ・・。
『いやぁ、ツンの中にこんなデレが隠されていたとは・・セバスチャン真っ赤じゃん!ウブセバスチャン眼福なりっ!ごちっす!』
「・・・変・・でもねぇよ。・・いや、むしろ、その・・このくらいかわい・・いや、変、な方が俺好み・・いや、俺は好き・・違う、そう!お嬢さまらしいんじゃねぇの?」
「・・うん。」
「・・素直・・。」
「・・え?」
「あ、いや、なんでもねぇ。頭大丈夫か?」
「うん、もう平気。」
「・・もう少し寝てろ。旦那様と奥様に報告してくるから。」
「ん・・。すぐ戻ってきてね?」
「・・・わ、かった。」
ぼすん、と無理やりにベッドの中に押し込まれる。
セバスチャン耳まで真っ赤だわ。
どうしたのかしら・・熱でもあるのかしら・・?
部屋から出ていくセバスチャンを見送って、私は、はぁ・・とため息をこぼした。
「ちふ・・私、ちょっと眠るわ。」
『んえ?ああ、りょーかい!んじゃその間に私の知ってる情報まとめとくから後で見といてよね!』
「・・いいわ。」
『じゃ、交代!』
考えないといけないことも、向き合わないといけないこともまだまだたくさんあるし、何も解決はしていないのだけれど・・とりあえずセバスチャンと引き離されるということだけは回避できたはずなので、もうそれでいい。
ということにしておく。
パチン
頭の中でスイッチが鳴ったけれど、それ以上起きていられなくて、私は沼に落ちるように眠りについたのだった。