ひどいわ…
目の前に水が入ったコップが差し出されて顔を上げた。
「お嬢さま、とりあえずこちらを・・。」
「・・せばす・・。」
「大丈夫です、黙ってます。」
「・・ごめんなさい。」
「いいえ。」
うう・・なんか、もう・・変だわ。
冷たい水の入ったコップを受け取り口をつけて、はふ、と息を吐いた。
『セバスチャンやっさし〜♡』
「・・とにかく、ちふ、あなたはなぜ私の中にいるの?」
『あーうん、それね。多分転生ってやつ。』
たぶんてんせい。
いや、わけが分からない。
『車に轢かれて死んじゃったとこまでは覚えてるんだけどどれ以降の記憶がないから、そのまま生まれ変わっちゃったのかな?』
くるま?
なんのことかしら・・でも、なんとなく馬車のような乗り物のような気がするわ。
『よっし!じゃあここで私がこの世界の解説をしちゃいましょうか!』
何か始まったわ・・。
「せばす、お水をもういっぱいお願い・・。」
「はい。」
さすがに私専属執事になるくらいの執事だけあって、空気を飲むのはお手のもの、というところなんだろうと思う。
セバスチャンは黙って私の指示に従う。
『じゃじゃーん、ではではまずはこの物語のタイトルを発表いたします!それは略して「恋だん」!「恋にだんだん落ちていく♡」恋愛シミュレーションゲームです。コミカライズ・アニメ化、更に最近実写版映画化もしました!』
「・・・わけが分からないわ。」
こいだん?というのもそもそも分からないわ。
恋愛シミュレーションというのもよく分からないわ。
げぇむ?こみか・・?
もう全部分からないわ。
『セバスチャンも攻略対象者の1人なんだよね、あ、エスタんは悪役令嬢ね。』
あくやく・・?
「ちょっと待って、それはなんだか良くない感じしかしないわ。」
『そうだね、エスタんって実は前の王さまの弟くんの落とし胤なんだよね。それで16歳の誕生日に王家から迎えが来るんだけど、そこからすごい捻くれちゃって、やっぱセバスチャンと引き離されちゃったのも悪い影響を及ぼしたんだろうね。繊細設定だからねエスタん。』
「・・・・ちょっと待って。今なんて?」
『ん?繊細設定。エスタんって結構打たれ弱いっていうの?セバスチャンの毒舌にもいっつもぐっと堪えるだけだったじゃない?でも、王家の末端になってからはもう性格捻じ曲がっちゃって、ヒロインをイジメにいじめ抜いて、最後は最悪ギロチンで処刑されちゃうのよね。』
私は目をパチクリさせた。
手が体が震えてくるのが分かる。
え、ギロチンで処刑・・って。
それは王家にのみ許されている処刑方法だ。
いや、というよりも前王の王弟の落とし胤・・?
私が・・?!
確かに・・弟とも妹とも似ていないのは知っている。
でもお父様とお母様は今は亡きお母様方の曽祖母にそっくりだと・・。
『悪鬼大公ジンと協定を組んで謀反を企てたりもするんだけどね、ジンはヒロインに出会って愛を知り凍りついた心に温もりを取り戻すのよね、それで最後はエスたんを裏切って王家側に寝返るんだけど、そこらへんの話もすごい心打たれるんだよねぇ。』
悪鬼大公ジンって・・あの悪魔の戦神・・?
む・・謀反・・????
「そっそんなことしないわっ!!」
そんな身を滅ぼすようなことをどうしてわたしがわざわざ進んで・・。
そもそも王弟の落とし胤なんて・・そんなバカな!!
私は、ただの男爵家の娘よ・・?
『いやいや、今は純真無垢なエスタんでも王弟の落とし胤と分かってからは、命を狙われたり貞操を狙われたりといろいろあってね、捻くれちゃうんだよ。それはもう仕方ないと思うのよ?あんなエグい目に遭っちゃねぇ。たった1人の頼りだったセバスチャンもヒロインと出会ってエスタんに愛想尽かしちゃうしね。』
なんですって!?
私はコップを握りしめてセバスチャンを睨んだ。
「この薄情者!!15年も一緒にいた私よりぽっと出の何処の馬の骨か分からない女を選ぶなんて!!ばかセバス!!」
「はい?え、いや、俺は・・お嬢さまの」
『まぁセバスチャンの気持ちもわからなくはないわよね、わがままで自分勝手でツン強めデレ少なめの美少女でもないお嬢さまのお世話をずっと続けるよりも、自分のことを好きだとか愛してるだとか一番だとかちゃんと気持ちを伝えてくれる可愛い女の子の方に気持ちが動くのは男の子としては当然のことじゃん?』
ガーン、とショックを表情に浮かべて私の目の前に狼狽えて跪くセバスチャンを見つめた。
そうなの・・?
私、可愛くないの・・?
いえ、それはまぁ顔は美少女でも可愛い系ではないことも理解はしているわ。
お胸も15歳でまだぺったんこだし・・いえ、ちょっとは膨らんでるわ。
でも・・ちょっとだけだわ・・。
ツン強め、の意味はよく分からないけどとにかく可愛げがないと言われたのだけはよく分かった。
「せばす・・。」
「はい?」
うう、泣きそう。
泣きそうだわ。
「・・私を・・捨てるの?」