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日常に潜む話です。

 私は存在感が薄いらしい。極端な例をあげれば、自動ドアに反応されなくて衝突した経験がある程度だ。

 いつの間に居たんだと周囲の人にビックリされる事はままあるし、飛ぶ鳥に正面から顔にぶつかられたこともある。

 

 幼少期はそれ程ではなかった。逆にうざったい、声がでかい、やかましい等、周囲に揶揄される程度には主張の明らかな存在であったと思う。

 そんな私を変えた転換点と思える経験があった。



 当時、私には困った周癖のある幼馴染がいた。仮にサンちゃんと呼ぼう。彼は突発的に噛みついて来るという事があった。周囲の目も気にせず、にの腕や肩をわりと強めに。痛みに鈍い私でなければ痛みを訴えていたはずだ。

 私は噛まれ始めた頃、少々ぽっちゃりし始めていたので、彼はお腹が空いているのかな?と思い流した。しかし頻繁にあると煩わしくなり理由を尋ねた。

『どうして噛むの?』

『うるせぇ。噛みたいから噛むんだよ。』

押し問答のすえ、らちがあかないと思った私は彼の噛んでくる気配を察しようと始めた。

 サンちゃんは噛んでくる際、だいたい後方からやってくる。それを気取るために周囲に気を探る癖がついた。

 それだけでは足りず、私は自身の音を抑えるようになった。意外と自身の声や呼吸音が邪魔に感じたのだ。


 工夫をこらして彼からの噛みつきを回避し、私は気が落ち着いた。しかし回避されるサンちゃんは苛立ちを募らせ、正面からの噛みつきへと変化した。


 こうして噛みたい彼と噛まれたくない私は攻防を繰り返し、彼の癖がなりを潜めるまで続いた。そして私は気配を無意識に抑えるようになっていた。

 いまは散歩中に人とぶつからないよう、意識的に足音をたてる必要なときもある。これはこれで昔読んだ漫画に出てきた影の人みたいで良いかなと受けとめている。



 後日談ではあるが、サンちゃんの家に遊びに行った時、私は見た。ガキ大将的な気質で、引き篭もりで不気味な印象だった私を、臆せず外に連れ出してくれる面倒見の良い彼が、兄上に圧迫的な扱いを受ける姿を。

 いまになって思い返すと、明るく陽射しのような彼の不可解な行いは、日常のどうしようもない圧力を訴える叫びだったのかもしれない。


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