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守護者とあの日の決着


 狼たちと別れ、岩砂漠を駆け抜ける。

 砂砂漠からここまで、途中途中で小休憩を挟んだが、まだ半日ほどしか過ぎていない。


 無限にも思えるスタミナと、身体強化、各種魔法によるアシストにより、走る速度が上がっている。

 疾風のように駆け抜けながら、カイトは、このまま行けば、明日には森に帰ることができそうだ、と予想を立てた。


「リチュア、明日には森に着けると思う」

「そうね。この調子なら、夜明けには着くんじゃないかしら」

「えっマジか?!」

「マジよ。でも、今まで通り、途中で休憩を取る事」

「わかった!」


 カイトは言われた通りに走り、岩砂漠を駆け抜けた。

 流石に、リーンやフォロと会う事はなかったが、また会えるさと楽観的に考えた。


 そして、少しの仮眠を取ってから、夜通し走り続けたカイトの視界の先に、見覚えのある森が見えてきた。


 朝日に照らされるその森の中心には、巨大な樹が伸びていて、森の全てを見守っているようだった。


「戻ってきた……」


 あれからしばらく。

 早いような、短いような、不思議な気分だ。

 楽しい事も悲しい事も、やり残したことも、全てがここにある。


「いるな」

「ま、いるでしょうね」


 優れた感覚が、カイトとフローチュアの因縁の相手を捉える。

 瀕死だったソイツは、すでに元気を取り戻していて、森の中を我が物顔で歩いているようだった。

 レッドハンド。

 それが、カイトとリチュアの旅の目標であり、討伐しなくてはならない存在だった。


「まずは少し休んで、それから作戦を練って行きましょう」

「ああ」


 今の状態の自分なら、真正面から突っ込んでも勝てる気がするが、それは奢りなのかもしれない。

 カイトは言われた通りに体を休めようとしたが、


「何?」

「どうかし……」


 リチュアが声をかけようとして、止めた。

 彼女は、フローチュアの力を通じて森の様子を見たのだろう。


 カイトが捉えた感覚は、こうだ。


 レッドハンドとすでに戦闘をしている存在たちがいた。


 二つの足で歩き、自由になった二つの手には爪ではなく、武器と呼ばれる獲物を携え、全身に毛皮ではなく、衣服と鎧を纏った存在。


「人間……?!」

「……全員女性。十代が三人、二十代半ばが一人ってところかしら」

「何で……ここに人が……」

「多分、レッドハンドが現れたって話があったんでしょうね。多分、奴はここを根城にして、近隣に縄張りを広げていたんでしょう。そこで、誰かが目撃して、狩猟できる人間に報告した、ってところかしら」


 リチュアは淡々と憶測を語っているが、多分、外れていないだろうとカイトは思った。

 しかし、この世界で初めて、人間という存在を感じ取れた。

 こんな状況じゃなかったら、嬉しかったに違いない。


「…………なるほど、討伐者ね」

「討伐者? 冒険者とかじゃなくて?」

「この大陸には、冒険家はいても、冒険者はいないわ。代わりに、と言う訳じゃないけど、魔獣専門の狩猟組織があるの。それが討伐者よ」

「へぇ」


 まるでモ○ハンみたいだ、と考えたところで、もしこんな状況でなく、のこのこと彼女たちの前に現れたら、自分が討伐対象になると思い至り、カイトは笑顔を凍らせた。


「あれ、でも待った。その人たちだけで、レッドハンドって倒せるもんなのか?」

「レッドハンドは、人間の軍隊が動いてようやく討伐できる存在ね。アンタたちが戦ったレッドハンドだと……あの四人だと少し厳しいかもしれないわね」

「おいおい。竜の次は人間を襲ってってなったら不味いぞ」


 カイトは地球での熊の知識を思い返してゾッとした。

 カイトの知る熊は、一度襲った相手を絶対に逃がさない。そして、人の血なんて覚えたら……歴史が、事件が、そして今目の前の森で起ころうとしている出来事が、カイトに一つの決断をさせた。


「助ける気?」


 何も言っていないのに、動いてすらいないのに、リチュアが言葉で止めてきた。

 顔は向けられていない。その横顔は、森を見つめている。無感情に、ただ、疑問として言葉を発しただけのように、カイトは見えた。


 その心の中では、何を考えているのだろうか。

 また一悶着あるか、今度こそ見捨てられるかと覚悟していると、


「やめておけ……なんて、行っても聞かないんでしょうね」


 リチュアは首を振り、カイトの額まで降りてくると、そこで寝転んだ。


「私は姿が見られると厄介だから、消しておくわ。精々、討伐されないように頑張りなさいなー」

「おいおい、レッドハンドよりも討伐者の方がヤバいのかよ」

「違うわよ。アンタがレッドハンドを倒したら、次は討伐者たちが敵になる可能性が高いって話よ」

「その時は全力で逃げるよ」

「甘ったれ」


 言いながら、リチュアは杖を振るった。

 カイトからは何も変わったように見えないが、恐らく、傍からは彼女の姿は見えなくなっているのだろう。


「じゃ、好きになさいな」

「そうさせてもらうよ。ありがとう」


 カイトはリチュアに礼を告げると、その場に荷物を降ろし、シールドを張って盗られないようにした。

 これで、心置きなく戦える。

 体力と魔力は、すでに十二分に回復している。

 万全に近い。


 あの時に勝てなかった相手だが、これまでの出来事を思い出すと、カイトは油断することはなくても、怖れて怯えることはなかった。


「全員、身体強化が切れてるわ。このままだと、誰か一人死ぬ可能性があるわね」

「わかった」


 カイトは身体強化を自らに施すと、もう迷いなく走り出した。

 巨体で樹木を傷つけないように、ネイチャーブラストの応用で木々に少しだけ傾いてもらい、最短の走路を確保していく。

 だが、途中から魔法を使わなくても草木が自分を避けて行ってくれることに気が付いた。

 リチュアは何も言わないが、彼女がしてくれていることは明らかだった。


 心の中で感謝しながら、カイトは人間たちとレッドハンドの下へと急いだ。


 激しい戦闘音と檄、咆哮が聞こえてくる。

 この世界の人語が理解できないため、何を言っているかはわからないが、レッドハンドの殺意だけは感じ取ることができた。


 やらせない、やらせない、やらせねぇ!


「ネイチャーブラスト!」


 追い風に乗り、速度を上げたカイトの視界にレッドハンドの姿が映った。

 相変わらず悍ましい姿をしているレッドハンドが、その巨体を支える足で、倒れている黒髪の少女を踏み潰そうとしているところだった。

 少女の顔に浮かんでいる表情は、死を悟っていた。


 カイトの脳裏に、フローチュアの顔が浮かんだ。

 心が燃える。

 敵討ちだとか、そう言う事じゃなくて、今はあの少女を救いたい。


 自分がフローチュアに助けられたように。彼女から受けた優しさと恩を、一つ返すために!


 リチュアの力があったとはいえ、この森の中では思うような走りが出来ず、本来の加速力を得ることはできなかった。

 だが、十分だ。

 今、自分が奴を止めるために必要な、倒すために必要な力は、ある!


「グラン・ダッシャァァァァッ!」


 疾風と化したカイトが、レッドハンドにぶつかった。

 間一髪、少女を救う事に成功した。視界が一瞬、顔を覆う少女を捉えた。


 ならば、後はやることをやるだけだ。

 地面を削りながらどうにか勢いを殺して自分を止めたレッドハンドを睨み、カイトは一歩、また一歩と踏み出した。

 角で一気に貫くつもりだったが、姿勢を低くして、嘴の部分を掴んで受け止められていた。

 しばらく会わない間に強くなったのは、向こうも同じのようだ。少しだけ驚かされた。

 だが、全く問題ない。痛くもかゆくもない。


『また会ったな』

『お前は……!』


 カイトを見て、レッドハンドは驚きと苦悶の声を漏らす。


『あの時の坊主か!』

『ご明察。そして』


 カイトはぐっと後ろ足に力を入れて、顔ごと上半身を勢いよく持ち上げて、レッドベアを空中へ放り投げた。

 そのまま、後ろ足で立った姿勢のまま、角を槍の穂先のようにまっすぐ天に掲げた。

 狙いは心臓。苦しまずに一撃で、確実に仕留める。

 あの時、理由はどうあれ見逃してくれた敵への、せめてもの情けだった。


『や、やめ――――』

『さよならだ』


 狙いたがわず、落ちてきたレッドハンドを、今度こそ角で一刺しにした。

 即死だった。

 初めて、自らの手で直接殺した相手の重みを感じながら、カイトはその巨大な亡骸をそっと地面に降ろしてやった。

 ゆっくりと角を抜いて、勢いをつけて首を振り、付着した血をすべて払った。


「終わったよ、フローチュア」


 言葉にならない、カイトではなく、海音(かいと)の言葉で、フローチュアへの想いを告げた。



お読みいただき、ありがとうございます。


メインターゲットを達成しました

レッドハ()ンドの討伐()討伐者()の救出()をクリアしました


あと1分で休憩場所へ戻ります


フローチュア「ありがとう、カイト……ごめんね、カイト……もうちょっと、待ってて……」

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