守護者と帰路の途中
このお話では七か月ぶりでございます。
大変お待たせいたしました。
前回までのあらすじ:角鎧竜キャリバーに転生したカイトは、恩人フローチュアを救った自称精神生命体リチュアと共に旅をしていた。星海の邪神から大海竜マトリックスを救い、強くなったカイトは、フローチュアの故郷を目指して帰路へと着いたのだった。
拝啓
晩春の折、ご家族の皆様におかれましては一段とご健勝のこととお慶び申し上げます。
幸香、毎日楽しく過ごしていますか? 学校は楽しいですか?
学校では国語や算数と言った学業だけではなく、色々な事を学びます。
良い事、悪い事、しなくちゃいけない事、してはだめな事、楽しい事、悲しい事、辛い事、そして嬉しい事をいっぱいっぱい学んでください。
なので兄がそちらに戻ったら、兄の消えたプリンについて少し、お話しがあります。
して良い事、悪い事を改めて学びましょう。
この機に、是非、しっかりと。
ところで、母上様、父上様、幸香は今年も海に行かれる予定でしょうか。
私は所要で、かなり早めの海水浴をしておりました。
幸香、断っておきますが、遊んできた訳ではありません。
そこで出会った名士のような立場の方の依頼を受け、恩人と共に働いておりました。
詳しくは割愛しますが、色々あって、お世話になったり、仲良くなったりした方々ができました。
皆様のおかげで依頼を全て完遂することができ、私たちは海を離れ、恩人の故郷へと戻っている最中です。
これから、私はそこで恩人と、恩人の恩人との約束を果たすため、大きな仕事に取り掛かります。
そちらに戻った時に、このお話もできればと考えております。
敬具
‡
「そのためにもここをどうにか切り抜けないとなぁ!」
故郷にいる家族への想いを頭の片隅で綴りながら、ネイチャーブラストで造り出した強風を追い風にして駆け抜けるカイトの絶叫が、砂砂漠に響き渡った。
その僅か半身程離れた場所が数秒に一度、大きく爆ぜ、カイトの下半身に砂の雨を降らせる。
「俺だって気付かないのか」
「体の大きさと魔力量が全然違う、鼻先の角がない。それと邪神のダンジョンに捕らわれそうになったことで、警戒心がかなり高まっているっていうのが最大の原因かしらね」
額の角の間に座り、冷静に分析するリチュアの言葉に、カイトはげんなりとした。
「魔力の波長とか、そう言うので俺って特定できないか?」
「あの子にそれができるか……ふむ、うん、一理あるわね」
リチュアは杖を手に取り、軽く一振りする。
「一端、止まってくれる?」
「捕まるぞ!?」
「止まったらすぐにシールドを足下に張りなさい。それに、今なら食べられる事はないわ」
「どういうことだ?」
「警戒してるから。さ、止まりなさい」
結局受けるのは俺なんだが、と思いながら、カイトは言う通りに立ち止まりながら、足下にシールドを張った。
リチュアがしっかりとしがみ付いたことを確認した直後、シールドに強い衝撃があった。
そのすぐ後に、強い揺れが起こり、カイトは数メートル上空にシールドごと、突き上げられた。リチュアはしがみ付いたままの状態で無事だった。
シールドには傷一つついておらず、カイトはそれを足場代わりに使用しながら、ネイチャーブラストで作った風で落下速度を緩める。
着地準備を整えながら地上へ目を向けると、カイトとリチュアの知り合いが顔を地中から出して、悶えまわっているところだった。
巨大なゴーヤのような、しかし岩よりも硬い鎧に覆われたごつごつの体に、鰐のような
『痛ったぁぁぁぁぁい!!』
独特の唸り声が砂漠に響き渡る。
カイトの耳には、唸り声と、その声の主の感情を自分が理解できる言語に捉えたものが同時に聞こえていた。
「今よ」
「おい、クロウ、聞こえるかー?」
痛みに悶え、のたうち回っている巨大なサンドストーム・ケタスへと声をかけた。
「に“ゃ”ぁ“ぁ”ぁ“ぁ”ぁ“~……え……カイト君?」
数分後。
「――――そう言う訳で、俺たちは故郷に戻ろうとしているって訳だ」
「ふーん……そう言う事だったんだ」
カイトは目の前で伏せているサンドストーム・ケタスのクロウへと、海での経緯を話していた。
大海竜マトリックスが邪神によって操られ、砂漠にダンジョンを侵食させ、クロウを自らと同じ邪神の眷属にしようとしていた事実に、クロウも襲った経緯を話し始めた。
ダンジョン侵食から助かったものの、クロウは味わったことのない恐怖を体験し、警戒する日々を送っていた。
そのため、砂漠に入ってきた、巨大な四足の存在を察知した時、捉えた感覚から得られた三次元の姿が、知り合いの竜種を大きくしたようなもの、ということに気が付きつつも、安心できなかった。
それに強い空腹も覚えていたため、冷静な判断ができず、飛びかかったということだった。
「ごめんね」
「いいよ。それよりも腹減ってるんだろ? リチュア、悪いけど、肉を出してくれないか?」
「りょーかい」
リチュアは荷物入れからタクティカル・ボアの肉を取り出し、クロウの前に置いた。
クロウの巨体からすれば、それこそクジラとネズミくらいの差があるが、彼女はそれを喜んで食べた。
「あぁ~~おいしい~~!」
「それはよかった」
「これで七日は大丈夫ね」
リチュアの言葉に、カイトは、食べ物がロクにない砂漠で、どうやってクロウが生き延びているのかを何となく察した。
飢餓に強い体は、苦しい時もあるが、弱肉強食の世界では助かる。どういった原理かはわかっていなくても、カイトも自分がそのような体質になっていることを理解しているため、クロウの苦しみも喜びも、わからない訳ではなかった。
「ところで、カイト君」
「ん?」
「君ってさ、大人の体なんだよね?」
「あぁ、そうだな」
答えると、クロウの視線が強くなったことを感じた。
昆虫の複眼のようなスペクタクルの奥にある目は見えなくても、カイトは優れた感覚で見られていることを察知できる。
もしかして、自分を食べようとしているのかと考え始めたところで、クロウの視線の強さが和らいだ。
「なるほど、なるほど。うん、良さそうだね」
「おいまさか」
やっぱり食べる気か、と警戒して一歩退くと、クロウが笑った。
「食べないよ。そうじゃなくてさ、ボクの番にいいなと思ってね」
「……誰が?」
「君が」
やっぱりか。
カイトは、体格差を考えてくれ、と咄嗟に言いそうになったが、何だかそれだと逃げられそうにないと野生の感覚で察した。
何故なら、種族や大きさが違うのに、その時が来たら番になるかもしれない約束を交わした相手がカラミティ・ワイバーンだからだ。
ちなみに、リチュアにそう言ったことが可能なのかと聞いたことがあったが、答えは知らない、とのことだった。
普通に考えると、無理だろう。
ポ○モンじゃるまいし、とカイトは思ったものだ。
過去の事はさておき、目の前の問題を解決すべく、カイトは別の答えを出した。
「俺、もう婚約者がいるんだ」
「こんやくしゃ?」
頭にはてなマークを乱舞させるクロウに、カイトはどうやって伝えたものかと考えた。
鼻先の角が消えても、こうしてクロウと話せたことは幸いだった。
リチュア曰く、それは動物たちがコミュニケーションを取っている時に使っているものを、カイトの脳が理解できる言葉に処理して聞き取り、相手に伝えているのではないか、ということだった。
鼻先の角と似たような状態だな、とも思ったが、大雑把にしか伝えることができないらしく、人間世界の風習や理はこの動物言語では完全な異次元語になってしまうのだと、この会話で理解できた。
仕方なく、カイトはド直球で伝える事にした。
「番になる相手がもういるんだよ」
一瞬の静寂。
見詰め合うトリケラトプス(鼻先の角がない)と巨大な鰐のような竜種。そして二頭の作り出す巨大な影に入って涼む我関せずの妖精。
もしも、第三者がこの光景を見れば、驚天動地、青天の霹靂、もしくは、緊張と暑さの余りに幻でも見ているのかと己の正気を疑うだろう。
あの砂漠の暴君が、見たこともない竜種と鼻先同士がくっつきそうな距離で、殺気も敵意もなく、のんびりと見詰め合っているのだから。
その影に妖精の少女の姿など見かけたら、白昼夢と考えること間違いなしである。
だが、この光景を見ているものは誰もおらず、砂漠を照らしている太陽だけが、二頭と一人を見守っているだけである。
果たして数秒後、まず動いたのはクロウだった。
微動だにせず、彫刻のように固まったまま、言葉をカイトへ投げかける。
「つがい? え? カイト君? 君、この前まで子どもだったよね?」
「そうだな……」
「キャリバーって、ボクも直接見たことはないけれど、聞いた事くらいはあるんだよ? こっちじゃあ、君以外で見たことがない」
「うん、そうか……」
「と言う事はだよ? 君の番になる相手なんていないんじゃないかな?」
「いるんだよ……」
色々とあってな。
カイトは頭を抱えたくなったが、今の体ではできないため、頭を下げてどうにか気を紛らわせようとした。
「まさか、リチュアちゃん……?!」
「何でそうなる。違うよ」
恐れおののくクロウに、カイトが間髪入れずにツッコミを入れた。
恐れおののいたのはこっちの方だと言外に語りながら。
「あー、私この子に恋愛感情抱いてないからー。私“は”」
リチュアからも興味もやる気も感じられない、投げ遣りな言葉がかかった。
カイトは、それはそれで少し複雑だと思い、別にフローチュアに言われた訳じゃないからいいか、と思い直した。
あれ、フローチュアじゃないから? と自分の思考を反芻しようとしたところで、クロウがまた声を上げた。おかげで、その思考は掻き消えた。
「じゃあ、まさか誰か、竜種の子?!」
「あぁ、カラミティ・ワイバーンって奴だな」
「カラミティ・ワイバーン~ン?」
不機嫌な口調になったクロウに、カイトは面倒くさくなりそうと思いながら頷いた。
すると、クロウはその巨体を震わせ、やがて笑い出した。
「なら問題ないね」
「何がッ?!」
「カラミティ・ワイバーンだろ? アイツらならボクも知っているよ。なるほど、君はあの状態でカラミティ・ワイバーンを倒しただけでなく、番の儀式を成功させたんだ」
「いや、何と言うか」
成り行きで、なんて言いたくても、言ったら言ったで女の敵とか言われそうだし、実際に自分でも思うところがあったので、その先を言わなかった。
「でもさーカイト君? 君、その時、まだ子どもだったよね?」
「子どもだったけど、いずれ番になるって、相手がな……諦めなかったんだよ……」
本当俺どーしようもねーと思いながら、カイトは遠くにいるであろうリーンを思い浮かべて現実逃避し始めた。
アイツ、元気にしてるかなー。
だが、それもクロウによって止められてしまう。
「けど、相手の子は? 旅だから、また出会えた時にって話でしょ?」
「まぁ」
「だったら、ここで私と番になっても、問題ないよね?」
「すまん、やらなくちゃいけない事があるから、今は無理」
「それは、どうしてもなさなくちゃいけない事?」
「あぁ」
それだけは絶対に譲れない。
カイトはクロウを真っ直ぐに見上げた。
これだけ大きくなっても、クロウと比べれば、カイトは大人と赤ん坊のサイズだった。
だが、しっかりと見詰め合う姿勢は、対等だった。
ふと、クロウが笑った。
「じゃあ、しょうがないね。その時が来たら、必ずボクの下へ来ること!」
「それなんだがな……そのカラミティ・ワイバーンとの約束で、その時が来た時に、自分の他に俺と番になりたい相手がいたら言えと言うのがあってな」
「あ、いーよ? カラミティ・ワイバーンなら一ひねりだし」
「頼むから穏便に済ませてくれ」
想像するだけで、カイトは気が滅入りそうになった。
十中八九、クロウの圧勝であることは想像に難くない。
折角助けた二人が、自分の為に命を散らすような真似なんてしてほしくないと心底思った。
「冗談だよ。でも、君を番にしたいって気持ちに嘘はないね」
「は、はぁ……」
唐突な告白に、カイトは目を白黒させた。
異世界で、トリケラトプスの亜種っぽい竜種に転生はしたものの、恋愛感情を抱く相手は人のままだった。
だというのに、カイトはクロウの言葉に、異性から好意を向けられた時と同じように、胸が鼓動を強めたのを感じた。
「どうして俺なんだ?」
「君だろ、ボクに愛の歌を捧げたのは」
「そうだった」
理由はどうあれ、サンドストーム・ケタスの愛の歌を届けたのはカイト自身である。
「でも、親愛って言っただろ」
「それが恋愛になったってだけだよ。それに」
「それに?」
「今の君はその、何だ、カッコいいし、強そうだし」
少し恥ずかしげに言われ、カイトは己の中に芽生えた彼女への好意的な感情に、いや違うだろ俺には……と考え、俺には何があるんだと自問自答する羽目になった。
だがおかげで、確信に至ることはなかった。
「それだけで?」
「何か悪いかい?」
「いや、なんて言うか、俺より強い奴いるぞ?」
「ボクは君がいいと言っているんだけど?」
確かに、そう言われたら、これ以上言うのは野暮というか失礼であると考え、カイトはおずおずと頷いた。
それに、好意を向けられること自体は、悪い気はしなかった。
問題は、クロウへ向けている感情が友情という点である。
「俺、クロウの事、友達って感じでしか」
「ねぇリチュアちゃーん、カイト君があんな事言ってるよー」
「そうねーカイトはナンパねー」
「おいやめろ」
俺は硬派だよと反論しようとして、己のこれまでの言動を振り返り、ぐうの根も出なくなり、項垂れた。
「あ、落ち込んだ?」
「自業自得よ全く。それよりも、早く砂漠抜けたいから、悪いけどここら辺で行かせてもらいたいんだけど?」
「そっかぁ。ボク、リチュアちゃんも嫌いじゃないから、いつでも遊びに来てね!」
「その時が来たらね」
哀愁漂うカイトを他所に、リチュアとクロウは存外、仲良くなっていた。
そんなこんなでクロウと別れた二人は、砂砂漠から岩砂漠に変わる辺りで、狼の一族とも再会した。
『おぉ、その匂い、お前、カイトか! 見違えたぞ!』
狼のボスはカイトを見上げ、感嘆の声を上げると、近寄って祝福してきた。
他の狼たちも同様にカイトへと近づき、中には周りをくるくると駆けまわってはしゃぐ者もいた。
『俺の言葉、わかるかい、ボス?』
『あぁ。だが、以前よりも何と言うか、我々に近い感じになったな』
それは、自動翻訳の力を失ったからだ。それを指摘することなく、カイトはそっかとだけ告げて、狼たちと短い再会を喜んだ。
お読みいただき、ありがとうございます。
本当に大変お待たせいたしました。
アニメでいうところの8話目、スタートです。




