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古代の血、決着の時

決着――――――ッ!!!!!!



『そもそもさ! トリトナが暴走し(グレ)ていたのも、シーシャドウを暴走させていたお前のせいじゃねーか!』

『君がトリトナに命を狙われたのは君が彼女の獲物を逃がしたのが原因だろう! 私のせいにするんじゃない!』

『こっちは助けてって言われたから助けただけだ!』

『やっぱり自業自得じゃないか!!』

『助けを求められて助けられそうだったから手を差し伸べただけだ!』

『じゃあ私も助けてよ!! 殺してくれよ一刻も早くさぁ!!』

『助けはするが絶対殺してやらねーよ!』

『殺せって言っているだろそれしか手がないんだよ!』

『うるせぇ散々振り回されたんだ! 絶対殺さずに助けてやるから覚悟しろ!』

『こ、この小童! ぁ言えばこう言う! この馬鹿ぁっ!!』


 トリトナの目が文字通り金色に輝き、周囲に出現したアースショットもより一層強い光を放った。


 その時を待っていた!

 カイトはゆっくりと進めていた足に力を込め、駆け出した。海底が抉れ、何十トンもある巨体が、砲弾のように海中を滑り、飛んで行く。

 それは、海の底で、陸上活動に特化した生物が出せる速度ではなかった。


 これが古竜、これがキャリバーの力。

 地球の常識、人間が見つけ出した生物の理屈やルールに縛られない、異世界のトリケラトプス(亜種)だ。


 カイトは夢の中の訓練で、それをすでに体験していた。


『なっ!』


 一気にマトとの距離を詰めたカイトを見て、マトが声を上ずらせた。だが、すぐに彼女の前にグランド・シールドが出現し、カイトの接近を拒まんとする。

 このままでは、カイトはグランド・シールドと衝突することになるだろう。彼のシールドも強固ではあるが、グランド・シールドの耐久性は比べ物にならないほど上だ。

 衝突と共にシールドごと、カイトは粉砕される。もしも運よく生き残ったとしても、そのままアースショットの雨あられを至近距離で避ける事なく受ける事になる。


『カイト君っ!』


 マトの焦った声が降ってくるが、カイトは気にしていなかった。

 カイトは急制動をかけると、グランド・シールドまで残り数メートルというところで立ち止まる。それと同時に、マトのシールドを幾重にも周囲に発生させて防御を固めた後、額の一対の角をマトへと向けた。


『サンダーッ!』


 直後、否、カイトの詠唱とほぼ同時に、マトの周囲に小さな魔法陣が幾つも出現、稲光がマトへと一斉に襲い掛かった。


 だが、それは稲光の発生よりもほんの少しの差で先に出現した、ドーム型のグランド・シールドによって防がれてしまった。


『無理だカイト君! 魔法でどうにかなるような相手ではないんだ、私は!』

『自分で言うか!』


 防がれることなど最初からわかっていたカイトは特に動揺せずにサンダーを放ち続ける。

 一対の角をアンテナのようにして、カイトは魔法の雷を自在に操ることができている。普通の魔獣はもちろん、人間の武装した軍隊も魔法防御ごと討ち貫く威力を秘めているらしいが、マトには残念なことに届くことはなかった。


『魔力が切れるぞ、カイト君!』

『あぁ、確かにヤバいな……』


 普通ならな、と心の中で続ける。

 クロウを助けるために、鼻先の角を用いた奥義コルヌドライブの一つ、ホーリードライブをダンジョンへ向けて放ったが、想像以上の魔力を消費することになった。クロウの寝床である地下水脈への距離が予想以上にあったことと、そもそも彼女を取り込もうとしていたダンジョンの規模と力がかなり強かったことが原因だ。


 成体となったことで魔力が増え、ユィーハに魔法の操作や調整の仕方などを教わった今の状態でなら、シールドやサンダーを多少使用したくらいでは疲れすらも感じないが、半分以上の魔力が急激に消費されたため疲労感を覚えたのだ。

 最も、その疲労感も、いい仕事をしたと汗を拭って、一息つく程度のものであった。


 何せ、使っても使っても、その分だけ魔力がすぐに回復しているからだ。

 だから、こうやって余裕ぶっていられる。

 強がっていられる。


『けど、これなら後三日は粘れるな』

『あと六十秒で君ごとこの一体を更地にして世界征服始めるよ、今の私なら!!』


 泣きながら怒るマトの動きに、また隙が出来た。


 やはりとカイトは納得した。

 夢の中でもユィーハに聞いたが、どうやらマトは邪悪な神様によって操り人形にされているらしく、このままでは世界が危険だとのことだった。だが、眷属化してすぐであり、マトも力が強かったため、そしてトリトンの加護のおかげでまだ完全に支配された訳でも、眷属化が完成した訳でもない。

 そのため、彼女の感情の中で、大きなゆさぶりが起きると、体のコントロールが戻る。それがマトの場合は怒りで、それがピークに達したその時、その一瞬だけ、体が半分コントロールを取り戻せているのだ。


 だから、カイトは彼女の怒りを煽るような言い方をしていた。もちろん、半分は本音だったりする。

 その分の怒りも込めて、動きが読めるようになった彼女に向けて、カイトは角を振るった。


『サンダー!!』

『ぐっ?!』


 グランド・シールドをついに貫いた稲妻が、マトの体を撃った。だが、これで終わるような相手ではない。

 カイトは、自分のシールドをグランド・シールドにぶつけ、さらに魔力を一対の角に纏わせ、シールドごと先端で切り裂いた。


『何ッ?!!』

『俺ならやれるって言ったのに驚くなよ!』


 マトの前鰭が恐るべき速さで迫ってくる。

 シールドのない今、直撃を受ければ、いくらキャリバーの巨体と言えど、ただでは済まないだろう。

 それでも、カイトが焦ることはなかった。

 普通なら避けられないだろうそれを、しかし、カイトは後ろに下がる必要最低限の動きで回避し、水圧や衝撃などを張り直したシールドで防いだのだ。


『避けた……まさか』


 驚くマトに、心の中でカイトは正解だとつぶやいた。


『身体強化まで……もう使えるというのかい、君は!』


 身体強化とは読んで字の如く、己の身体能力を強化するものだ。さらに、思考能力なども同様に強化される優れもので、人間たちはこれを使って、魔獣などの強力な相手と渡り合うことができている。

 だが使用限界時間があり、最長でも五分、それ以上使えば、すぐに戦闘続行不可能な状態に陥るという諸刃の剣だ。


 もちろん、それは魔獣でも、古竜でも変わらない。

 故に、使い時はしっかり見極めないといけないと、カイトはユィーハに口酸っぱく教えられた。

 カイトは、頭の片隅で使用限界時間を、感覚で量り始めた。今のカイトが使用出来る限界時間は、三分半であった。


 避けた後、カイトは目の前に落ちてきた鰭へ向かって角を突き立てた。グランド・シールドを突き破るが、しかし、角は鰭に浅く刺さるだけだった。

 だが、それでよかった。

 攻撃が通じている。

 絶望感はない。

 ゴールは果てしなく遠いかもしれないが、それくらいで今のカイトは諦める気持ちなど到底起こすつもりはない。


『アンタは諦めてない!』

『え?』

『本当に諦めていたら、俺やリチュアなんて一瞬で消し炭になってるはずだ! 俺の攻撃も通じないはずだ! なのに通じているってことは、お前が諦めてないってことだ!』

『違う……これは、トリトン様の加護や、私の魔力が……』

『お前の気持ちも多少入ってるだろうが! 魔力はお前の気持ちにも左右されるだろ!』

『あ』


 マトの、本当に呆気にとられた声が頭に響いてくる。

 忘れていたことを、思い出したような、そんなちょっと抜けた声。

 それがカイトには、勝利を確信させる、女神の声のように聞こえた。


『俺は諦めない、生き残ることも、お前を助けることも!!』

『カイト……』

『お前は明日から、皆のために、自分のために生きるんだ! 明日を諦めないでくれ、マト! お前が諦めなければ、明るい明日は来るっ!!』


 カイトは額の角に魔力を纏わせる。


『サンダードライブ!!』

『ぐっ!』


 角から直接、魔力の雷がマトへと流れた。


 バイコーンドライブ。

 額の一対の角を用いて魔法攻撃を行う、コルヌドライブと並ぶキャリバーのスキルであり奥義である。


 先ほどのサンダーとは比べ物にならない威力に、マトリックスの体が跳ね上がり、硬直した。

 その一瞬を、カイトは逃がさなかった。


『アースショット! ネイチャー・ブラスト!』


 星の力を借りた幾つもの光の魔弾と、周囲の海水を激しく渦巻かせた潮流が、マトに襲い掛かった。それでも、その巨体が揺るぐことはない。

 カイトは手を緩めない。

 鼻先の角が激しく光り輝き出す。


『ディバインドライブ!!』


 鼻先の角から放射された光が海底に次々と降り注ぐ。すると、岩盤が次々とひび割れ、崖や壁が音を立てて大きく崩れて行った。


『これは……ダンジョンが、死んでいる……だと?!』


 マトはそれ以上は言葉にできないようで、周囲を見渡した後、カイトを再び見下ろした。


『まさか……いくらなんでも……こんな量のドライブがいきなり使えるはずがない……魔法だって、魔力がこれだけ続くはずがない!』

『はずはずって、お前そればっかりだな! 俺もお前の立ち場なら言うだろうけど』


 鰭から刺さった角を引き抜こうと体を動かそうとしたマトに合わせて、カイトは角を押し込むように動いた。

 傷口から流れるのは真っ赤な血ではなく、赤と金に輝く光だった。

 それが、もう普通の生物ではないと示しているようで、余計に苛立った。


『君は、何も知らないんだ』


 マトの暗い言葉が降ってくる。

 強化され、いつもよりも広く鮮明に世界を捉える目が、マトの目から涙が出る様子を映しだした。


『アイツらは、私たちが抗える相手じゃない。そんな奴がかけた加護を受けた私は、奴の眷属となって、世界を壊す。今こうして、自分の意思に関係なく、勝手に体が動いているだろう。君の魔力がどれだけ持つのかは知らないが、私は無限に動くことができるし、何なら不死身だ。君が私を殺す気できて、ようやく勝てるか……いや、冷静に考えてみたら、勝てる要素なんて』

『ディバインドライブ!』


 マトの体に、断罪の光を放つ。

 すると、マトは目を大きく見開き、言葉を詰まらせ、大きい泡を一つ吐いた。

 そして、それまで彼女の意思に反して勝手に動いていた巨体が、その動きを完全に止めた。


『ごちゃごちゃうるさいんだよ! お前にかけられる力とやらが強いっていうのはさっき知った!』

『ブラスターの事……かい? あれは違う』

『そっちじゃなくて、邪神とやらに掛けられた加護の事だよ。そっちについては、正直俺もついていけない』

『ほら、やっぱり』

『けどそんなことは、今はいいんだ。要するにお前は、その邪神から解放された後、生きていたのか、どうかなんだよ』


 ディバインドライブとサンダードライブによる二重攻撃で、マトの動きは止まっている。

 だが、彼女の目は、しっかりとカイトを見ていた。だがその視線は、どこか遠い場所を見ている。

 そこに浮かんでいる感情は、渇望だった。


『……先生に、会いたい』


 ぽつりとした、マトの声がカイトの脳裏に響いた。

 それが小さな子どもの、助けを求めている声に聞こえた。


『広い海を泳ぎたい……それで、先生にまた会いたい……生きたい』


 その言葉だけで十分だった。


『わかった。じゃあ、ちょっと待ってな』

『ずっと待ってるよ……いい加減に解放してほしいって思っているよ』

『あぁ、だが、解析は終わった』


 そうだよな、とカイトは自分の心の中に問いかける。


〈えぇ、終わったわ!〉


 確かな、力強い声が返ってきて、脳裏に響き渡った。


〈星海の邪神クッタクァの加護の解析も、及び星海の邪神ケンタルクルの妨害への対抗策も完璧よ!〉


 ありがとう、カイトは心の中に返した。

 ずっと魔力を供給し続けてくれている、ユィーハに勇気づけられ、深呼吸を一つ。

 澄んだ意識と、燃え上がる闘志のまま、カイトは最後の仕上げに取り掛かる。


 身体強化が切れるまであと十秒。

 ネイチャー・ブラストの威力を上げ、体全体を使ってマトの巨体をそれにぶつけ、強制的に押し流した。

 マトの鰭が角から外れ、身軽になった瞬間に、カイトは新たなネイチャー・ブラストを自分の背後に発生させながら、駆け出した。


魔法槍(エンチャントランス)! シールド!』


 さらに、額の双角に魔力を直接纏わせ、強化を施しつつ、体の周囲にシールドを幾つも発生させる。


『ホーリー、ディバイン、サンダー、アースドライブ!!』


 各種ドライブを額と鼻先の角に纏わせたことで、三本の角が眩く輝き始める。

 さらに、首回りを覆っている申し訳程度にある小さな襟巻から、使用された魔力が光となって吹き出し始めた。それがあたかも襟巻の様に見えたが、今のカイトにはそれを気にすることはなかった。だが移動速度が飛躍的に上がったことがわかった。


 その時、マトの体が不自然に動いたかと思うと、体勢を変えてカイトへ向き直ると、急に姿を消した。


 視界が、自分の後方に瞬間移動したマトの姿を捉える。その口元には、先ほどカイトを消し飛ばしかけた、オーラル・エレクトリック・ブラスターの輝きが集まり、発射寸前だった。


『カイト君!!』


 マトの絶叫に反応せず、冷静に体勢を整える。間に合わない。ならば。


『ユィーハさん!』

<カテゴラル・ランチャァァァァァ!!>


 ユィーハの詠唱と共に、カイトの魔力がごっそりと減ってその分回復し、周囲に幾つもの魔法陣が出現。炎、水、土、雷、風、氷、光、闇……様々な魔法が、海と言うフィールドに全く影響されずに、それぞれ輝きながら放たれ、マトのブラスターと真っ向からぶつかり、相殺した。


〈気張りなさいカイトォ!〉

『ああああああ!!』


 ネイチャー・ブラストを操作し、無理やり体を反転させる。

 そして、マトとの僅かな距離を一瞬で潰したカイトの前に、グランド・シールドが幾重にも出現する。


<星海の邪神クッタクァ! アンタの野望は、この子が貫き砕く!!>

『グランダッシャァァァァァァァッ!!』


 海底を揺るがす咆哮を上げながら海中を突き進む超高速の投槍と化したカイトは、グランド・シールドの壁にぶつかるも、それを紙同然に突き破り、ついにマトの体を捉えた。


『これで終れる……がはァッ!!!!!』


 掛け合わされたスキルと魔法と、強化され尽くされた巨体による一撃が、マトの胸元に突き刺さった途端、彼女の背後にどす黒い靄が飛び出した。


次回、古代の血、明日の道


ユィーハ「カイトの魔力を使用して、カイトが魔力を行使している……私はカイトの夢の領域で彼を操っているだけ。つまり、不正はなかったわ!」

クッタクァ「だめだこいつ……早く何とかしないと……ウボァー!」

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