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古代の血、明日への道

お待たせしました。

 立ち上がり、盾を構え直すのと同時に、感覚が地上のどこかで起きた出来事を捉えた。


 それと同時に、目の前に戦友ルーと戦っていた邪神が飛んできたので、反射的に斬りかかっていた。敵はそれを受け止めながら、不機嫌に眉を寄せていた。


「君は、確かアテナだったね」


 私は答えることなく、連続で斬りこんで行く。盾も突きつけるが、やはり、効果がないか。

 一瞬にも満たない時間の中で、幾千、幾万の攻防を続けていく。

 私の感覚はその間も、彼の様子を捉え続けている。


 それは、つい先ほど見たキャリバーが、成長した姿で、邪神の眷属になってしまった大海竜へと立ち向かおうとしている姿だった。


 まだ粗削りで隙だらけだが、その気配と立ち居振る舞い、目力、そして意志の輝きは、自分の知っているキャリバーたちにいずれ届きうるであろう、気高くも眩く、心地の良いものであった。

 ほんの一瞬、目を離した隙に、少しだけ地上では時間が流れていたようだ。先ほどから、それほど時間は経っていない。精々、数日程度だろう。

 と言う事は、あの姿は……自分が与えた加護が働いた結果であると、すぐに悟った。


「そうか、あれは君の仕業か」


 冷たい声音の敵が放つ次元の歪みを盾で無効化する。

 確かに、彼に加護を与えたが、あの姿となったのは私の意志ではない。

 あれは彼が掴み取った力だ。


 瑞々しい力と勇気の体現されたような、騎士そのもの。

 今の彼なら、半端な魔王くらいなら屠る事ができるだろう。


 だが、今回の相手はそうもいかない。


 彼が立ち向かうのは、邪神……確か、クッタクァと言う奴が眷属化しようとしていた、マトリックスという、魔界から流れ着いた大海竜。

 トリトンの加護と、ルーやダグダがクッタクァを抑えているおかげでどうにか眷属化の進行を押しとどめていたが、ついにクッタクァの加護が動いてしまったようだ。


 マトリックスは、リヴァイアサンの弟子。強力な魔法の使い手であり、海の中であるならば上級魔王すらも打ち倒せる猛者。

 今、私たちは手を離せない上、師匠のリヴァイアサンやその姉妹たちもいない。


 正直なところ、今の彼には荷が重すぎる相手だ。


「そう、彼には重たい仕事だよ」


 敵の一撃が盾に叩きつけられ、その衝撃で大きく後ろに下がってしまう。


「っくぅ?! 確かに、そうかもしれないわね!」

「……認めているなら、何故、笑っているんだ?」


 敵の問いかけに、私は答えるつもりはない。

 あのキャリバーには、マトリックスの相手は務まらない。

 それは悲しい事実だ。


 けれども、もしも、もしもの話。

 神である私がもしもと考えるのも不思議な話だが。

 マトリックスの相手をしているのが、彼一人でないとすれば?

 直接は手出しできなくても、キャリバーの持ちうる力を十全に引出し、勝利へと導くことのできる指揮官のような者がいるとすれば、どうだろうか。


「……待て……まさか」


 私の顔を見て、攻撃の手を緩めた敵が驚愕と共に意識を海へと向けた瞬間を狙って、私は駆け出した。

 一瞬の交差の後、敵は光の粒子を左脇腹からまき散らしながら、前のめりに倒れていく。


「…………まさか……そうか……そう言う事か……クッタクァめ……君は、やっぱり詰めが……」


 振り返らず、私は次の敵を倒すために足を進める。

 この邪神の名前を知ることは、最後までなかった。


「我らが……王国に……女王様、万歳……ザターク、ごめん、ボク、帰られないや」


 後ろで、邪悪な女神がまた一柱、消えたことを感じ取りながら、また一柱、また一柱と、私は仲間と共に邪神たちを屠っていく。


「その言葉は、アンタたちが壊して行った世界の誰かが、きっと言っていたことよ」

「そう、誰かが言っていたかもしれないわねぇ?」


 聞き覚えのある声に振り返り様に剣を振るうが、手ごたえはない。少し離れた場所に、黒い靄のかかった、人間基準からすれば美しい女神が滑るように下がっているところだった。


「クッタクァ……! ルーとダグダはどうしたの!?」

「ザタークとノディアーに任せたわ。折角マトリックスが眷属に目覚めたって言うのに、これ以上邪魔されたくないもの」


 にこりと薄気味悪い笑みを浮かべたクッタクァが、私へ手を向けてくる。


「貴女を倒せば、あの三本角の恐竜モドキちゃんは力を失う。今、彼に力を貸している、異世界人の助言も、役に立たなくなるわぁ~」

「そうはさせないわ」

「諦めなさいよ、アテナ~。貴女たちがいくら頑張ったところで、私たちは止められない。おとなしくしていれば、せめて貴女たちの大切なお友達たちの命までは奪わないわよ?」

「そして、この星の命たちを、眷属にする気でしょ?」

「当たり前よー。王国復活のために、『奴』を倒すために、私たちは力を必要としているのだからねぇー」


 クッタクァの手から闇が迸る。それを盾で受け止め、斬り払い、避けながら、私は奴へと近づいて行く。

 近いのに、気の遠くなるような距離に感じられる攻防の中で、私は自分でも驚く程に、気持ちは高ぶり、晴れ渡っていた。


「貴女たちに、この星に……いえ、この宇宙に未来はないわぁ。他の世界と繋がり、壊れてしまったが故に。私たちの王国に入る他、未来を得る術はないわよ~?」

「確かに、色々と混乱はあったし、面倒事もあるけれどね」


 クッタクァとの距離が、剣の切っ先が届くまでになった。

 斬り込めば、奴は手に持っていた闇の塊で受け止める。

 拮抗し、にらみ合う中で、私は奴へしっかりと意志を叩きつけた。


「この世界の未来は、少なくとも、あんた達が決めることじゃない。まして、他の世界を傷つけるための存在になることなんて、決して許されないし、許したくもない。舐めないでもらえる?」

「けどさぁ、どの道、貴女たちが倒されれば、この星は我々が手にしたも同然なのよねぇ。我々を認識したこの星の者たちは、明日を絶望するでしょうね~。それは可哀そうだから、さっさと眷属化するの。ね、いいでしょ?」

「だから、舐めるなって言ってるでしょ」


 力を入れて、一歩踏み出す。

 奴の本来の力を抑えているのに、拮抗させることしかできない。


 とんでもない強さだ。

 こっちは手一杯なのに、相手はまだまだ余裕がある。


 とてもしんどいし、痛いし、倒れたくなる。


 けれども、それでも、私は一歩も退きたくない。

 感覚が捉えている彼の姿が、私に力と勇気を与えてくれる。

 それを見ていると、まだ、戦えると元気が漲ってくる!


明日(みらい)を諦めない。それがこの星の生物(あの子たち)よ!」


 そして、私たちは再び、嵐の攻防を始めたのだった。




           ‡




 サンドリア大陸の西の果て、その海底洞窟には、一頭の巨大な古竜種がいる。

 楕円型の胴体から伸びる、蛇のような首と頭、四つのオールのような鰭、そして太く長い尻尾は、見た者に強烈な印象を与えることだろう。

 普通の城や塔を超える全長を持つこの竜種は、その見た目とは裏腹に、つぶらな目には確かな理性を持っている。


 海に溶け込むような黒と銀を混ぜたような体から溢れる魔力と力は、感じ取れる者には、天を衝くような山を想起させるほどに大きく強い。


 その大いなる力を用いて、彼女は巨大な地下洞窟湖を作り上げた。

 人々がダンジョンと呼ぶ建造物だが、入口はなく、また構造も休むための陸地と、普段住まいの海水があるだけの、シンプルなものだ。


 それは人から見れば巨大な洞窟だったが、彼女の巨体から見れば、少し窮屈にも思える。

 そう言う観点で見ると、未踏の地に居を構えた隠者の隠れ家のように見えかもしれない。



 邪悪な女神から眷属になるように加護を与えられ、いつ世界を壊すかもしれない眷属になってもいいように、いつまでも自分を封印するための場所。


 そこは、隠れ家と言うよりも、独房のようであった。




 このまま、人知れず、最後の最後まで閉じこもり、いつの日か自分を倒して邪神の目論見を暴いてくれる者が来ると夢見て、彼女は生きてきた。


 そして今、眷属化して世界の敵となってしまった自分を、唯一止めてくれる者が、ようやく現れた。




 彼女は言った。


「私を、助け(殺し)て……!」


 それは心の底からの、切実な願いだった。

 果たして、それを受け取った最後の希望は、しっかり、はっきり、すぐさま次のような意味のことを答えた。


「助けてやるからちゃんと生き残ってケジメを付けろ」と。




           ‡




 暴走するマトが生み出すアースショットの輝きが幾つも生まれるのを、カイトは冷静に観察していた。

 海底を照らし出す魔照石を遥かに上回る光の群れは、その一つ一つが、子どもの姿だった時のカイトを一撃でバラバラにするエネルギーを持っている。


 大人の体になり、子どもの時とは比べ物にならない程に丈夫にはなっているが、そう何発も受け止め切れるものでもない。

 そのことを、カイトは知っている。


『カイト君、早く、私を殺してくれぇ!!』


 高速で放たれた星の力を借りた魔弾の嵐がカイトへ殺到するが、彼の前に出現した巨大な魔力の盾が全て受け止め切った。

 以前なら、シールドごと吹き飛ばされていたであろう。

 だが、今のカイトが生み出す魔法の光盾は、恐るべき魔弾を何十発受け止めても、傷一つなく、揺るがされることもない。


 その光景に、マトが目を剥いた。

 カイトが一歩踏み出すと、シールドも魔弾を受け止め続けながらそれに合わせて動く。


『マト、死にたいだなんて、俺の前で言うんじゃない』

『悠長に言っている場合じゃないんだよ! 早く私を殺さないと、サンドストーム・ケタスが……砂漠の巨大竜が私のようになってしまう!』

『それを早く言ってくれよ』


 カイトはちらと明後日の方角に意識を向ける。その方角には砂漠が広がっている。


『えぇと、こうだったか……ホーリードライブ!』


 つぶやき、鼻先の角を足元の岩盤へ近づける。すると、長く鋭くありながら強靭さを持った角が淡く輝きだし、海底へ向けて光を放射した。

 魔力を認識できるものであれば、その光が成長を続ける海底洞窟から砂漠へと瞬時に走り抜けたことがわかっただろう。

 そして魔力の光は、砂漠の地下水脈付近でダンジョンに取り込まれまいと応戦しているサンドストーム・ケタスのクロウを助けるように、蠢くダンジョンの先端部分まで、激しく強く、そして温かい清らかな力で、通り抜けた道を破壊した。


 コルヌドライブ。

 鼻先の角から魔法効果を対象に向けて強く与える、キャリバーのスキルであり奥義あると、カイトは教わった。


『な、何っ?!』

『うげっ、かなり魔力使っちまった……』


 予想以上に消費した魔力の量に、思わずカイトは呻き声を漏らした。

 だが、それに応えたように、体の奥から力が泉のように湧き出し、消費した魔力をすっかり回復した。

 その心地よさを感じながら、カイトはわざと気取った風に言った。


『けど、まだ動けるね』

『慣れないスキルを使うからだ!!』


 軽い調子のカイトの様子に堪忍袋の緒が切れたらしく、マトがついに語調を荒げた。


『もうダメだって、私が殺してって、最後のチャンスだからってお願いしているのに、どうして君はそんなに呑気しているんだい!!』

『好きでのんびりしている訳じゃないって!』


 カイトも、成長したからと言って余裕ぶった態度を取っている訳ではない。

 マトの方に隙が全く見当たらないため、攻めあぐねているのだ。


 夢と現の世界で、最強の魔法使いを名乗る女性ユィーハに様々な訓練を課されたのだが、現実に戻ってきても、動体視力を始めとして、全ての能力が向上していた。

 その能力をフル稼働させても、マトに付け入る隙が見当たらなかった。


 だが、それでも焦ることはない。

 慎重に、その時を待っているのだ。


『もうもう、もう!! 君という奴は!! ちょっと成長したくらいで邪神の眷属を倒せると思っているのか!!』

『うるせぇぇっ! 勝手に巻き込まれて勝手に殺されかけて、勝手に喚かれているこっちの気持ちも考えてくれ!!』

『私は苦しんだよ!! 好き好んでこの苦しみをもたらされた訳じゃない! 見ず知らずの奴に、いつの間にかつけられていた呪いなんだ! 君にわかるのかこの苦しみが!!』

『わかるかァ!! 何も聞いてないし聞かされていないし、何かあるのかってリチュアが遠回しに聞いても応えなかったのはお前だろーが!!! 俺たちもトリトナたちも振り回されまくってんだぞゴラァ!!』

『トリトナから助けてあげただろう!! その恩を返そうって気にはならないのかい?!』

『おまっ! その恩はトリトナを抑えた時に返したってお前も言ってただろうが!』

『うるさいうるさい! 命の恩人にはいくら恩を返したって無駄じゃないんだよ!』

『その理屈はされる側じゃなくて、する側が言うんだよぉ!』


 言い合いながら、カイトは一瞬、マトの動きに違和感を覚えた。

 怒りの感情が強くなればなるほど、マトの攻撃は全体的に苛烈さを増している。だが、本当に怒りが最高潮に達したその一瞬、彼女の動きが違っていたのだ。

 見逃してしまいそうなそれを、カイトの、鍛えられた古竜キャリバーの優れた感覚は十全に捉えていた。

 これだ。カイトは突破口のヒントを見つけた。


明日の朝5時に次回予約分装填済みです。

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