古代の血、最後の儀
アニメで言う所の後編スタートです。ちょっと長いです。
前回までのあらすじ:人魚の里を襲おうとしていた大王烏賊ディープ・シーシャドウを鎮めることができたカイトとリチュア。協力者の大海竜マトの下へと戻ったが、彼女から突然攻撃をしかけられ、必殺のスキルで消し飛ばされてしまうのであった。
熱が、大きく膨れ上がり、大爆発を起こす。
それは地下洞窟そのものを大きく揺さぶる程の威力であったが、天井や壁が崩れ落ちることはなかった。
この洞窟はダンジョンと呼ばれる、大きな力を持った魔族が、魔王となるための城だ。
その城主であるマトは、ダンジョンを意のままに操ることができるため、結果的に爆発による被害を無効化できる。
魔力の操作にも長けているマトは、ダンジョンの構築や操作にも難なくこなす。
崩れ落ちそうな天井や壁は取り除き、修復して補填。抉れた海底も同様に穴埋めする。魔照石も一緒に混ぜておくことも忘れない。
「一緒に構築してしまえばいい……か」
先ほど見た、リチュアの大魔法を思い出して、新たな構築方法を編み出す。
魔照石を一定の割合で混ぜるようにしておいて、配置は適当で……こうしてああして、あとは修復する範囲に合わせればいい。
瞬時に終るとはいえ、その分の魔力を消費し、行程を幾つかに分けている作業を、当たり前の事だと思っていた。
それが今、予め構築しておいた修復方法を一つ思い浮かべるだけで終わった。
「たった数回が減った……されど一回で済んだ」
いつもなら大はしゃぎしたくなるような、そんな気持ちになれるはずなのに、今日はなれない。
綺麗になった海底の一部を見つめる。
そこには、先ほどまで、ヒントとなる魔法を使ったリチュアと、彼女を守るために戦っていたカイトがいた。
「……消さなくても、よかったかもしれないね」
思ってもいないはずの言葉が口から出た。
自分で消したのだ。
上手く行けば、もしかしたら、危機に反応して、カイトが覚醒するかもしれない、という可能性に賭けた部分もある。
だがそれは、身勝手で、横暴で、我儘な話である。
結果は無残にも、カイトとリチュアの命を奪い、さらにマト自身の願いも消してしまうものだった。
いや、より悪い結果を産んでしまった。
「は、はは、まさか…………私も、ついに、そうなってしまったか」
昔、マトは師から教わったことがある、悍ましいことが、自分の身に起きてしまった事を理解した。
「魔王になる方が、まだマシだ……」
心の底から怨嗟の声を吐き出し、体の奥深くからあふれ出る衝動に抗う。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 私はそんなものになんかなりたくない!!
誰がお前の言いなりになんかなるものか!!
私は自由に生きるんだ! 誰が好き好んで、お前たちの下僕になんてなりたいんだよ!」
心の叫びもむなしく、体が勝手に動いていく。
ダンジョンを閉鎖するのではなく、外へ外へと開いていく。規模を広げ、構築をより難しく、より獲物を誘いやすく、仕留められるように。
「やめろ、私はお前たちの奴隷工場を作りたくなんかない!」
『無駄だよー』
意識に直接ねじ込まれる、声があった。
悍ましさと怒りに震え、マトは目を見開いた。
「く、クッタクァ!」
『はーい、クッタクァさんよ。よーやく覚醒してくれたわね。おかげで通信しやすくて助かるわ~』
軽薄な少女の声は、マトへの嘲笑が込められていない。無関心に近いが、気にしていない訳でもない。
それは例えるなら、料理をするための食材を調理し、食べてしまって忘れるような、そんな曖昧で薄い感覚だ。
『ルーゾーアに聞いたのよ、貴女が海の調停を再開したって。
し、か、も。わざと自分で原因を作って、それを解決できそうな者を探すなんてことをしてるってね~。
んー、何でこんな事をしたのかなぁ?』
「お前に関係ない話だ」
『んー? 平穏を望んでいる貴女が自分の信念を曲げてまで、そんな事をするかしらー?』
マトは無視して、ダンジョンの増築を防ぐために魔力を回す。更に、自分の動きを阻害するために、使用出来るだけの魔法を使い、巨大な体を囲っていこうとする。
「私に構うほど暇なのか? 神々と戦っているんだろ」
『あはは、私にとって君への干渉は一瞬よりも短いんだよ。これだって、圧縮した君への意思伝達なんだからね!』
「何?」
言われて、そう言えば、自分の口が動いていない事に気が付く。
まさかと思って、目を動かそうとしたが、全く動かないことに気が付いた。
海水が全く動いていない。魔照石の光が“固まっている”。
感覚がない。
だが魔法は発動しているし、ダンジョンの増築も行われている。
「時が止まっている、のではない?」
『ほぼ止まっている状態に近いわよー? とりあえず、光の伝達速度、よりは若干遅いくらいだから』
「何だと?」
マトは師から、光について教えられたことがある。光は、この惑星を一秒間に約七周半する程の速さで動くことができる。
それはどんな魔族や魔法よりも速く、決して追いつけないものだ。
「いつから止まっていた……?!」
『だから、超精密に言えば動いてはいるんだって。私が貴女に声を通信を入れたのと同時だよー』
「あの時に?!」
『そーそー。
あ、もしかして、魔法が発動していたり、ダンジョンが動いているから混乱しちゃった?
今の君って私の眷属だから、魔法の発動もこの世界でナンバーワンに速くなっているんだよねー。魔王なんて目じゃない。魔神だってこうはいかない!
それと、ダンジョンの構築の速さなんだけれどさ、聞いたことない?
ダンジョンって一瞬で構造が変わったり、消えたりとか、いろいろするって。
つまりは、ダンジョンマスターとか魔王って、自分の居城を一瞬でリフォームできるって訳。
私の眷属となったんだから、その速度は魔王なんか足下にも及ばないし、君がさっき造りだしたマクロのおかげで、もうその増築速度は瞬きを超えるほどになったんだー!』
そう言えば、とマトは師が言っていた事を思いだした。
ダンジョンの中でダンジョンマスターと戦うのであれば、決して隙を与えないように立ち回らなければならない、と。
気の抜く暇もない戦闘の中で、ダンジョンの構造を変化させて攻撃してくることは当たり前、落とし穴や落下天井、トラバサミなどの各種トラップを構築し、設置してくる。
その隙は、決して速くなく、だが遅くもない。
だがそれは魔族にとってであって、身体強化を使ったとしても人類にとっては対応が大変に難しいものであると教えられた。
だから、冒険者はダンジョンマスターと戦う時、必ず三名以上の団体で挑む。二人では挑まず、一人で戦うなど愚の骨頂。
もしも一人で戦えるとしたら、それは人を超える力を持った者、魔族、同じダンジョンマスターくらい。
師は凄まじい魔族であった。凄まじい、という言葉も生温い。
普段はとても穏やかで、自分よりも年は下であったが、聡明で芯の強い持ち主だ。
その師にそこまで言わせしめるダンジョンの主が、もしも魔王以上の存在となったとしたら。
それが、神々と敵対しているような、邪悪なる神々の配下となってしまったのであれば。
神々の加護を得た者は、何かしらの祝福が顕現するように、邪神に加護を与えられた者は、同じように祝福を顕現する。
今までは与えられていた加護が確認できるだけだったが、ついにそれが覚醒してしまった。
そうなれば、一体どれほどの危険な存在が生まれるのか。
「ま、さか……」
『そうそう! 貴女はこの世界で、いえ、宇宙で最強の生物に昇格したのよねー!
おめでとう、おめでとう!
君はどんな文明のどんな存在よりも、兵器よりも、ずっとずっとずーっと強い存在になったの!
よっ、アンタが一番!
魔王なんて超えて、もはやすでに邪神の眷属……いえ、神格に半ば足を踏み入れ駆けているのよ!』
「なんて、事だ……!」
マトの心は粉々に砕け散りそうだった。
最初、この邪神に目を付けられ、加護を与えられてきた時に、一度、死のうかと思った。
だが、死ねなかった。
優れた魔族であるマトは、自分の意志で命を絶つことができるのだが、体も魔力も反応してくれなかった。トリトンの加護で水中で窒息死はできないため、岩魔法で圧死など色々と考えたが、全て、無駄に終わった。見えない邪神の手が、自分で自分にかけたあらゆる攻撃を無効化してしまうのだ。
師たちは訳あって、この世界にはいない。いたとしても、助けてなどと呼べない事を、その優れた感覚で悟った。
この邪神は加護を与えたことで、他との交信手段を遮断し、自害できないようにしたのだと気が付いた。
だから、洞窟を作って自分を閉じ込めた。
それでも加護の成長は止まらない。
このままでは、近い将来、自分はこの世界の本物の敵となってしまう。
自害できないなら、いっそ、誰かに殺してもらおうと思った。
だから、一番近くにいた、一番強い魔物である大王烏賊を操った。
彼女を倒せる者がいれば、それはすなわち、今の自分を殺せる可能性が僅かながらにあるということだった。
そして、ついにカイトとリチュアが現れた。
一頭と一人は、オルカディアを止め、大王烏賊を倒すことに成功した。
後は、自分が加護を抑えつつ、適当に加減をしながら、適度な頃合いを見て上手く殺されることができればいい。
死ぬことは怖くても、自分でなくなり、師たちにこれ以上顔向けできなくなることをするよりはずっとよかった。
なのに、彼らの力が一歩及ばなかったせいで、加護がついに目覚めてしまった。
『貴女は誰かに殺して欲しかったようだったけれどさー。
それくらい、私が思い至らなかったと思ったのかなー?
大方、悪い神とか悪魔って奴は、自分よりも下の奴を見下してるから隙を付けるとかちょっと考えちゃった感じ?』
はんっと鼻で笑ったかと思うと、クッタクァの声が急激に冷え込んだ。
『舐めてるのはどっちだ。こっちも遊びで君を眷属にしようとした訳じゃないの。
私には使命があるのよ』
「知ったことじゃないね」
『けれど君は私の眷属についになった。もう自殺なんてできないし、それどころか、ろくに君を殺せる奴なんていなくなったもう同然。
殺せるとしたら、そうねー……ま、今のところ、いないわね! できる奴ら、表舞台に出てこないし、魔界に戻っちゃったのもいるから』
あっけらかんとした調子に戻り、クッタクァは笑った。
マトは悔しさの余りに、舌を噛み切ろうと思った。だが、時の流れが違う現状、それができなかった。恐らく、元の時の流れに戻っても、舌を噛むことはできないだろう。
『ま、そう言う訳だから、諦めて、私の部下になってよ。マトリックス』
「断る……と言っている!」
『これはお願いじゃなくて、上司としての命令です! さぁマトリックス、さっさとこの大陸を纏めて、前線基地を築いちゃって! あ、じゃあ私は忙しいからこれでー』
クッタクァが命令を下すと、時の流れが戻った。
マトの体は勝手に動きだし、体を封じ込めていたグランド・シールドが全て掻き消える。どれだけ抵抗しても、もう無駄だった。
そして、海底のダンジョンは、ついに大陸の砂漠地帯、その半分ほどにまで達する、巨大な地下施設と化していた。
「やめろ……やめろ……」
クッタクァの交信は聞こえてこなくなったが、視線が、集中する標的が、頭の中に浮かんでくる。
砂漠にいる竜種、サンドストーム・ケタスと呼ばれる存在を、新たなる眷属としてこの施設へ迎え入れるために、自動的にマトリックスの体は動く。
「もうやめてくれぇ! 私は、私はぁ! 嫌だァァァァァ!!」
叫び空しく、ダンジョンがサンドストーム・ケタスの拠点である、地下湖の畔、その真下へと気配も音もなく到達した。
サンドストーム・ケタスは丁度、畔で眠りについていたが、何かに気が付いたように動き出した。
だが、ダンジョンの機能は決して砂漠の竜を逃がさないだろう。
終わった。
マトは諦めた。
諦めてしまった。
もう何もかも終わりだ。師に顔向けすることも、この海を見守ることも、全部できなくなる。
「あはは……もう、いいや……」
どうせなら……この海が荒らされないように……せめて、一人残らず、苦しまないようにさっさと同族に仕立て上げて……新しい世界で……。
「なんて……言うとでも思ったか!」
マトは自由に喋ることができることに着目していた。魔力が勝手に動いているが、ダンジョンを広げるために外部へ漏れ出していることも確認済みだった。
クッタクァがいない今が、最後のチャンスだった。
「大地の力よ……星の、血よ! 今、そなたの敵をッッ天へ……! 追放いたしましょう!!!」
外部へ漏れ出た魔力と、詠唱を行う事でコントロールを行い、最後の賭けに出る。
場所は自分の真下、そして海底洞窟全て。
グランド・シールドが自動で発動するだろう。だが、クッタクァの言う通りであれば、それよりも速く、この魔法は発動する。
もしも、この魔法にダンジョンや、自分の体が耐えたとしても……この世界とは、お別れできる。
「ヴォルカニックッッ!!」
『させないよ』
聞いたこともない、しかし意識に直接呼びかけてくる声と共に、最後の詠唱が止まってしまった。
『クッタクァの味方をする訳じゃないけれど、さっさと最前線基地が欲しいからね。僕は君の邪魔をするよ。悪く思ってもらっていいよ。邪魔をするんだからね』
一瞬、全ての動きが止まって、声が聞こえてきて、そしてまた動き出した。
そして、唱えていた最後の賭けは、不発に終わった。詠唱で操っていた魔力が、ダンジョンの地盤の強化へと、勝手に使用された。
「ダメ……ああああ……」
助けて、とマトは師へと願った。トリトンへ願った。
「助けて……私は……邪神の配下になんかなりたくないっ!」
首を伸ばして切望した。
応えはない。
『わかった』
高濃度の魔力と熱量を感じた直後、グランド・シールドが自動で出現した。しかし、近づいてきていた脅威を受け止めることはなく、甲高い音を立てて砕け散った。
そして、マトは少しばかりぶりに、明確な痛みと命の危機感を覚え、目を見開いた。
『何……? まさか』
『はいはーい、そこまでよ』
時の流れが止まり、先ほどの声が、そして新しい声が聞こえてきた。
新しい声は聞いたことのない、若い女のものだっただが、その主を知っているような気がした。
『アンタはとっととアテナにぶっ倒されてきなさい!』
『な――――』
会話がぶつ切りとなり、時の流れも元に戻る直前。
『やり方はアレだったけど、よく耐えたわね。今から、私の弟子がアンタを助けるから』
若い女の子はからっとした口調でそう言った。
完全に時の流れが戻った世界で、自動回復を始める体が自動で動き、マトは攻撃の主を見つけた。
そして、喉を引きつらせた。
『…………嘘、だ』
どうにかそれだけ、トリトンの加護に乗せて意思を伝える。すると、相手からは苦笑気味に応答があった。
『嘘じゃない』
『だって、君は死んだはず』
『勝手に死亡扱いするんじゃない。俺もアイツも無事だよ』
言って、巨大な三本角の竜種キャリバーの成竜は笑った。
『カイト君……なのかい……?』
カイトが頷き返したとたん、マトは自然と涙があふれた。
もう、体裁なんてどうでもよかった。
これが最後の希望だと理解して、マトはカイトへ切に願った。
『私を……助けて……』
『あぁ、お前は、俺たちが助ける! 生きてちゃんと皆にごめんなさいしてもらうからな!!』
東方に公認の声付き二次創作が……時代は変わったのですね……とか言いながらまぁ二次創作だし! 二次創作だし!!!!!などと(超厄介な)供述しながらスマホ買おうか悩んでいる私が通ります。
スマホ買ったら、私、FGOとプロセカとウマ娘もやるんだー(フラグ




