表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/50

古代の血、最後の日

アニメなら、この辺りで一度時間を確認して、あれ、これ、今日中に終わ……らないなって気づくパターン。

 洞窟へ戻ると、海中からマトが頭と首を出した。

 彼女は少しも訝しがることなく、笑顔で俺たちを出迎えた。


「やぁ、三日ぶりかな。どうしたんだい、街に向かったと思ったのに」

「街に行ったわよ、人魚の街に」

「えっ?! 結局行ったのかい?」


 目を丸くしたマトは俺たちを見て、


「おかえり、二人とも。ご苦労だったね」


 気遣うような、柔らかい声音で労ってくれた。そこに、嘘はなかった。


「本当、大変だったわよ」


 俺の背中に乗るリチュアが肩を竦めると、マトは頷いた。


「こんなことをいうのも何だけれど……本当に感謝している。ありがとう」


 マトは頭を陸地に着けた。それが、頭を下げているという意味だと、すぐに気が付いた。


「でも、どうしてなんだい? あんなに嫌がっていたじゃないか」

「こっちにも色々と事情があるのよ」


 リチュアはそう言ってはぐらかした。俺も、その理由は聞いていない。ただ、リチュアがシーシャドウを倒すと宣言してくれたおかげで、トリトナたちを助けることができた。

 だから、リチュアが戦った理由については踏み込むつもりはない。


「これで、あの人魚の街は安泰だろう。私も、安心だよ」

「それはよかったわね」

「あぁ。それじゃあ、君たちに報酬を渡さないとね」


 マトは首を持ち上げると、海の中に頭を突っ込んだが、すぐに、その口に何かを咥えて顔を出した。

 俺たちの前に静かに置かれたのは、白い円錐形の石……いや、歯だった。


「これは?」

「君たちへの報酬だよ」


 意味深に、何かを隠しているように、楽しそうな声でマトが言った。

 昨日までの俺なら、何を言っているんだこいつは、と首を傾げていたところだが、今ならわかる。

 この歯の記憶をリーディングして、パワーアップすることができるのだ。

 黙っている俺たちを見て、マトは含み笑いを漏らした。


「あ、いや、すまない。まぁそんな反応になるよね、と思ってね。確かに、死闘を繰り広げた対価には全く見合ってないからね」

「それはどうかしらね」


 リチュアは背中から降りると、歯へと近づいた。リチュアの踵から足の付け根までの長さがある鋭い先端には触れず、側面側にリチュアは触れた。


「これ、アンタの歯ね」


 彼女の言葉に驚いたのは俺だ。自分の歯を差し出してきたということは、さっき海中に顔を突っ込んだ時に取ったということか。

 色々と突っ込みどころのある行動に、俺は心の中で引いた。

 そんな俺の心の中など知らないだろうマトは、楽しげな様子を崩さず、能天気ささえ覚える嬉しそうな声音で笑った。


「正解だよ、リチュア君! そう、それは私の歯だ。抜けてもまたすぐに生えてくるから安心してくれていいよ」

「お、おう」


 呆気にとられてしまったせいで、どもってしまった。予想外な報酬だが、パワーアップできる手段を手に入れられたのだから、良し、と言うべきか。

 マトはかなり強力な竜種のようだし、リーディングが使えるリチュアの手で、俺かリチュアのどちらかがパワーアップできる。

 ……そう、考えたい。信じたい。


「この歯にある私の記憶を読み取りたまえ。やり方はリチュア君、君が知っているだろう」

「えぇそうね。確かに、これならあの死闘を潜り抜けた報酬としては申し分ないわ」

「喜んでくれてよかった。これが人間なら、やれ宝石を寄越せだの、金になるものを用意しろ、とか言うだろうからね」

「かもしれないわね」

「実は、リチュア君にはもしかしたら言われるかもしれないと思っていたんだ。君がタクティカル・ボアの骨まで残しているのは、きっと村や街へ行って、物々交換か買い取りしてもらうためだろうと踏んでいたからね」

「その通りだけど、別に私はこれでも問題ないわ。むしろ、おつりが来るくらいの報酬よ」

「なるほど。カイト君はどうだい?」


 俺もリチュアと同意見だ。人魚の街でのリーディング経験が、この報酬がどれほど価値のあるものなのかをわからせてくれているからだ。

 それに、トリケラトプスになっている今、人間同士にしか価値のないものをもらっても、ほとんどの場合は不要だからな。

 必要な金品などは、持っているタクティカル・ボアの骨や肉、毛皮で十分事足りるとリチュアに聞いている。


「俺も異論はない」

「そうかい」


 マトは嬉しそうに言った。


「その歯は、私が言うのも何だけれど、結構荷物になるだろうと思う。それなりに重たいし、ここでリーディングを行って、何か武器や道具に加工して行くといい」

「そうさせてもらおうかしらね。カイト、こっちに来て」

「おう」


 俺が歯へと近づくと、リチュアが腕を上げた。

 彼女が魔法をかけてくれれば、また俺は虹色の景色を目の当たりにし、マトの記憶の一部を覗き見ることになる。

 マトを見れば、静かにこちらを見下ろしている。先ほどまでの陽気な様子はなく、無感情で無感動な表情と、目も冷え切った温度で、考えが全く読めない。


「ところで」


 腕を上げたまま、突然、リチュアが口を開いた。顔は上げないが、話しの矛先は、マトへ向けられている。


「何だい?」

「私がリーディングできるって、いつから知っていたの?」


 一瞬、本当に一瞬だけ、マトの空気が切れ味の鋭い、刃物のようになった感覚があった。

 けれども、マトは表情を変えず、雰囲気も瞬時に穏やかなものに戻して、悪戯がバレてしまったような、照れた笑い声を漏らした。


「君は特殊なドライアドだからね。博識だし、もしかしたら知っているかもしれないと、半分カマをかけてみたところがあるんだ」

「ふぅん? 加護を使って覗き見はしていないということね」

「あはっ、加護を通して違和感があったから、ちょっと心配になって覗き込んじゃった」

「まぁそんなところだと思ったわよ」


 リチュアは淡々と言いながら、顔を上げない。その表情は無、そのものだった。

 流石に、マトもその様子に何か違和感を覚えたらしく、慌てたように首を揺らし始めた。


「あ、怒ってる? ごめんっ、でも本当に違和感があって覗き見しただけなんだ」

「別に怒ってないわよ。集中したいからあまり感情が出てないだけよ」

「そう、なのかい?」

「えぇ……準備が整った」


 リチュアが俺に目配せしてきた。頷き返すと、彼女はマトにようやく顔を向けた。


「じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」

「う、うん。そのために用意したんだ」


 リチュアが俺の嘴に触れる。彼女の表情も、目の動きも変わらない。

 あぁ、そうか。俺は胸の中で、落ち着くものがあることを感じて、そして悲しくなった。


「あぁ、そうだマト」

「何だい?」

「この歯、もしリーディングしたら、カイトが洗脳されるとかってない?」


 その瞬間、俺はリチュアが顔に飛び乗るのと同時にその場から後ろへ飛びずさった。

 緊張感でスローモーションになる視界の中で、先ほどまで経っていた場所に、無数の棘が地面から急速に伸びた。

 魔照石に照らされ、鈍く光るそれは、岩ではなく鉄でできているようだった。


 視界の時の流れが元に戻る。さらに一歩、二歩と後ろへ跳び、マトを睨み上げた。

 首から上を外界に出しているマトは、先ほどと違い、凍てつくような無表情と、雰囲気を纏っていた。


 数秒の沈黙を先に破ったのは、リチュアだった。


「ランド・アイアンニードル……コボルトが使え、得意とする魔法のはず。海の魔法生物であるアンタが使用できるなんてね」

「別に、コボルトたちの専売特許ではないさ」


 穏やかな声音のまま、マトが返す。だというのに、肌を襲う殺気が凄まじい。

 普通なら、折角あげたものに難癖をつけられたから、激怒した、と考える。

 だが、そうでないことを、リチュアの慌てない様子から察した。

 本当に、悲しくて苦しくなってきた。


「私が渡した物は、気に入らなかったかい?」

「いいえ、本来なら諸手を挙げて喜びたいところよ」

「なら酷いじゃないか、そんな風に言うなんて」

「酷いのはどっちかしら、マト」

「何がだい?」

「私たちを試したりするだけなら、まだよかった。けれど、無関係な魔物を操って、魔族を巻き込んだのは、いただけないわ」

「何を言っているんだ、君は。私はここでずっと海の様子を見守っているだけだ。シーシャドウを操ったりなんて出来る訳ないだろう?」

「いいえ、できるでしょ」


 一触即発の空気の中、リチュアは真っ直ぐに視線をマトへぶつけた。


「だってアンタ、今、シーシャドウって言ったわよね」

「え?」


 マトは訝しげな声を漏らし、そしてすぐに目を細めた。


「私がいつ、操られている魔獣がシーシャドウだなんて言ったかしら」

「今の話の流れなら、そう捉えるだろう?」

「まぁそういうこともあるかもしれない。でもね……


 あの大王烏賊、まだ人間たちには発見されていないから、ディープ・シーシャドウなんて名前、ついていないのよ。魔族たちでも、奴を呼ぶときは精々が魔獣化した大王烏賊、もしくは魔獣烏賊。あの子はこの世界の生まれだから、あっち生まれの魔族ですら名前をまだつけていない」

「え?」


 声を漏らしたのは、俺だ。

 シーシャドウが、まだ名前を付けられていない魔獣?

 人間はわかるが、魔族って何だ。

 この世界の生まれとか、意味が分からない。

 新しい情報が色々と出てきて混乱を極める俺を他所に、リチュアとマトの舌戦は終盤を迎えようとしていた。


「そんなアンタが、シーシャドウの名前を持ち出すのはおかしい」

「……加護で君たちを覗いた時に……いや、もういいか」


 マトはため息をついたかと思うと、顔と首を震わせ始めた。破裂音が聞こえてきたと思ったら、それはマトが喉を震わせて出した笑い声だったと気づいたのは、すぐのことだった。

 洞窟に、マトの大笑いが響き渡った。


「ははっ、そうだよ。ディープ・シーシャドウだったかな。あの魔獣化したばかりの大王烏賊に魔法をかけて操ったのは私だよ」


 言い終わるのと同時に、マトの周囲に、光り輝く魔法陣が次々と出現した。

 リチュアが無言で俺の背中を足で叩いたのを合図に、俺は全力で横へ跳んだ。

 直後、魔法陣の一つからさっきまで立っていた場所にビームが放たれ、大穴を開けた。飛んでくる水しぶきから、放たれたものが超高圧で発射された水だということがわかり、肝を冷やした。マトの抜けた歯は、ビームに巻き込まれて消えた。恐らく、粉々に粉砕されたのだろうと予想がついた。

 トリトナのブレスとは比べ物にならない威力だったそれが、多数、俺たちを狙って放たれようとしている。


「今のは挨拶代わりさ。これ、全部、避けて見なよ。そうでないと」


 マトの口端が、人間の表情のように、不気味に吊り上った。


「今日が、君たちの最後の日になるよ?」


ミラーマンを最近見始めました。面白いです。

ウルトラマントリガーも、ティガだけでなく、これまでのウルトラマンの色々な要素が詰め込まれているようで今から楽しみです。

ジャヒー様と寮母君とはめフラと坊ちゃんとうらみちお兄さんも楽しみです。


ところで、おちゃめ機能のホロインドネシア勢の歌ってみたとYuNiさんの未来景イノセンスを聞いてちょっと贅沢な夜だなとか思いました。(先週話


では、七月前半で第七章まで行きたいと思います。申し訳ありませんが、ひとっ走り付き合っていただけますでしょうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ