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深海の誘い

アニメで言う所の第5話始まりです。


 人魚の街の前でタイマン(真剣勝負)を行い、シャチの魔獣オルカディアのトリトナに勝利した俺とリチュア。

 彼女を退治するように依頼してきた大海竜マトに、加護を通して依頼達成の報告をしたところ、労いの言葉をもらい、一晩休んでから戻って来るように言われた。


 人魚たちに休める場所を聞くと、是非にと治療院の客室を使わせてもらえることになった。

 俺とリチュアは戦いの疲れからか、食事もとらずにそのまま眠り込んでしまった。


 そして翌日。

 人魚たちに見送られ、俺はリチュアを乗せて、四本の足で海中を来た時と同じルートを辿りながら泳ぎ、マトの洞窟まで戻ってきた。


「よく帰って来たね! 改めて、お疲れ様だよ、カイト君、リチュア君!」


 マトは上機嫌に俺たちを労ってくれた。表情は読めないが、滅茶苦茶喜んでいることはとても伝わってきた。


「いやぁ、あのシャチ、話を聞いてくれなくてね。助かったよ。これで、人魚の街も安泰だし、トリトナの妹さんも助かるし、皆ハッピーでよかったよかった」

「それに関してだけれど、アンタが行けば、やっぱりすぐに解決できたように思えるわ」


 リチュアの正論に、マトは「いやいや」と首を振った。


「彼女との体格差を考えると、攻撃を当てるための計算が色々と面倒くさいし、時間がかかる。私が戦うと、少し海が荒れちゃうからね」

「あー」


 確かに、こいつが暴れると、色々と大変そうだ。

 リチュアはまだ納得がいってなさそうだったが、「まぁいいわ」と矛を収めた。


「うんうん、これなら、君たちに次ぎの依頼ができるね」

「は?」


 マトの発言に、思わず声が漏れた。

 彼女は少しだけ悪びれたように視線を俺たちの高さに合わせ、苦笑を漏らした。


「実はね、そのトリトナとレイラ君の問題に関わってくるお話しなんだけれど、聞いてくれるかな?」


 あ、何だかすっごく雲行きが怪しくなってきた。

 隣に立つリチュアと目を合わせる。


(なぁ、これメッチャ怪しくね?)

(どう考えてもキナ臭いわね)


 アイコンタクトを取り合うと、リチュアが右手を小さく挙げた。


「……どういう事?」

「ん? 何がだい?」

「いや、私たち、トリトナの依頼だけ受けたら、終わりって思ってたんだけど」

「あぁ、そう言う事か。すまない、こちらは確かに止めてもらいたい事件だったんだけれども、本命は次なんだ」

「つまり、私たちを試していた、と言う訳ね」


 ため息をついたリチュアが、俺に流し目を送ってきた。何だよ。


「どうする?」

「どうするって……」

「正直なところ、私は本命の依頼とやらは受けたくないのよ」


 それを、依頼主の前で言えるお前、凄いよ。

 マトは怒らずに話を聞いてくれているが、こいつを敵に回したくはない。

 神様ではないとしても、加護をくれるだけの力はあるってことは、これまで出会ってきたどの魔獣よりも強いということだ。

 フローチュアは大樹の妖精で、指輪に加護を込めてくれていたらしいが、つまり、この竜も彼女のような魔法とはまた別次元の力を持っている。


 フローチュアの体に宿った精神生命体のリチュアが、不思議な力を持つマトを見上げ、目を細める。

 こいつ、どれだけ肝が据わっているんだ。


「試していた、というのは別にいいし、裏があることもわかっていた。けど、本命の依頼っていうのは聞き捨てならないわね」

「うん、君の懸念や怒りは当然だね」

「で、よ。アンタに助けてもらった恩は、トリトナの一件で終わったと思っている訳だけれど、どうよ?」

「うーん、そうだね。その通りだと思うよ」


 命の危機を救われた恩を、たった一度の依頼で返す……というのは、いい、のだろうか?

 少し疑問を覚えたが、リチュアは迷いなく言い切ったし、マトの方もそこに異論を挟む様子はなかった。


「覚えておきなさい。貸し借りはあるとして、普通、一つにつき一つよ」

「そうなのか?」

「そんなものよ」


 よくわからないが、マトが納得しているなら、別にいいのか?


「リチュア君、私が言うのもなんだけれど、この子の将来がとても心配になって来たよ」

「奇遇ね、私もよ」


 二人からとても生暖かい目を向けられた。

 何故だ……。


「で、話を戻すけど……本命の依頼は受けたくない。それよりも、とっとと次の場所に行って、しっかりと休息を取りたいし、装備も整えたいの」

「最もな理由だね」

「引き留めないの?」

「無理強いは、私の望むところじゃないさ。あ、このまま断ったとしても、私が君たちを攻撃するつもりも、何かしら嫌がらせをするつもりもないよ。加護もそのままだから、自由に水に潜るといい。加護を悪用しないことも誓う」

「……アンタ、正気?」


 リチュアがまたしても失礼な発言をするが、マトは笑って受け入れていた。


「正気も正気さ」

「本気で言ってるわね……」

「私は常に本気だよ。だから、君たちが嫌なら、無理は言わない。けれども、もし力をもう一度だけ貸してくれるなら、それ相応に報いさせてもらう」


 穏やかな声で、真剣な眼差しで見つめてくる。

 俺としても、リチュアの意見に賛成だ。これ以上、ややこしい問題に関わりたくない。


 けれども、トリトナやレイラちゃんに関わってくる話となれば、別だ。


「一応、受けるつもりはないけれど……話だけでも聞いていいか?」

「構わないよ」


 リチュアから、いらないことを聞くなと目線で咎められたが、聞くだけだからと返しておいた。


「そうだね、実は、私のテリトリーから外れた海域に、大王烏賊の魔獣が現れて、通りがかる者たちを攻撃しているんだ」

「うわぁ……」


 何というか、海外映画でよくありそうな感じの話だぁ。

 話を聞いていて、もう受けたくなくなってきた。トリトナの時にあれだけ苦戦したのに、大王烏賊と戦うとか、難しいを通り越して無理だろう。十本の触腕による攻撃とか考えるだけでも気分が滅入ってきた。

 それに、イカ墨と迷彩で、ただでさえ視界の悪い海中で翻弄されるとか地獄以外の何物でもない。


「かなり頭も良くて、魔法も使える凄い奴だよ」

「だよね……けれど、マトがやればすぐに解決できそうなのにな。人魚の里の事じゃないから、自分で出ることもできるだろう?」

「それもそうなんだけれど……私が行くと、すぐに気づかれてしまってね。逃げられてしまうんだ」

「……そのまま追い回して他海域へ追い出すとか……」

「そうなると、他の場所の生物たちが攻撃を受けてしまうだろう?」

「え、そこまで考えるのか?」


 普通、邪魔な奴が来たら、殺すか、縄張りの外へ追い出してそれで終わりなのではないか。

 他地域の奴のことまで考えるのか。


 まぁ、その考えは、俺も嫌ではないが……あんまり他の海域の事を考えていなかった俺の方が何だかなぁって感じだな。


「私たちは自分のことで精いっぱい。私の両手も、アンタの背中も、助けられる相手が限られているわ」


 リチュアが見かねたように割って入ってきた。その目には呆れが浮かんでいた。


「アンタは神様でもないし、誰かを守る使命を帯びた役割を持っている訳でもない。アンタがすべきことは、わかっているでしょ?」


 そう言われてしまえば、返す言葉もない。

 俺のやるべきことは、フローチュアが目覚めるその時までリチュアと共に旅をして、レッドハンドを倒せる力を手に入れて、全てを片づけ、あの森に復活したリチュアを返してやることだ。

 トリトナとレイラちゃんは、恐らく大王烏賊に襲われたんだろう。知り合った以上、レイラちゃんの事は心配だが、人魚たちの治療もあって、回復している。トリトナも敵討ちに行く、とは表だって名言していない。

 なら、俺たちはもうこれ以上関わらない方がいい……のだろう。


VIVIの第9話がやっぱり切なかったのですが、いいお話でした。次回と再来週で成長回でしょうか?



――――???

カイト

種族:古竜種キャリバー

性別:男

年齢:0歳2か月

二つ名:角鎧竜の子孫

習得魔法

・アースショット


リチュア

種族:????(宿主はドライアド)

性別:女

年齢:不明

二つ名:???(???)

習得魔法

・フローチュア由来の植物魔法(大樹がないため、杖替わりの小枝を利用する程度しか使用できない)

・チェーン(魔力で構成された鎖。強度はマトが目を見張るほどだが、長時間の拘束ができない)

・アースショット(惑星の力を借りて撃つ魔力弾)

・ネイチャー・ブラスト(魔力によって周囲の環境を操る、妖精由来の技。リチュアが使っているのは中級以上の妖精、または精霊が使用するエネルギーに匹敵する)

・???(使用者の肉体のリミッターを外す。使用時間は最大5分までで、数分のインターバルを挟む必要がある)

備考:魔法を使用できる回数は一日に三回まで。それ以上使用すると気絶する。また、使える魔法は本来もっとあるらしく、ランダムで思い出しているとは本人の談。

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