始まりからの依頼
「な、何だ?!」
「敵……?!」
俺たちは警戒しながら、様子を伺う。隠れられるところはない。敵も見えない。
爆ぜた場所を見ると、すり鉢状の深い穴が開いていた。
「これは……?!」
「……まさか」
俺の視界の中で、何メートルも先の海の中から、俺を睨んでいる気配がした。
また、ごわっと軽い寒気が走った。
「避けろぉ!」
リチュアの怒声と一緒に、俺は転がるように横へ飛びずさった。けれども、それでまだ寒気が収まらなかったので、そのまま跳んだ方向へ向けて走り出した。
大正解だった。
また、立っていた場所が爆ぜた。
飛び散るのは砂と、水。
海水だ。匂いでわかった。
水鉄砲のように真っ直ぐ、海水が砂浜に伸びているのだ。
それが、俺たちを追いかけてくる。横へスライドしてくる。
弾ける大量の砂と、海水と混ざった泥、海水のしぶき。
後ろが見える今の視界が、深く鋭く抉り刻まれた砂浜の様子を映した。そして、岩山に当たって、粉砕している様も見れた。
なんだ、これは……いや、まさか、これはまさか?!!!
「水のブレスか?!!」
「無駄口叩かず走りなさい! 追いつかれるわよ!」
あんなのに当たったら、いくら俺でもお陀仏確定じゃないか!
必死に走りながら、水鉄砲の発射地点を確認する。
俺たちが走っている場所から、直線距離で約五十メートルだろうか。
そこから何者かが顔を出して、砲台のように向きを変えながら俺たちを攻撃し続けている。
あんな距離から、こんな威力を保ったまま放ているのか。
「鉄砲魚でもいるのかこの海はぁ!」
「違うわ。アイツは、そんな可愛いもんじゃないわよ」
リチュアが杖を取り出した。いつものように溜めが必要なのかと思ったが、
「シールド!」
杖が振われると、俺たちの斜め後方に、半透明な楕円の壁が出現した。壁は俺を追従して動いている
「これは?!」
「見たまんまの盾の魔法! 多分、一発は確実に防げるけれど、二発目で砕け散ることになるわ」
「二回目で貫通してくる可能性は?」
「あるわ」
「なるほど。で、いつになったらこのブレス止まると思う?」
息継ぎ、というか、疲れないか?
「恐らく、諦めるか、私たちが視界から消えるか……もしくは、魔力がある程度まで減らないと止めないでしょうね」
「何?」
「後で説明したげるから逃げなさい。ところで、アイツから何か意思は感じる?」
「えぇと……?」
遠すぎるし、必死に逃げていたから、完全に意識から外れていた。
改めて、少しだけ水鉄砲の発射地点からの意思を感じ取ろうとしたら、
『ご飯逃がしたじゃねーか!! どう責任とってくれんだよって言うかアンタが私のご飯になれ! このっ、このっ、このぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』
メッチャ怒りの意思を感じた。
女性の声だった。多分、十代半ば以降のイメージ。
タクティカル・ボアのフォロよりも過激な意思だった。
アレだ、フォロが元気っ娘というイメージだが、こっちは「?!」みたいな文字が頭の上に出ている感じの娘だ。どう伝えたらいいのやら。とりあえず、怖い。
「で、どうなの?」
「メッチャクッチャ怒ってる」
「あー、でしょうね。あのサメ、あいつの獲物だったでしょうから」
「ですよねー」
助けたことに後悔はしていないが、現状は最悪である。
「って言うかさ、波打ち際ならいざ知らず、そこそこ内陸に入っている場所まで打ち上げといてよく言うよな」
「やりようはいくらでもあるのよ。つまり、アンタはご飯を横取りした憎き仇って訳」
「言い逃れできねぇぇぇぇぇ!」
リチュアからバッサリ切り捨てられた。
誠心誠意謝ってどうにかなるような状況じゃないな。
だって魔獣だもの。かいと。
「こうなったら、残りの肉をぶん投げて許しを請うしかないわね」
「それで許してくれると思うか?」
「想わないけれど、他に案があるなら言ってみなさいよ?」
ないです。
「後ろは岩山、前は海。進めるのはこの砂浜だけ。と言っても、そろそろ限界かもね」
「え?」
「この先に岩が見えるわね? 下側が窪んでるとこ」
進んでいる先には、確かに、海に大きく突き出た大岩山があって、その下側が円弧に削られた、通り道がある。その先には砂浜が続いて見えている。崖下の道も、波が押し寄せてはいるが、見た感じ通り抜けは簡単そうだ。穴も、リチュアを乗せた状態でも超余裕で潜れるほど、高さがある。
「あれがどうした?」
「あれの下、ちょっとした浅瀬になっているの。で、あそこを通ろうとしたら、水鉄砲で上の岩を破壊されて、私たち生き埋めよ」
「なっ?!」
まさか、そんな頭も持っているのか、この攻撃を仕掛けてきている奴は。
「このシールドで防ぐことはできるでしょうけれど、身動きが取れなくなったところで攻撃されるわね」
「このもう一枚シールドを作るとかして、上の岩を防ぐ、なんてできないか? その隙に通り抜ける」
「残念なことに、無理ね。使えるようになった、というか、思い出したのもついさっきなのよね」
「え?」
「さぁ、もう時間がないわ。ここは一発逆転にかけるしかない」
「は?!」
ほぼ走ることだけにリソースを割いているため、リチュアの言っていることが今一、頭に入って来ない。
「ここで足を止めろ!」
言葉を遮るように叫んだリチュアに、体が自然と従った。何だ、今のは?!
急ブレーキをかけた俺に、迫っていた水鉄砲がぶち当たるが、空中に浮いたシールドがそれを全て防いでくれていた。
「そして今のうちに戻る!」
「お、おう!」
シールドが水鉄砲を受け止めてくれている一瞬で方向転換し、来た道を逆走する。
ワンテンポ遅れて水鉄砲が付いてきたが、シールドがそれを防ぎ続ける。
だが、すぐに甲高く、細かい音がしてきた。
「シールドが破壊される! 砂浜まで戻って、一気に砂漠へ退避するわよ!」
「了解だ!」
『砂漠に逃げようたってそうはいくかよ!!』
げっ、水鉄砲の主、俺たちの作戦を見破ってやがる!
「あいつ、俺たちのやろうとしていることを見破ってるぞ!」
「まぁ頭いいからね」
「一体何なんだアイツ」
「オルカディアっていう、シャチ型の魔獣よ」
シャチぃぃ?!
なるほど、サメをぶっ飛ばし、食べようとしていたから一体どんな奴かと思っていたら、シャチか。
鯨を食べることで有名だった記憶があるけれど、アイツらサメも食べるんだったな。
人間を除いたら天敵がいないっていうくらい、海の食物連鎖の頂点に立っている哺乳類。
「岩場が切れたら、即行で砂漠へ入るわよ!」
『その前に絶対に潰してやるよぉ!』
「アイツ俺らの会話理解してんじゃねーか!」
「ちっ……厄介な奴ね」
そうこうしているうちに、岩の壁が低くなってきた。砂漠の出口が近いようだ。
シールド、一発しか持たないっていうから、心配だったが、かなり頑張ってくれているようだ。
『ちっ、しゃらくせぇ! シールドごとバラバラに引き裂いてやるっ!』
「怖っ、メッチャ怖っ!」
「余計なことに首を突っ込むからよ。ったく」
言いながら、リチュアが杖を海の方へ向けた。
「そのまま走り切りなさい! もしもの時はフォローする!」
「すまん!」
「そう思うなら次からもう余計な事には首突っ込まない!」
「善処する!」
「はい、で終わらせなさい!」
ぴしり、とひときわ高い音が鳴った。
シールドが、もう粉砕直前だった。
それに、何だか、嫌なゾワリとする感覚が、海の方からもう一つしてきた。
ちらと見て……空中に、何か光っている円状の何か……が?
「急ぎなさい、マジで死ぬわよ?!」
「アレ、もしかして魔法なのか?」
「魔法陣、もう一発ブレスが来るのよ!」
ブレスって、何だっけ。
『これでトドメだ、くたばれぇぇぇっ!』
魔法陣が一瞬、光った直後。
〈そこまでだよ〉
新しい誰かの声が、頭の中に響いてきた。
それが聞こえてきた途端、海上の魔法陣が消え、水鉄砲も収まった。狙撃手の姿は見えなかった。
どうやら、脅威は去ったようだったが……。
考えていると、シールドが音もなく葛るように消えた。
「た、助かった……のか?」
「助かった、と言っていいのかわからないけれど……さっきの声は……」
「あれ、お前も聞こえていたのか?」
「えぇ」
〈その声とは、私のことかな?〉
「「?!」」
また、頭の中に声が聞こえてきた。
「足を止めないで。砂漠に逃げ込むわよ」
リチュアが周囲を見渡しながら油断なく身構えていると、三度目の声が聞こえてきた。
〈あ、ちょ、待って。流石に砂漠に行かれたら私でも追いつくのは苦労するから……って待って、お願いします、待ってください〉
何だか、急に下手に出てきた。
最初は余裕たっぷりだったのに、落差が激しい。
「……止まるか?」
「止まる訳ないでしょ。正体もわからないのに」
〈あ、私は大海竜って人間に呼ばれているよ〉
「止まって!」
リチュアの強い語気に、足を止めた。丁度、砂漠の出口の前で動きが止まった。
リチュアが俺の背中に乗ったまま、海を睨んだ。
海は何も変わらず、大きく、広く、深く、全てを受け入れるようにそこにあった。
「今、大海竜って言った?」
〈大海竜、確かに言ったよ。そうだね、名前も言っておこう。
大海竜のマト。
それが私の名前だよ〉
‡
カイトとリチュアは、マトと名乗った声の主の誘導で、海岸付近の岩山にあった洞窟へと潜った。
真っ暗で、水気でじめっとしており、肌寒さもあったが、リチュアが手製の松明をつけてくれたおかげで、カイトは問題なく進むことができていた。高さも、リチュアを乗せた状態でも、十分に余裕がある。
一本道で迷うことはなさそうだ。
「自然に発生した洞窟……という訳でもなさそうね」
「そうなのか?」
「壁が粗削りだけれど、何か強い力で削られた痕跡を残している……恐らく、魔法で掘ったわね……最近のことね」
〈うん、君たちのために掘ったんだ~。あ、崩落の心配はないから、安心して進んでいいよ?〉
カイトは、マトの力に言葉を失った。
カイトたちのためにわざわざ掘ったと言うが、そんな簡単にできることでは決してない。
それも、カイトたちが通れるような広さを確保し、なおかつ、崩落などの危険を回避できているなど、まるで魔法の力を使ったかのようだった。
そう言えば、クロウは魔法の玉を作ったり、砂嵐を起こしたりしていた。
この洞窟を掘ったのも、マトの魔法や、超能力のような類なのだろう。
カイトは戦慄を覚えた。
足を止めたくなるが、こんな力を使う相手の不況を買えば、今度こそ何をされるかわからないため、それもできない。
やがて、一頭と一人の視界に、淡い光が漏れる出口が見えてきた。
〈そこに入ってね~。あ、罠じゃないから安心してね〉
「大丈夫よ、行きましょう」
「あ、あぁ……」
出口を潜り抜けたカイトは、思わず声を漏らした。
「うわぁ……」
目の前に、宇宙が広がったかのような光景が飛び込んできた。
薄暗い洞窟の中を、薄水色のほんのりとした無数の輝きが照らしている。
上も、左右も、足下も燐光が散らばって見える様子は、まるでプラネタリウムのようだった。
足元を見れば、輝きを発している源を見つけることができた。
リチュアの掌に収まるくらいの、小さな小さな石が光っていた。
「魔照石……」
リチュアも、少し驚いた様子であった。
彼女が天井を見上げたので、釣られて見上げるが、どれだけの高さがあるのか、暗さと魔照石の灯りの影響で判別がしづらかった。
半球状の洞窟だということ、そして目線を下へ戻して、自分たちが立っている場所を囲むように、大きな湖が存在することを見て取った。
と、カイトの鼻先に水滴が落ちてきた。
「……高さ約五〇メートル……広さは……私たちがいる場所で、ざっと二〇〇メートル」
「何?」
「恐らく、ここは海底の下にできた、洞窟湖」
〈正解だよ〉「正解だよ」
頭と、聴覚へ、同時に声が聞こえてきた。
驚いて辺りを見回すが、誰もいない。
いや、待て、とカイトは目を凝らした。
湖の、自分たちの正面の水面が揺れている。
そして、突然弾けたかと思うと、巨大な影が飛び出してきた。
洞窟の高さの半分程だろうか、大きな蛇のような頭が、カイトを見下ろしている。
突然のことに、カイトは呆気にとられ、ただ見上げることしかできなかった。
「ここまで来てくれてありがとう」
洞窟内に響き渡る、少しだけ低く、凛とした女性の声が、目の前の巨大な蛇から発せられた。
「ようこそ、私の秘密基地へ。歓迎するよ、カイト君、リチュア君」
「アンタは……マト、なのか?」
どうにか声を絞り出すと、マトは首を小さく上下させた。
「その通り。大海竜マトだ。首だけの挨拶は許して欲しい」
「あ、あぁ……」
首だけでこれだけ大きいのであれば、全身が出てきたら、どれだけの大きさになるのか。森の中で逃走劇を繰り広げたギガントボアが子どもに見える偉容に、カイトは圧倒されるだけだった。
対して、リチュアは落ち着いた様子だった。
「それで、私たちをわざわざここまで呼んだ理由を教えてもらおうかしら?」
「お、おいリチュア」
普段と変わらない態度のリチュアに、カイトは戦々恐々だった。
相手は恐るべき力を持った存在だ。怒らせれば二人ともすぐに殺されてしまうだろうと想像に難くなかった。
だが、マトは気分を害した様子は一切なく、「そうだね、早速本題に入ろう」と涼しげな様子だった。
「実は、君たちにお願いがあるんだ」
「お願い?」
「君たちを先ほど攻撃した存在……リチュア君がさっき呼んでいた、オルカディア、だったかな。彼女を退治して欲しいんだ」
今週のスライム倒してが動きまくっていてさらにかわいかったです。(小並感
そして、VIVIの展開に本当に鳥肌が立って次回が待ち遠しくて仕方ありませんやっぱりヤバいですこの作品。
超おすすめです。
プラメモでプルートゥでゼロワンと言えば大体あってる気がします、多分きっとメイビー。




