表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/50

疾風怒涛の愛の歌


『クロウ、一つ言っておく』

『何?!』

『もしかしたらさよならだ』

『はぁ?』


 そして、その時が来た。


「チェーン!」


 クロウの周囲の砂から鎖が何本も取り出し、その巨体をがんじがらめにして抑えた。


『な、これは?!』


 クロウが暴れても、鎖はビクともしなかった。

 それでも、魔法弾が止まった。


 だがこれで終わりではないことを、リチュアが俺の背中に飛び乗ったことで示した。

 杖を持った右手を、クロウへと突きつけて、勇ましく叫んだ。


「ネイチャー・ブラストッ!」

『え、ちょ、それってぇ!』


 クロウの悲鳴が消えた。

 彼女の真下から吹き出した、水柱によって。


「間欠、泉……?」

「地下水脈からの贈り物よ」


 荷物入れにもたれ掛ったリチュアが疲労困憊気味に、しかし自慢気に教えてくれる。

 いつの間にか砂嵐も消えていたが、次は吹き出した水が雨となって振ってきた。


「うーん、生き返るわね」

「あぁ、そうだな」

『おおおおお、溺れるぅぅぅぅぅ?!!』


 気持ちよさそうなリチュアとは正反対に、クロウはもがき苦しんでいた。


『た、助けてぇ……』

「アイツ、逃げないのか……?」

「魔法で勢いが増した間欠泉に、チェーンで身動きを封じられている今、逃げられる訳ないじゃない」

「あ、そうだったわ」


 鎖の事、すっかり忘れてた。


「このままだとアイツ……」

「私だって殺るならもっとあっさりやりたかったわよ。けれど、現状、こうじゃないと倒せないのよ」

「……聞いていて凄く嫌な気分になるな」

「私も嫌よ」


 さっきはどうなっても知らないと思っていたが、いざクロウの溺れる声を聞いていると、流石にクるものがあった。


「どうにかならないか?」

「どうにかって?」

「あっさり殺す方法」

「ないわね。後十分くらいはずっと吹き出しているわ。突然のことで息は吸ってないでしょうから、五分もせずに終わるわね」

「そっか」


 なら、仕方ないな。

 かなり嫌な気分だが、奴が事切れるまで、ここで体力回復も兼ねて待つしかない、か。

 だが、


『く、苦しい…………ママ……パパ……お姉ちゃん……お兄ちゃん……』


 その意思が聞こえた時、俺は動き出していた。


「あら、どこ行くの?」


 わかっているだろうに、リチュアが尋ねてきた。


「教えてくれ、リチュア。クロウが俺たちに攻撃できなくなるような、リーンみたいな弱点の場所を」

「アンタ、そう言うの嫌って言ってなかったっけ」

「嫌だ。けれど、このままこいつの苦しむ声を聞きながら過ごすのも嫌だ」

「甘ったれてるわねぇ」

「甘ったれでいいよ。別に、こいつが俺たちの目に入らない場所でどうなっていようと、関係ないって気持ちは確かなんだ」

「じゃあ、どうしてアイツのとこへ行くの?」

「……アイツが、家族を呼んでいたからだ」


 妹の事を思いだしたから、と言う訳ではない、断じて。

 ただ、意識が朦朧としている中で、家族を呼ぶクロウの声が、聞こえてきたからだ。


 さっきまで、全力で殺そうとしてきた相手に、何を言っているんだ、という気持ちは、それでもある。

 だが、助けたい。


「……今から私が真似するフレーズを、クロウに呼びかけなさい」


 リチュアは怒らず、呆れず、ただそれだけ言ってくれた。

 そして、何やら高い声で歌い始めた。


『愛してる、愛してる、愛してる、どうか君と結ばれたい』


 これは、もしかして、鯨の歌みたいなものか。

 これがサンドストーム・ケタスの求愛の歌か。

 何故リチュアがそのような歌を歌えるのか疑問だが、人間も知らないようなサンドストーム・ケタスの生態を知っていたし、今更か。


「さ、今のを口ずさみなさい。きっと上手く行くわ」

「あ、ああ!」


 上手く歌えるかどうかはわからないが、精一杯、クロウに呼びかける。

 水の勢いにも負けず、どうか届けと意思を歌と共に伝える。


『愛してる、愛してる、愛してる、どうか君と結ばれたい』

『…………お兄ちゃん?』


 反応があった。

 かなり弱っている。だが、これはいける。


『愛してる、愛してる、愛してる、どうか君と結ばれたい』

『………………えへへ……お兄ちゃん、私、もうそんな事で喜ぶような、子どもじゃない、もん』


 意識が朦朧としているらしく、先ほどまでとは全く違う雰囲気で、クロウは応えた。

 それが素のお前か。


「リチュア、他にないか?」

「んじゃ、『愛してる、愛してる、君を傍で見守りたい』って言うのでどう?」

「よし、『愛してる、愛してる、君を傍で見守りたい』」

『……お兄ちゃん……しょうが、ないなぁ……私がいないと……ダメ、なんだからぁ』


 クロウの穏やかな声が、水の中から聞こえてくる。


『愛してる……愛してる……私も、お兄ちゃん……皆を……愛して……』


 まずい、もう意識を失いかけている。


「リチュア、間欠泉を止められないか!?」

「仕方ないわね……殺気も敵意も全部消えてるし……ほら」


 リチュアが指をスナップすると、瞬時に間欠泉が止まった。

 数分ぶりに姿を見せたクロウは湿った砂の上で、ぐったりとうつ伏せになっていた。鎖も消えていた。


 恐る恐る近づくと、呼吸音が聞こえてきた。どうやら、まだ生きているらしかった。


「で、助けた訳だけど、どうする? これで襲い掛かられたら、もう打つ手なしよ」

「……大丈夫だ」


 俺はさらに近づき、そして、


『愛してる、愛してる……君だけを愛してる……』


 静かに、妹に子守唄を歌う時のように歌うと、


『……愛して……る……私……愛して……』


 と、クロウから返ってきた。

 すると、リチュアが「よし」と声を漏らした。

 どうやら、今ので契約のようなものが結ばれたらしかった。


 さて、この後……どう説得しようか。


「気が重たい……」

「自分でやっておいてそれはないでしょ」

「いや、まぁ、確かにそうなんだが」

「リーンの時のように説得すればいいじゃない。でも、どの道最低野郎というレッテルは背負わなくちゃいけないけど?」


 うぐ、返す言葉もない。

 やっていることは甘い言葉をかけて、女の子を誘惑している軟派野郎そのまんまだし。


 リーンに今度会ったら、なんて言おうかな。

 そんな事を考えられる程度には、心に余裕が戻っていた。


「ありがとう、リチュア」

「はいはい、本当に感謝して欲しいわね」

「滅茶苦茶感謝してる。この旅が終わったら、お前の望み、俺ができる範囲で聞いていいくらい」

「ん? 今なんでもって」

「言ってない、言ってない」


 そんな事を言い合いながら、クロウが起きるまで待っていた。

 雨が止んだ砂漠は、一瞬だけ、真夏の日本のように蒸し暑くなったので、クロウの影に入って休ませてもらった。



           ‡




 十分くらいしてから、クロウが目を覚ました。


『アレ……ボク……まだ生きてる?』

「目が覚めたな」

「気分はどう?」

『君たち……何で……?』


 まだ寝惚けているのか、クロウが怪訝そうな声を漏らした。

 仕方ない、やりたくはなかったが、もう一度やるか。


『愛してる、愛してる』

『え?』


 クロウは一瞬、呆けた声を出したが、すぐに顔を上げた。


『あ、ああああああ!! あああああれぇぇぇぇ!』

「うるさいよ」

「今度、しっかりとした耳栓でも作ろうかしら……」


 今日一番の大絶叫が砂漠に響き渡った。これ、下手したら岩砂漠の方まで届いているんじゃないかってくらい。

 それでも、俺とリチュアは顔をしかめる程度で済んでいる。理由は単純で、こうなることを予測していたリチュアが、余っていた素材で二人分の即席耳栓を作ってくれていたからだ。


「もうちょっと声を落としてよ」

『い、いやいやいや! ちょっと聞きたいんだけどさ! どうしてカイト君がボクたちの歌を歌えるの?! そ、それも!』

『愛してる、愛してる、って奴か?』

『そうそれ!! き、君、種族が違うのに!』

『できたんだからしょうがないだろ』


 それを言うならリチュアもできたしな。と言うか、リチュアが一番の謎だよ。


『ま、待って! ちょっと待って……あのさ、カイト君』

『何だよ』

『その……もしかして……君……さっき、歌ってた? ボクがその、溺れている時に』

『歌ってたな。水が止まってからも一回歌ったな』

『……何て歌ったの?』

『君だけを愛してる、だったか?』


 歌ってみせると、クロウはぽかーんと口を開けて、震えだした。


『ぼ、ボク……それになんて返答した?』

『愛してるって返してくれたな』

『ぼ、ボク、ボクは……』

『ところでお前、昔は自分の事、私って呼んでた?』

『ひぅ?! どうしてそれをっ?!』

『自分で言ってたぞ』

『うわああああっ! 忘れてぇぇぇぇ!』


 また大絶叫。そろそろ、耳栓があってもキツくなってきたな。

 俺たちのダメージを他所に、クロウは前鰭で両目を覆って、恥ずかしさに打ち震えだした。


『い、意識が朦朧としていたとはいえ……こんな……獲物と……子どもと、あ、ああ、ああああ愛の歌を交わすなんてぇぇぇぇ』

『愛っていうか、親愛だけどな、中身』

『アレは男と女、求愛の歌なんだよおこちゃまぁぁぁぁ!』


 はっはっはっ、カイトまだ生後半月も経ってないからわかんないな。

 まぁ冗談は置いておくとして、リーンの時よりも状況は酷い。

 完全に俺、悪者だからな。女の子を口説いて、辱めているという点に置いてだけだが。


『うぅ……私、どうすれば……』

『えーと、子どもだから、却下とか』

『そんな事出来る訳ないでしょ! 子どもだからって、愛の歌をくれて、ボクは返したんだ! 今更却下とかできないよ!』


 嫌がる割に律儀だなオイ!

 くっ、こうなったらリーンの時のように説得するしかない。

 と言うか待て。今もし却下されたらまた攻撃されるところだったんじゃ……これからいたない事は言わないようにしよう。後、律儀な性格でありがとう、クロウ。


『じゃあさ、こうしたらどうかな。俺とお前は、こう、家族! そう家族だ! アンタが姉で、俺が弟! みたいな感じでさ!』

『え?』

『愛はほら、友愛親愛ってあるだろ? 一緒にいたいっていうのは、何も恋愛だけじゃないってことだよ』


 おおおお、我ながら苦しい言い訳。

 だが、口八丁に手八丁でこの場を丸く収めなければ、俺とリチュアの身が危ない。

 そして、クロウへの罪悪感もヤバい。


『だから言っただろ、親愛の歌って。俺、アンタみたいな姉、嫌いじゃないぜ?』

『弟……? 君が? 笑わせないでくれる?』

『じゃあ、結婚ということで』

『ああああああもうわかったよぉぉぉぉ!!!』


 しょうもない説得だったが、どうにかクロウが俺たちを攻撃せず、なおかつ彼女の心のダメージが最小限になる条件を勝ち取れた。


 で、軽くリチュアに説明したら、鼻で笑われた。うん、だろうね。




           ‡




 サンド・ウルフのボスは、大いなる気配が近づいている事を感じて、ねぐらから顔を出した。

 どこまでも広がる大砂漠と、岩だらけの砂漠。その境目に、唯一草木が生えている、オアシスが存在する。

 ボスたちは、このオアシスに近い、岩砂漠の洞穴に住んでいるのだ。


 またあの怪物が来たのか。

 獲物を探しているのだろうが、何もいないだろう、と巣穴に戻ろうとして、ふと、カイトとリチュアの事を思いだした。

 ここに奴が来ているということは、二人は無事ということだろう。

 そうでなければ、わざわざ獲物を探しに、砂砂漠の端にまで来ないはずだ。

 そう思いながら、少しだけ心配する気持ちが浮かんできた頃、ついに地平線の彼方から、巨大な影が姿を見せた。

 大きな岩山のような背中を出し、高速で突き進んでくる様は、遠くから見ていても圧巻だ。あれに追いかけられた若き頃の苦い思い出に、ボスは苦笑を漏らした。


 だが、それも一瞬の事。

 乾いた風に乗ってきた臭いを感じ取り、目を丸くした。


 そして、魔獣として得られた高性能の視力が、オアシスに近づく怪物の背中の上に立つ、不自然な影を見つけた。


『あ、あれは……まさか!』




           ‡




 一方その頃、カイトとリチュアは、クロウの背中の上で、近づくオアシスに安堵の息を吐いていた。


「まさか帰還することになるとはな」

「いいじゃない。水も減ったし、疲労困憊だし。もう一日休んでいってもばちは当たらないわ」

「確かに」

「二人ともー、そろそろつくよー」


 すっかり落ち着きを取り戻したクロウの元気な呼びかけがあった。


「頼むよ、姉ちゃん」

「ふふふ、任された弟君」


 カイトの言葉に、機嫌よく乗ってくる様子からは、先ほどまで死闘を繰り広げていたとは思えない、親しげな雰囲気があった。


「アンタたち、よくやるわね」

「あれ、リチュアちゃん羨ましい? リチュアちゃんも私の妹になる?」

「冗談。私は生まれてこの方ずっとお姉ちゃんよ。今更、妹化とかしないわ」

「お前、姉だったのか」

「えー、いいじゃない、きっとボクの方が年上なんだしさー」

「じゃあ聞くけど、何歳なの?」

「ざっと千歳!」

「だとしても私は妹にならないわ」

「自分で振っておいてケチだなー」


 そんな事を話しあいながら、カイトたちは再びオアシスへとたどり着いた。

 そこでサンド・ウルフのボスたちとも再会して、事の経緯を説明し、彼らの度肝を抜くことになる。


『カイト……お前は……なんというか、恐ろしい小僧だな……』

『俺は今回、逃げてただけだけどね』

『えー? カイトは結構頑張ってたよ? 自分を盾にしてリチュアちゃん守ってたし』

「何話してんのか知らないけど、メッチャシュールな光景ね」


 オアシスで寝そべるトリケラトプスと狼、そして巨大な竜種の構図に、カイトの腹を枕代わりにしているリチュアが、ぼそっとつぶやいた。

 そして空を見上げる。


 どこまでも広がる星の海が、普段と変わりなく、輝いていた。


お読みいただきありがとうございます。

アニメで言う所の第3話終了です。もしかしたら、第4話と前後編になっているかもしれません。

もうアニメの第3話で行きましょう! 多分この長さなら色々とまとめて一話に収まるはず。(夜中テンション


次回からは、アニメで言う第4話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ