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疾風怒涛の攻防戦


前略


 幸香、そろそろ学校には慣れましたか?

 母さんと父さんに、幸香が学校で使えるようにと頼んでおいた分度器とコンパスがあります。使うのはもう少し先になるでしょうが、これを君に送ります。今のコンパスは先端がプラスチックになっていますが、やはり危ないので人には向けないように。

 コンパスは綺麗な円を描くことができます。

 幸香の心も円のように綺麗ですから、きっと、楽しい縁が結ばれるでしょう。

 母さん、父さん、不肖の息子は別の世界で元気に暮らしております。ご心配なさらず。

 最近、暑い場所を旅しているので、そうめんやざるそばが恋しいです。

 無事戻れたら、皆でまたそうめんをつつきましょう。


草々




「その前にお前らをまずつっつかなくっちゃぁなぁ!!」


 カイトの絶叫が乾ききった砂だらけの砂漠に木霊した。

 あまり余裕がないため、地球にいる家族へ向けたメッセージも前略で始まっている。

 彼は姿勢を低くし、角を前に向けて構える。逆に尻尾は浮かせて、ゆらゆらと揺らしている。いつでも、鞭のように振るえるようにしているのだ。


「つっつくんじゃなくて、ブッ刺すのよ。あ、急所は外して、立てないくらいの怪我をさせるのが効果的よ」

「怖いこと言うなよ?! 一思いにやった方がお互いの為だろ!」


 抗議するカイトの背中に跨っているリチュアは、魔猪の素材で造ったハンドクロスボウを構え、カイトへ近づく敵を骨でできたボルトで牽制していく。


「殺すと敵討ちも兼ねて余計にヒートアップしちゃうのよ。だから大怪我させて放置。二頭くらいやれば撤退してくれるんじゃないかしら。置いてかれた奴らは、その後しっかり介錯するから安心なさい」

「残酷っ?!」

「自分たちが死ぬよりもずっとマシでしょ?」

「そうだな! そう言えばもっと残酷な奴らと戦ったわ、俺!」


 掛け合いをしながら、一頭と一人は、迫りくる脅威を追い払うために、それぞれの武器で戦う。

 彼と彼女を囲むのは、八頭の狼だ。

 オアシスで休憩しようとしたカイトとリチュアに襲い掛かってきたのだ。カイトたちはもちろん逃げたが、すぐに追いつき、一頭と一人を取り囲んだ、素早い連中だった。


 カイトが知っている地球の(タイリクオオカミだ)と違うのは、大きさが秋田犬と同じくらいしかないこと、そして、耳が大きく長いことだった。

 狐のようにも思えるが、少し違う。確か、フェネックと言う動物がいたはずだ。

 そうだ、以前、母親が、見ていたテレビアニメのキャラクターのモデルだと図鑑を嬉々として見せてくれたので、その姿を覚えていた。

 あのフェネックの耳と、この狼たちの耳はそっくりだった。


「こいつらっ、狼じゃなくて狐の類ってオチはないよね?!」

「砂漠に適応したウルフの亜種よ。体が普通のウルフ種よりも小さいのも、耳が長くて大きいのも、暑い地方で生きるために適応した結果」

「なるほど」


 首元を狙ってやって来た狼を角で殴り飛ばし、反対側から飛びかかってきた刺客を左右にぶら下げているタクティカル・ボアの牙(片方は半ばから折れている)で弾きながら、カイトは生命の神秘に感心していた。


「大分余裕が戻ってきたわね」

「人間時代だったら、諦めかけているところだよ」

「あら、人間時代だろうと竜種時代だろうと、諦めたらそこで人生終了よ?」

「似たような言葉が俺の故郷でも流行ってるなぁ!」


 尻尾で、突っ込んできた二頭を張っ倒す。

 リチュアが、カイトの隙をついて背中を伝って駆けあがってきたウルフを、傍らに置いていた骨製の刀で打ち落とす。


 徐々にではあるが、確かに一頭と一人は、ウルフ八頭の群れを押し返しつつあった。

 だが、容赦のなく照りつける太陽と、一つも気を抜けない緊張感と死の恐怖が、確実にカイトたちの体力と精神を削っている。

 対して狼たちは、どれだけ打ちのめされようと撤退する様子はなく、不屈を体現するように何度も立ち上がった。

 カイトたちが手加減している訳ではない。狼たちが、攻撃される時、自ら後ろへ跳ぶなどして威力を削り、受け身を取っているからであった。かなりの手練れである証拠であった。


「さて、どうしようかしら。全然ボルトが当たってくれないし」

「こいつら結構素早いし、当てるのは難しくて当然だろ」

「うーん、腕、鈍ったかしら?」


 呑気な口調だが、彼女の全身から流れている汗は相当の量になっている。恐ろしい程疲弊していることが、言葉の端々から感じ取れた。

 小学校に入ったかどうかくらいの見た目だが、彼女の体は本来、ドライアド・フローチュアのものだ。普通の人間よりは丈夫かもしれないが、植物の妖精である。純粋な高熱と直射日光には恐らく弱い。


「リチュア、荷物入れの中に入っとけって!」

「その隙が全くないのよねぇ」


 強がりの笑い声。


「なぁリチュア、魔法を使わないのか?」

「その隙もないのよねぇ。何、アンタ、発動まで私を守れる?」


 まるで試すような口ぶりだが、確かな希望を込めた言葉に、カイトは応えた。


「どれくらい守ればいい? っらぁ!」

「っよっとぉ! 十秒!」

「楽勝っ!」


 十秒など、リチュアがボルトを装填するより、ほんの数秒長いだけだ。


「守り切ってみせる!」

「じゃあ、お願いするわ」


 リチュアがクロスボウを投げ捨てた。もはや、後の事は考えていない、そんな覚悟を感じさせた。

 狼たちが、頭上からの攻撃が消えたことに気付いて、先ほどよりも近づいて連携を取ってくる。

 体をぐるんっと一回転させて牽制する。その時、タクティカル・ボアの牙の先端が白い大きな円を描いた。姿勢を低くしていたり、範囲外にいた狼たちは、冷静にそれをやり過ごす。一頭だけが牙の腹にぶつかり、遠くの砂丘に突っ込んだ。

 浅かった。だがしばらくは起きてこられないとは思う。まず一頭。

 そして一秒。


 二頭が首元と、尻尾の付け根へ目がけて接近してきた。あえて噛み付かせてやる。

 痛い。だが耐えられない程じゃない。

 小さな狼の牙は、関節部の柔らかい皮膚を少し傷つけただけだった。


 そこで、一頭が駆け寄ってきた。恐らく、痛みに怯んだカイトから、リチュアを引きずりおろすつもりだったのだろう。

 問題ない。俺は怯んでいない。残念だったね。


 そんな思いを込めて今度は逆回転してやると、駆け寄ってきたそいつはカイトの角にぶつかり、空を飛んだ。

 芯を、芯で打った感触と言うのか。ホームランだ。多分、殺せていない。

 そして、噛み付いていた奴らも、勢いよく飛んで行った。

 カイトは二度目の襲撃も躱して見せた。

 三秒。


 とんっと、真後ろ、尻尾の当たりに感触があった。

 しまった、死角から上へと登られた!


「捕まれ!」


 カイトは叫ぶのと同時に、前足の付け根に巻かれている手綱の輪が引っ張られるのを感じた。


「ハイヨーシルバァァァッ!」


 思いっきり立ち上がった。

 前足を宙に浮かせ、後ろ脚で体重を支える。

 そして、その場で回ってやった。


 滅茶苦茶困惑した狼の鳴き声。その表情は、驚きに満ちていた。

 カイトは尻尾で一発、シバき倒しておいた。寸前で衝撃を大分和らげられたが、大きく吹き飛ばされた。少なくとも、後数秒でカイトたちへ再戦できる距離ではない。

 六秒。


「行けるか!?」


 答えはない。ちらと揺れるリチュアの顔が見えた。とても澄んだ目と愛らしい顔立ちが、とても真剣みを帯びていた。

 問題ない。

 そう言わんばかりに、彼女は何も答えない。その目はカイトを見ているようで、見ていない。


 腹へ向かって、三頭と、関節部に噛み付いていた二頭が突っ込んできた。この潰されるかもしれないとは思わないのか。いや、思っているか。

 カイトが着地したところで、一斉攻撃。ついでにリチュアも引きずり降ろす、か。


 カイトは笑った。

 残念だな、狼ども。


 お前たちの作戦、自分の群れや同じウルフ種にしか通じないって思っているようだが。

 俺はお前たちのやり取りを、しっかりと日本語変換でわかりやすくなったものを、受け取っている。


 カイトは後ろ足で立ったまま耐えた。近づいて来る狼たちが、計算よりも長く立ち上がっているカイトに驚いた。

 だが、冷静にプランを変更して、囲って襲い掛かってきた。


「それだ」


 九秒。


 尻尾が柔らかな砂を叩いた。砂が舞い、近くにいた二頭が、目に入ったらしく悶えていた。

 三頭は飛びかかってきた。

 一頭はカイトへ。牽制するためだ。

 残りの二頭はリチュアへ。最悪、この妖精を捕らえて逃げれば、カイトから逃げられると計算している。


 カイトは静かに、熱く、キレた。

 そして、吠えた。

 十秒。



シートン動物記と白い牙、おすすめです。

どちらも狼が主役で、人間と関わったことで迎えるラストが、それぞれ印象的です。


後、全然関係ないですけどダイナゼノンでついにあばばばばばばば(

登場がEVA6号機感あるな! と思いました。

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