OP前のエピソードがあるタイプ
という訳で第3話です。
その日、ミーナはベルルに誘われ、馴染みの武具屋へ顔を出していた。
この前の討伐依頼で折れてしまった剣の代わりとなる得物を探すためであった。
アリアとライラックは拠点で武具の手入れをしているため、今日は二人だけで出かけている。
ベルルは四人の中で一番若く、そして背も低いため、親戚のミーナと並んで歩くと、大概の者には姉妹に見えてしまうほどだ。もちろん、ベルルが妹である。
ベルルはその辺りを少し気にしているため、早く背が伸びて欲しいと、牛乳を良く飲むようにしていることを、ミーナは知っていた。
その涙ぐましい努力のおかげか、それとも成長期が本格的に始まったのか、つい先日身長を量ってみたところ、以前よりもほんの少しだけ背が伸びていた。
その時の彼女の喜びようといったら、討伐依頼を達成した時よりもずっと大きかった。
「あー! あー! なんだか少し服がきつくなってきたなー?」
そんな事を言い出したベルルに、アリアとライラックが苦笑いを漏らしていた。
それでも筋肉は着実に増えているし、発育も良くなっていることは確かだったので、彼女も防具を新調したいと言ったし、ライラックも許可したのだ。
「この胸当てとかどうかなー?」
「いいと思う。でも、またしばらくしたら、買い直しになると思う」
「そっかぁ。いいね、成長期」
「どこか痛いところはない?」
「えーと、膝と肘……後はこの辺り?」
「……うん、成長痛ね」
「おぉ、これが成長痛!! やっぱり私、成長しているんだね!!」
「うん。でも、お腹の当たりの痛みは、朝食べ過ぎたせいだと思う」
「あはは、そっかー」
「いっぱい食べることはいいけれど、腹八分目にした方がいいと思う」
「あっはっはっ! アリアの家のご飯がおいしくてつい!」
そんな事を話しながら、ミーナも壁に立て掛けられている剣を眺め、時に手にして、具合を確かめていく。
できれば、前に使っていた剣と同型が良かったが、生憎、ミーナたちが来店した時には売り切れてしまっていた。
「やっぱり見つからない?」
「うん、中々、しっくりと手に来るものがない」
「うーん、それじゃあ、剣を打ち直してもらうのは? ついでに全体的にメンテナンスしてもらう感じでさ」
「この際だから、新しい武器を買おうと思ったけれど……その方がいいかな」
新しく購入する場合と、修理とメンテナンスに出した場合の支出を比べ、頭の中で算盤を弾いて、ミーナは頷いた。
「修理に出そう」
武具類はとても重要だ。合わない武器を無理に使って、自分や仲間の命を危険に晒すよりかは、使い慣れた武器を修理してもらう方がいいと考えたのだ。
「プロテクターはどうするー?」
「完全に砕けたから、新調する」
言い合いながら、ベルルの防具と自分の左腕用のプロテクターを購入し、その足で目的の場所へ向かった。
馴染みの武具屋から、少し歩いたところに、その工房はある。
エイムス工房。
ミーナとベルルの武器と武具のほとんどは、この工房で制作されたものだ。
工房の入口を潜れば、少し良い商店のフロントのように受付があり、そこでは制服に身を包んだ受付嬢が背筋を良くして立っていた。
「あら、ミーナさん、ベルルさん、こんにちは」
「こんにちは。親方は仕事中?」
「はい。今、仕上げを行っているところです」
「そう。少し待たせてもらってもいい?」
「構いませんよ。お茶をお出ししますね」
受付嬢が奥へ引っ込むと、ミーナとベルルは近くの椅子へと座り、装備の入った袋を床に降ろした。
「私のもメンテナンスに出そうかなー? 自分だけじゃ、ちょっと限界が来てるかも」
「なら、今から取りに帰ったら? 荷物は私が見ておくから」
「そうしようかな。あーあ、こんな時に叔父さんがいてくれたらなー」
「叔父様でも、最低限しかできないと思う。やっぱり、エイムスさんに見てもらった方がいい」
「そうだねー。じゃあ、ちょっと取って来るねー!」
ベルルは椅子からひょいと立ち上がると、店の外へと飛び出して行った。
それからすぐに受付嬢がお茶を持ってきて、ベルルがいない事に首を傾げた。
「あら、ベルルさんは?」
「忘れ物を取りに帰っている」
「ふふっ、親方、また張り切っちゃうわね」
受付嬢はお茶を二人分、小机の上に置くと、小さく一礼して受付へと戻って行った。
もうしばらくすれば、槍を持ってベルルが帰ってくる。
その前に、親方がやってきて、ミーナの砕けた剣を見て、顔をしかめる。そして、拾い集めた剣の欠片と、保管庫から持ってきた魔獣の素材を見て、ミーナの願いを聞き入れてくれる……はず。
そうなれば、後は親方に任せれば問題ない。彼はミーナが想定している仕事、しっかりとこなしてくれる。
後は、数日、のんびりと体を休めておけば、次の依頼を受ける時には、万全の状態で挑める。
「……次の依頼」
何かめぼしいものはあっただろうか。
討伐対象の魔物は数多だが、自分たちは中堅以上のパーティー。受けられる依頼は、かなり危険が伴う。それに見合うだけの報酬もある。
討伐した暁には、パーティーの未来と、人々の平穏無事な暮らしが待っている。
前回の依頼を成し遂げたことで、その明るい未来は訪れた。
あの鳥竜とベルルが呼ぶ竜種がいなければ、そんな結末は訪れなかった。
「……また、会えるかな」
気が付けば、そんな事を口にしていた。
ミーナは、記憶を映像的に思い出すことができる。
一対の乳白色の角と、嘴を持っていて、首回りにとても小さな襟巻を持っていることを、討伐任務の帰り道に気が付いた。
でも、ほんの一瞬だけ。
レッドハンドを空へと突き上げる際に、ほんの一瞬だけ、襟巻が大きく輝いて見えた気がした。
あれは一体、何だったんだろうか。
「不思議な竜……」
自分を助けてくれた竜種と再会するなら、あの森に行かなくてはいけないだろう。
あそこは、ドライアドが治めていると言われている森。
レッドハンドが街道沿いに姿を見せたことで、十数年ぶりに人が訪れることになった、静かなる場所。
レッドハンドがいなくなった今、そこまで驚異的な魔獣はいないだろう。
そして、これから討伐者組合は、鳥竜の調査に向かうだろう。
できれば、それに同行したいな、と考えたところで、ベルルが愛槍を担いで戻り、店の奥から親方が姿を現した。
ほんのひと時の、暇つぶしの妄想を消して、ミーナは早速、親方に剣を見せたのだった。
☆
森を見回っていると、頭上を大きな影が通り過ぎて行った。
俺よりも背丈の高い木々が生え、枝葉を生い茂らせているためはっきりとは見えなかったが、何となく、シルエットから大型の羽の生えた生物だということはわかった。
「翼竜……ワイバーンの一種ね」
額の上で仰向けになっていたリチュアがぼそっとした声で教えてくれた。
「怪我してたみたい」
「怪我?」
この辺りでワイバーンを見かけたことはない。
まさか、考えたくはないが、リーンの奴が怪我をして岩砂漠を超えてやって来たのか?
「リーンじゃなかったわ。種族も普通のワイバーン種っぽかったし」
「そうか……」
ホッと息をついた。
そしてこれからやるべきことを考えて、リチュアを上目使いで見た。
「下手したら死んじゃうかもしれない怪我だったわね」
視線を感じてくれたようで、淡々と教えてくれる。
「それ、致命傷って言うんじゃないかい?」
「致命傷一歩手前よ。あの高度と方角からして、滝上の森にでも着陸するつもりなんでしょうね」
「滝上か……」
あそこにはいい思い出がないが、今の俺なら、魔蛇と鉢合わせても倒すことができる。
それに、一度見つけちまったワイバーンを放ってはおけなかった。後は、もしあのワイバーンを食べた魔獣が竜種を求めて襲い掛かってくる、という鬱陶しい展開を阻止するためにも、
「行くか」
「行くつもりでしょうね」
俺とリチュアの声が重なった。
「まぁ、あのワイバーンを食べた魔獣がアンタを襲いに来たらちょっと面倒だし」
「そう言う事だ」
リチュアから許可が出た事だし、これで心置きなく助けにいける。
早速、森を抜けて川へと出ると、そのまま滝の方へと走っていく。
「そう言えば、アンタに言ってなかった事があったんだけどね」
「ん?」
「アンタが最初にこの森へ来る前に、同じように怪我をしたワイバーンが滝上の森へ飛んで行くのを、フローチュアが見た事あるみたいなのよ」
「ん? そうなのか」
「そ。で、ここからはフローチュアの推測なんだけど、そのワイバーンが墜落死だとかした後に、アンタを襲ったギガントボアが食べた可能性があるんだって。だから、魔蛇はアンタを襲ったのかもしれない……とまぁ、こんな感じの予想が立てられているの」
「うわぁ、それは……」
ありえそうだ。
竜種を食べた魔獣は、また竜種を食らおうとする。
あの魔蛇が俺をしつこく追いかけてきた理由がわかった気がする。
「私もこの推測には賛成よ」
「それなら、なおのことあのワイバーンを助けないとな」
だがしかし、ワイバーンがそんな怪我をしてなお、この滝上に逃げていく理由はなんだろうか。それにワイバーンを傷つけているのは、一体何者なんだろうか。
「んじゃ、行くか」
「任せたわー」
色々な事が頭の中をぐるぐると回っているが、滝前に来たので、とりあえず、滝を登って行くことにした。
お読みいただき、ありがとうございます。
〇討伐者四名と装備簡易一覧
ミーナ・ストライフ:ショートソード+アームプロテクター+エイムス工房製革鎧
アリア・シャーウッド:メタルライン+マジカルコート
ベルル・ストライク:雷撃槍+フレイムマフラー+エイムス工房製軽装プレートアーマー
ライラック・アルヴテイル:クロスボウ+上級射撃装備




