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叫べ再会の約束

「リチュア、ワイバーンは俺たちを襲わない」

「……わかった。けれど、妙な動きがあったら撃つわよ?」

『と言う事だ。もう落ちるだろ、早く掴まれ!』


 俺が急かすと、ワイバーンは骨を咥えた。

 踏ん張りながら、ワイバーンの登攀を助けると、ついに奴は崖上にその全身を戻した。

 五体を投げ出すように横たわり、息を荒くしている。


『し、死ぬかと思った……』

「それはこっちの台詞だよ」

「それで、どうしてワイバーンを助けたのかしら?」


 リチュアはクロスボウをワイバーンに向けたまま、俺に問いかけてきた。


 野生の世界は弱肉強食で、他よりも自己を守る事が最重要になってくる。

 だが、命を助けられた相手に、何かしらの義理を果たす奴もいる。それが例え、獲物である弱者であったとしても。


 そんな理由を伝えると、リチュアは顎に空いている手を添えて思案するように口をへの字にした。


「なるほど、それは一理あるわね。よし、ならワイバーンの背中に触れなさい」

「え?」

『はぁぁぁっ?!』


 ワイバーンが素っ頓狂な声を上げたが、リチュアが一睨みすると押し黙った。


「私が指示した場所に触れなさい。角でも体でもいいわ」

「えぇと、それに何の意味が?」

「いいから早くしなさい」


 問答無用の気配を感じたので、仕方なく言われた通りに、ワイバーンへと近づき、首と羽の付け根の間に顔を突っ込んで、顎をできるだけ背中側にくっつけた。


『はぅ!』


 ワイバーンが何か変な声を出すと、リチュアは「よし」と満足げに口元を綻ばせた。


「これで、もうそいつは私たちを襲えないわ」

「なぁ、今、何をさせられたんだ?」


 もしかしたら、何かトンデモナイ事をさせられた気がしてリチュアに恐る恐る問いかけるが、答えたのはワイバーンの方だった。


『……番になったのよ』

「え?」

『だから、番になったのよ』

『……誰が? 誰と?』

『私と……あ、アンタがよ!』


 は?


「ワイバーンの種類にもよるけれど、カラミティ・ワイバーンは雄が雌と取っ組み合いをして、雌の背中へ体の一部を触れさせることができれば、番として認められるのよ。雌の方がちょっと大きいし、力も強いから」

「はぁん?!」


 い、いかん、俺も変な声が出てしまった。

 そうじゃなくて。


「そんな大事な事、どうして俺にやらせたの?! じゃなくてね! この子、女の子だったのって言うのも違って!」

「何を慌ててんのよ。それと、これをアンタにやらせた理由は、確実に襲われないようにするためよ」

「ちゃんと俺はこいつと約束を交わしたぞ?」

「だから言ったでしょ、確実に襲われないようにするためって。アンタが考えてたことは何となくわかるけれど、このワイバーンが貸し借りを果たしてくれる性格かどうかは、私たちにはわからない。だから、この場で最も強い拘束力と確実性を持つ方法を取ったの。他に方法があったのなら教えて欲しいわね」


 そう言われると、返す言葉もなかった。

 確かに、考えが甘かったことは認める。もしもワイバーンが約束を守らない奴だとしたら、俺たちは死んでいた可能性が高い。


「わかったのなら結構。そう言う訳で、私たちは安全に岩砂漠を超える事ができるようになったわ!」

『ぐっ……まさか子どもに負けるなんてぇ……しかも、つ、つつ……番になんてぇ』


 本気で嘆いているワイバーンの泣き声に、何だか罪悪感が湧いてきた。


『な、なぁアンタ……俺とは種族が違うんだしさ。番って言うよりも、こう、同盟関係? みたいな感じでさ、考えてくれればいいじゃないか? ほら、俺、まだ子どもだし!』


 一応、地球では二十歳の大学生だったのだが、利用できるものは利用しよう。

 だがワイバーンはうがーっと泣きながら吠えた。


『そんな事関係ないのよ! 私と戦って背中に触れた! アンタは私と番になるのよ、ならなくちゃいけないのよ!』

『戦ったって……取っ組み合いをした訳じゃないし、勝ったのは背中にいる相棒のおかげだ。俺一人の勝利じゃない』

『だーかーらー! 関係ないって言ってるでしょ! うぅ、私、もっと素敵な相手ができるものとばかり……ぐすん』

『なーワイバーンの姉ちゃん。いつまでもぐだぐだ言っててもしょーがないぜ?』


 タクティカル・ボアが呆れ声で鼻を鳴らすと、ワイバーンはキッと睨んだ。


『アンタには関係ないでしょうが!』

『うぉぉ怖ぇぇぇ?!』

『お、おい、そいつにも攻撃するなよ? 手を出されたらその時は知らないけれどさ』

『わかっているわよ……まさか、こんな小娘に言い様に言われるなんて』

『オレはもう子どもじゃない! もうすぐ番を作れるようになるんだ!』


 今度はタクティカル・ボアが目くじらを立てて抗議した。

 いや待て。それよりもお前も女の子だったのか。

 確かに頭の中に響いてくる声はハスキーな女の子の声だったけれど。


「何を話してんの、アンタ達?」

「今後の相談」

「そ。じゃあ適当に纏まったら起こしてちょうだい」


 言うなり、リチュアの奴は荷物入れをソファ代わりに昼寝を始めた。手にはしっかり、クロスボウを抱えて。


『オレ、ワイバーンがこんなに泣く奴だなんて初めて知った』

『泣きたくて泣いている訳じゃないってーの!!』

『お前ら、もうその辺にしておけって』


 昼前の岩だらけの砂漠に、俺たちの唸り声や咆哮が、かれこれ小一時間ほど響き続いたのであった。




 言い合いから冷静な話し合いに変わり、結論が出たのでリチュアを起こして、結果を伝えた。


「――と言う訳で、俺とリーンは同盟関係を結んだ……と言う感じかな」

「番前提の?」

『えぇそうよ! カイトがもう少し成長したら、番になってもらうんだから』


 リーンが偉そうにリチュアを見下しながら唸った。

 そうそう、ワイバーンの名前はリーンと言うらしかった。


 リチュアは彼女の言葉がわからないはずだが、態度を見て察したらしい。


「やっぱり人間の言葉や単語の概念を理解できてるのねぇ」

『ふんっ、まぁ私は覚えなくてもいいと思っていたけれど、母様たちが覚えておきなさいって言うから』


 そのお母様は絶対に強いワイバーンだ。敵に回したくないな。


「まぁわかったわ。それで、一応聞くけど、番を破棄する条件ってあるの?」

「お前、結構ぶち込んでくるよね」

「大切な事よ。それで?」

『条件は二つ。一つは私かカイト、どちらかが死ぬこと。もう一つは、カイトの番になりたい女が他にできて、そいつに私が負けた場合よ』


 俺が通訳して一言一句嘘偽りなく伝えると、リチュアは頷いた。


「わかったわ。それで、互いの生存の無事はどうやって伝えるつもり?」

『風の妖精たちに、満月の夜に一度、私たちの互いの無事を知らせるように頼むの』

「なるほど。でも、もっといい方法があるわ」


 そう言うと、リチュアは杖代わりの棒を取り出して、くるっと頭の上に杖先で弧を描いた。

 特別、何かが起きた感じはしない。


「これでよし」

「何をしたんだ?」

「魔力の波長パスを――――まぁわかりやすく言えば、どっちかが死んだら、その時わかるような魔法をかけたのよ」

『アンタ、細かい種族はわからないけれど、植物の妖精よね? そんな魔法が使えるの?』

「あら、植物の妖精だからって、固定された種類の魔法しか使えないなんてことはないわ。ワイバーンだって、魔法が使える奴、いるでしょ?」

『それもそうね』

『なーなー、妖精の嬢ちゃんは何を言っているんだ?』


 タクティカル・ボアが呑気に尋ねてきたので通訳してやると、ほえーと気の抜けた声を出して驚いていた。


『すげーな、妖精の嬢ちゃん』

「んで、そこの猪はこれからどうするの?」

「こいつは一度生まれ故郷に戻るらしい。森を出たところの岩山を少し下った先の湿地帯が故郷なんだと」

「そう。なら、私たちは心置きなくでかけられるわね」


 リチュアはもうそれで話に興味を失ったように俺の背中によじ登った。


「あ、そうだわ。そこの猪、名前は何て言うの?」

『え? オレ? フォロって言うんだ』

「フォロ……わかった。フォロ、また運が良ければ会いましょう。リーンも、そうそう死ぬことはないと思うけれど、気を付けなさい。特に、人間たちは舐めない方がいいわ。私よりもずっと怖いから」

『余計なお世話……と言いたいところだけれど、弱いと思っていた相手にこんな目に逢わされたんだもの。受け取っておくわ』

『じゃーなー、妖精の嬢ちゃん、カイト~』

『おう、またな! あ、そうだリーン』

『何よ?』

『腹、減ってんだろ』


 俺はリチュアに頼んで、タクティカル・ボアの肉をいくつか出してもらい、適当な岩の上に置いて、リーンへ差し出すことにした。

 リーンは目を丸くして、俺と肉を交互に見比べた。


『いいの?』

『あぁ。同盟関係だからな』


 お腹が空いている同盟相手がいるのに、そのままと言うのもどうかと思うし。

 それに、途中で変な気を起こしてフォロに襲い掛からないとも限らないし。


 後はまぁ、一応、婚約者? みたいな関係になってしまったのだから、せめて、今は助けてやりたいと思ったから。


 リーンは肉を一つ口に含み、咀嚼して飲み込むと、


『カイト』

『ん?』


 ゆっくりと顔を俺に近づけて来て、頬に軽く自分の頬を当ててきた。


『ちゃんと大きくなるまで死ぬんじゃないわよ』


 そう言い終わると、肉をがつがつと食べ始めた。

 どうやら、別れの挨拶をしてくれたらしい。

 犬や猫が挨拶でくっついてきてくれるイメージだったが、先ほどまでのギスギスした空気よりはずっといいな。


『じゃあな、お前ら!』


 こうして、俺とリチュアは、リーンとフォロと別れ、岩砂漠脱出の旅を再開した。

 ところでその後、走っている最中にリチュアが、


「アンタ、よっぽど気に入られたみたいね」


 と言ってきたので、リーンに対して餌付けが成功したとか言いたいんだろうと思い、


「だったらいいな」


 と返したら、鼻で笑われた。

 何か変な事を言っただろうか、俺。




 そんな微妙な空気もすぐに霧散して、たまに小休止を挟んで走り続け、日がかなり傾いてきた頃。


 俺たちは岩砂漠と砂砂漠の境界線と、近くにあったオアシスへとたどり着いたのだった。


アニメでいうところの第2話終了です。

第2話からちゃんとED入るパターンですね。


EDテーマは「木漏れ日のシルエット」です。よろしくお願いします(大嘘)。

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