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叫べバトルクライ

GWなので連投していきます。

           ‡




 少し前、まだ、育ての親の群れに居た頃のことだ。

 ほとんどの大人たちが狩りに出かけた時に、育ての両親も一緒に出た。今夜はいっぱい食わせてやるからな、と言われたことを覚えている。

 俺は草食っぽいから無理だと言っても、聞き入れてもらえなかった。食わず嫌いはよくない、行ける行けると言いながら出かけてしまったのだ。見た目とは裏腹に、とても子ども思いで優しく、全く自分たちと見た目の違う俺も育ててくれるほどだったが、人の話を聞いてくれなかったのが傷だった。


 で、その夫婦の娘の一人、いや一頭か。

 そいつは、俺が卵から出て来る少し前に生まれていたので、何かとお姉さんぶって構ってくるような子だった。自分が末っ子だったから、新しい末っ子ができたから、嬉しかったんだろうと思う。

 巣に居たのは三日ほどだったが、十匹いる育ての親の実子の中で、一番俺と一緒にいてくれた。おかげで、色々と混乱していた中、前世で妹と遊んでいた頃を思い出せて、精神がすぐに安定した。

 今思えば、色々と突っ込みどころはあるが、それでもあの子には助けられたし、育ての親にも感謝している。

 なお、両親がくれた肉はその姉にあげて、俺はその辺に生えていた草をもそもそと食べていた。おかげで、末の姉は更に俺の事を構うようになった。

 羽毛の生えたティラノサウルスの子どもにひっつかれているトリケラトプスの子どもの図は、さぞシュールだった事だろう。


 そしてあの日、そいつと一緒に、いつものように巣で待っていた時のこと。

 大きな鳥がやって来た。

 そいつは、人間だった頃の俺から見ても十分大きな、それこそ地球にいたどんな飛行生物よりも大きな存在だと、すぐに理解できた。


 そいつは卵や、小さな幼竜たちを狙ってやって来たことを、俺はすぐに悟った。

 残っていた大人たちがその鳥を追い払おうと挑んだが、奴はその巨体に似合わない俊敏さで翻弄し、ついに俺たちの巣へと接近した。


 狙われたのは、一番小さくも中央付近にいた、末の姉だった。

 恐怖のあまり動けなかった姉を、気が付けば俺は、いや、確かな意思を以て突き飛ばしていた。

 背中に感じる痛みと、ぐんっと上へ引っ張られる衝撃。

 そして、俺を見上げ、唖然とする末の姉の顔を最後に。


 俺は生後三日と少しにして、強制的に巣立ちをすることになった。


 空を飛んでいた時間は、それほど長くはなかった。

 大体、二、三キロと言ったところか。だが途中で深い谷があったので、助かったとしても、末の姉や育ての親たちと過ごしたあの場所へ戻ることはできないことをすぐに理解できた。

 やがて大怪鳥が徐々に高度を落とし、一度着陸して、ぜぇぜぇと呼吸を整えている間に、どうにか逃げる事に成功した俺は、近くにあった森へと身を隠くした。


 ふっ、俺がふわふわティラノサウルスっぽい鳥恐竜だと思ったか?

 残念、生まれながらにしてそこそこ重量とタッパのあるトリケラトプス(亜種)さんなんだよ、とスタミナ切れで千鳥足で追いかけようとしてくる大怪鳥に別れの挨拶代わりを送ってやった。


 それから、森の中で数日過ごしていたのだが……その間に、俺の体は自分でも驚く程成長した。

 急成長の理由はさっぱりわからなかったが、その時に思ったことは、この体なら末の姉や兄姉たちをあの大怪鳥から守れただろうな、と言う事だった。


 そう思った直後に、魔蛇に追いかけられて滝へ落ちることになったのだが……おかげで学んだことがある。

 体が大きくなっても、さらにデカい奴はいるし、強い奴もいっぱいいる。

 ちょっと力が強くなったり、図体が大きくなったりだとかだけで、大自然は生き残れないのだ。


 最後に生き残れるのは、自身の体と特徴、そして経験を活かしてなおかつ運が良い奴なのだ、と。




           ☆




「しっかり掴まってろリチュアァッ!」


 俺が叫んだ直後、リチュアがぎゅっと俺の顔にしがみついた。

 その最中にも、俺は体を回転させる。


 その時、俺の腹へとぶつかろうとしていた火球が、突如、その軌道を変えた。

 体を回転させた勢いに乗って、俺の腹の左右にぶら下がっていたタクティカル・ボアの牙のうち、左側の方が大きく振り動き、火球を弾き返したからだ。


『な、なんですってぇ?!!』


 ワイバーンの驚く声が聞こえてきた。

 そりゃ驚くよな。格下の相手が、必殺を確信した攻撃を防いだんだから。


 だが、それで終わるとは思わないことだ。

 俺は動きをまだ止めていない。

 奴はこちらへ向かって飛んできている。このまま行けば、俺とタクティカル・ボアへと衝突して、三つ巴で崖下へと真っ逆さまのコースだろう。

 そうなると、ワイバーンの奴だけが生き残る。

 火球で燃やすだけでなく、体当たりで確実に仕留めてこようとする、狩りへの執念を感じさせる。


『だとしてもっ!!』

「だとしてもっ!!」


 ワイバーンの咆哮と俺の叫び声が重なった。

 奴の進路上から、俺の体が逸れる。視界の中で、タクティカル・ボアもどうにか距離を取ることができていたが、ワイバーンは翼をいっぱいに広げている。

 このままだと双方共にあの翼にぶつかって吹き飛ばされるだろう。


 俺の体が一回転半した時、ワイバーンの頭がすぐ近くまで迫っていた。回りながら回避した俺に『やるっ! けど甘い!』と叫んできた奴に、俺も精一杯返してやる。


「勝負だワイバーン!」


 そして、重量に遠心力を乗せた左側に吊るしてあるタクティカル・ボアの大牙が、ワイバーンの顔面に直撃した。


 多牙が折れ、宙を高く舞う中、ワイバーンは急にその場で飛び上がり、俺とタクティカル・ボアから十数メートルほど離れた崖近くに墜落して悶え始めた。


『い、いたぁぁぁぁぁいっ!!!』


 顔を抑えてゴロゴロと落ちないように器用に転がっているが、つまり何かの拍子に崖下へ落ちる訳だ。


「リチュア!」

「ふ~……っ!」


 ピタリと停止した瞬間、リチュアは息を止め、クロスボウの引き金を引いた。

 緩い山なりの軌道を高速で進む、魔猪の骨から造られたボルトが、ワイバーンの翼の被膜を貫いた。


『ぎゃっ?!』


 悲鳴を上げ、大きく仰け反ったワイバーンが、背中から崖の向こうへ落ちていった。

 だが、何と奴は落ちきる前に翼についている爪を器用に使って、崖縁に掴まった。


『お、落ちる……!』


 片羽を負傷させられ、飛ぶことができなくなったらしく、ワイバーンが恐怖し、怯え始めた。

 リチュアはワイバーンの声が聞こえているはずもなく、素早く次のボルトを装填し、狙いを定めていた。

 無言で放たれた第二の一撃が、崖縁に掴まっているワイバーンの左爪近くに突き刺さった。


「惜しい」

『ひっ?!』


 リチュアの無感動な冷たい声音が聞こえたのか、ワイバーンが悲鳴を漏らした。


『い、いやっ、やめなさいっ! やめなさいよ!』

『おお、よくわかんねーけど、やっちまえ妖精の嬢ちゃん!』


 先ほどまで怯えていたタクティカル・ボアは、敵の弱り具合を見て、リチュアを応援している。お前、今のうちに逃げておいた方が吉だぞ、と思ったが、今はとりあえず無視しておこう。


『飛べないっ、いや、いやっ、いやぁっ!』

「今楽にしてあげる」


 流れるような動作でリチュアが第三のボルトを装填し終え、狙いを再び定める。

 こいつは、例え相手が誰であれ、弄ぶような事はしない奴だ。

 倒すべき敵は、さっさと倒す。礼儀を尽くして殺す。

 そんな気迫を彼女から感じ取ることができた。


 それは狩人として当たり前の心がけ、という奴なんだろう。


『さぁ嬢ちゃん、さっさとやっちゃって!』


 だから、無邪気に残酷に声援を送っている、そこのタクティカル・ボアには、無性に腹が立った。

 襲われていたのであるから、気を遣うことなど一切ないことはわかっているが、それにしたって、あれだけ悲鳴を上げている相手を殺すのに、そこまで嬉しがることはないだろう。


「ちょっと、そこの猪、黙ってなさい」

『ひぇっ!』


 リチュアが目も暮れず、しかし静かにつぶやいた殺意の乗った声を聞いて、タクティカル・ボアも悲鳴を漏らして黙った。

 見た目、小学生くらいの女の子だが、気迫は魔獣にも引けを取っていなかった。俺も、ちょっと怖かった。


「……さて、待たせたわね」

『やめなさいっ! こ、このっ! 死にたくないっ、死にたくないっ!!』

『お、オレに死ねって言ったの、お前じゃねーか! 自分だけ死にたくないとか、ずるいぞ!』


 怯えるワイバーンに、タクティカル・ボアが罵声を浴びせた。


『さっきまでオレの事、散々追い回しておいて、自分が追い詰められたら命乞いかよ!』

『うるさいっ、うるさいっ! 私はお腹空いてるのよ! 折角……折角独り立ちしたって言うのに、こんなところで死にたくないっ!』

「狙いが定めににくわいね……」


 リチュアが冷たく、狙いを変えていく。恐らく、当てづらい爪ではなく、崖向こうの頭や胴体を狙うつもりだろう。


 それよりも、俺はワイバーンの言った事が気になっていた。


『私は、生きて、素敵な番を作って、楽しく、幸せに生きて……!』


 それを聞いた途端、日本に残してきた幸香の事が脳裏を過り、気が付いた時には、崖まで近づいて、少し焦げ目の付いた牙を奴の目の前に垂らしていた。

 うわっ、この崖、高い! 地上まで何十メートルあるかはわからないが、落ちたらワイバーンでもひとたまりもないだろうな。


『掴まれ!』

「何やってるのっ?!」

『アンタ何やってんだ!?』


 リチュアとタクティカル・ボアから非難の声を受けるが、今は無視してやる。

 ワイバーンは、突然たらされた牙に訝しげな反応を示し、俺と交互に見ていた。


『な、何のつもり?!』

『いいから掴まれっ、死にたいのかっ!』

「馬鹿っ! そいつを助けてどうするのよ!」


 リチュアがクロスボウを下に向けて撃とうとしていた。


「待ってくれリチュア!」


 頼むという思いを込めて叫ぶと、リチュアは顔をしかめながら、引き金を引かずに止まってくれた。


『いいか、もし俺たちを次、攻撃しようとしてみろ。俺の角と背中の上の相棒の一撃で、お前を崖下に突き落とす!』

『何を言っているのよ! そんな事、約束』

「リチュア、ワイバーンって肉、食べられるのかな?」

「種類によるけれど、もも肉のから揚げとか最高ね」

『ちょっとっ、何を食べる相談をしているのよ?!』


 俺とリチュアの会話が理解できたらしく、ワイバーンが人間で言うところの半泣き状態になって抗議してきた。


『いや、お前、結構肉付きよさそうだから』

『なっ?!』


 絶句するワイバーンを見て、自分の失言に気が付いた。。

 ちょっとセクハラだったかもしれない。


『竜の肉ってオレ、食ったことないなぁ』

『アンタまで乗っかってきてるんじゃないわよ!』


 タクティカル・ボアが少しだけ涎を垂らすと、ワイバーンがギャーギャーと喚き立てた。

 人間じゃないから、肉付きがいいって発言は、文字通り食べられる場所がいっぱいあって美味しそうという意味になるのか。

 などと感想を抱きながら、最後の畳み掛けに入った。


『俺たちはここを去る時に、お前を確実に崖下へ落としてから行く。そうでなければ、追いついたお前に殺されるかもしれないからな』

『うぐっ』

『約束しろ。別に服従しろと言っているんじゃない! 俺と俺の上に載っている妖精を襲わないと約束してくれと言っているんだ!』

『おい、オレも忘れないでくれよ!』

『ついでにこのタクティカル・ボアもだ!』


 少しの間、俺とワイバーンの間で、無言のにらみ合いがあった。

 どうする。

 このまま約束が交わされなければ、もう本当にリチュアがクロスボウを撃つぞ。


 恐らく、数秒程だったと思うが、随分と長く感じた沈黙は、


『わ、わかったわよ!! 襲わない! アンタたちは襲わない!!』


 ワイバーンの根負けで決着がついた。


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