北風と太陽・ギリシャ編
手本にしたのはFUNAの小説「私、能力は平均値でって言ったよね」内で、
主人公マイルが話す劇中劇「日本ふかし話」
ここはギリシャの神々が集うオリンポス山。
北風の神ポラリスが大君ゼウスに話しかけた。
「ゼウス様。一つ賭けをしませんか?」
「賭けだと?何だ?」
「ネクタル酒も良いですが最近の人間界では
タピオカなる奇妙な飲み物が流行っております。
私も気に入りまして大量に買ってあります。
ゼウス様が勝てばこれを提供しましょう」
「わしが勝てなければ?」
「「ゼウスの雷」を1つ頂きたい。護身用といいますか、
他の異界の者との戦いに備えて武器を持っておきたいので」
「ふむ、賭けの内容は?」
ポラリスが手をかざして亜空間の窓を開く。
雪が残る北国らしき景色。
荷物を持たずに道路沿いを歩く人影が一つ。
防寒用の長いコートを着ている。
「人間界の道を歩くあの者、あれのコートを
どちらが脱がすことができるか?が勝負の内容です」
「よかろう」
「ではまず私から」
寒い北風を人間に向かって吹かせる。
しかし人間はしっかりとコートを押さえるだけ。
さらに強風。
人間は倒れるが、もちろんコートは吹き飛ばせない。
「ハッハッハ、ポラリス、力ずくでどうこうしようとは
知恵がなさすぎるぞ。おぬしそれでは女にもてんだろう。
では、わしに変わってもらおう」
南の暖かい気流を引っ張ってきてこの辺りに留まらせた。
雪が溶けて暑いぐらいになる。
人間は自分でコートを脱いだ。
「わしの勝ち・・・おっ!」思わずゼウスは声を上げた。
コートの下はドレス姿。
長身で胸の大きいゴージャスな美女。
思考波から記憶を読んだ。
「カノウ・ミッカーノ、イタリア人と日本人のハーフか」
ゼウスの好みのタイプ、どストライクだった。
「ゼウス様の勝ちです。次の宴会でタピオカを飲み放題ということで」
「ああ、うむ、わしはちと用事を思い出した。これで失礼する」
自分の部屋に戻ったゼウスは亜空間ゲートを開いて跳躍。
現在日本に出現、カノウ・ミッカーノの理想のタイプの男に変身して近づいた。
全知全能の超能力の持ち主なので最強のプレイボーイだった。
そしてオリンポスでは。
ポラリスがある人物に報告していた。
「ヘラ様。予定通りゼウス様は別の時空に遊びに行かれました」
「よくやってくれた。これで私も羽が伸ばせる。
ここは男尊女卑で男の浮気は許されるのに女の浮気は許されないなど
不公平すぎる。では私もしばらく留守にする」
「いってらっしゃいませ」
そしてゼウスの妻ヘラは、ギリシャの人間界に降りて、
好みの男クレスと恋愛をして、生まれた子は両親の
名前を合わせてヘラクレスと名付けた。
遊びから戻ったヘラクレスはやがてヘラの浮気を知る。
しかし女房に浮気をされることは面子を潰されることになるので
表沙汰にできず、ヘラクレスを暗殺するために試練という名目で
罠を仕掛け続けるのだった。
怪物退治など12の試練を乗り越えてヘラクレスの名声は高まった。
ハーフは時としてオリジナルよりも優れた能力を発揮することがある。
命を脅かす危機にあって能力を開花させて生き延び、成長した。
やがてヘラクレスはある国の王になった。
女好きのゼウスが地上の女たちに産ませた子供も成長して超能力を発揮しており、
世界中の国の支配者になっていた。
ゼウスは彼らにヘラクレス暗殺を命じた。
何かの理由をつけて戦争が始まった。
人間同士の戦闘から、最後の決着は超能力を持つヘラクレスとゼウスの子孫のバトル。
時には苦戦をすることもあったが試練を乗り越えていて、信頼できる仲間を持ち、
戦いの経験値が高いヘラクレスが勝利した。
そしてある夜。
全知全能のゼウス自身が出陣、ヘラクレスを追い込む。
メドーサの首を埋めた盾、神剣、飛行靴も通用せずに破壊される。
力を失って地上に倒れるヘラクレス。
空中のゼウスは止めを刺そうと特大のエネルギー弾を両手で作り出す。
「グワッ!」悲鳴を上げたのはゼウス。
胸部から雷の矢が出ている。
背中から射られた。
振り返ると。
射たのはヘラ。ゼウスの正妻。
ゼウスの武器庫に入れる数少ない、
信用されている味方のはずだった。
「自分の子供は優遇するくせに私の子は殺そうとするとは。
許せない!」
「ゼウスの雷」は不死身のエネルギー生命体の
生体電流を破壊して無に帰す諸刃の武器だった。
崩壊して消えるゼウス。
オリンポスを力で支配していたゼウスが消えて
神々はバラバラになり、人間界に姿を現すことはなくなった。
【終わり】