第九話 好転は突然に
失恋してどこかに行ってた恋愛の神が戻ってきました。
更新は遅くなりますが、これから連載を再開します!
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「疲れました」
いつもより低い声でそうつぶやいたイツキは俺達の部屋に戻るとベッドに倒れ込む。
それも仕方ないことだ。
姉貴とマリアに挟まれて帰宅したのだが、二人の対応がひどく大変そうだった。
少し時を戻そう。
「ねえ、カズくん。この辺の事覚えてる?」
「え? いつも、通ってる道ですので覚えてるも何」
「これでも?」
マリアはイツキの手を握ってきたのだ。
急になぜ?
もちろんイツキは拒もうとするが。
「なに、二人で手握ってるの!?」
姉貴が逆の手に抱き着いてきたのだ。
それはもうがっちりと。
それに触発されたのか、マリアも大胆に手を絡めてくる。
「姉さん、止めてください」
「なんで、その子は良くて私はダメなの!?」
「マリアさんにも許してないよ。暑いからほどいてくれませんか?」
「昔はこんな風に手をつないだのに。今はダメなの?
「ダメに決まってるでしょ!? このポジションは姉である私のポジションなの! お邪魔虫は引っ込んでなさい」
きつい姉貴の言葉にマリアは頬を膨らませる。
なんで姉貴が答えるのか分からん。
「そういう事だから」
「ヤダ!」
マリアは断固として拒否する。
イツキは遠い目をしながら、明後日の方角を向く。
だが、もう片方の手を引かれ、現実に戻された。
「ねえ、話聞いてるの!?」
「姉さん、痛いから」
「一樹がちゃんと断らないから、つけ込まれるの!」
「いや、ちゃんと断ってるって」
「なんで? どうしてそのきれいな人はこんなに近いのに、私は手を握るのもダメなの!?」
「別に姉さんも許可してな「私との話が終わってないでしょ!!」
右と左、両方から引っ張られるイツキ。
両手に花だな。
「変わってくださいよ、ハジメ」
やだ。
全然羨ましくないし。
明日も野球の練習あるんだから体を痛めない程度によろしくな。
「裏切者」
「カズ!」「一樹!!」
「もうやだ」
泣きそうになりながらいつもより一時間も遅く家に着いたのだった。
ほら、着替えぐらいしろよ。
~~
もう無理、ハジメよろしく。
「え!?」
僕は精神的に疲れてしまい、無理やりハジメに変わってもらうのだった。
ハジメは小さなため息を吐くと着替えを始めるのだった。
パーン! パーン! パーン!
バッティングの音が鳴る。
これはスマホの着信音です。
ハジメが自分のバッティング音を撮ったのを着信音にしている。
ハイセンスすぎて意味が分かりません。
「うるさいな。好きなんだよ」
職業病ならぬ部活病ですね。
それより誰ですか?
大賀 澪の文字がスマホに表示されている。
何でしょうか?
「大賀だったら、イツキにだろ?」
疲れすぎてるのでハジメがよろしく。
「はあ、仕方ねえな」
ハジメは電話に出る。
電話向こうからチャイムの音が鳴っています。
まだ学校なのでしょう。
大賀さんにはハジメや松田さんが野球部に行っている間の生徒会をお願いしています。
でも、こんな時間まで。
「はい、柏山です」
〈ああ、一樹くん? 今大丈夫?〉
「大丈夫っす。どうしました?」
〈実は生徒会の備品で足りないものが出てきて、一緒に買いに行って欲しいのよ〉
「そうなんすか?」
〈他にも進路指導中に青木先生にも結構な量のお使いも頼まれちゃって。お願いしてもいい?〉
「いいっすよ」
二年の夏前で進路相談ですか。
この学校は色々と早いですね。
それと、お使いの件は了承してください。
なんなら、明日は土曜日で授業が午前中までです。
野球部の練習もそれに伴って少し早く終わります。
その後に行きましょう。
「自分で言えばいいのに」
〈なんか言った?〉
「いえ、明日なんてどうですか? 俺の部活が終わってからなので、少し遅くなりますけど」
〈いいよ。なんなら、恋も一緒に!〉
~~
「恋さんを呼べるのですか!?」
〈ちょっ。どうしたの?〉
イツキは食い気味に大賀の言葉に食いついた。
そりゃそうか。
あのデートの日からずっと会いたがってたしな。
「すみません、恋さんに会えるのが嬉しくて」
〈惚気? お腹いっぱいでーす〉
大賀はイツキの今置かれている状況を知らないのだろう。
揶揄うように返してくる。
だが、イツキはその中でもポロポロと涙を見せる。
「あ、ありがとう、ございます」
〈……。何があったの?〉
大賀さんがまじめなトーンの声で話しかけてくる。
イツキは息を吸い込んで気持ちを落ち着かせる。
「恋さんとお父さんを怒らせてしまって、ゴールデンウィークが終わってから、一度も会えてないんです。でも、恋さんと連絡を取る手段がなくって」
〈ああ、現代の女子高生の必須アイテムのスマホを持ってないものね〉
「ちゃんと、謝りたくって、好きだって、伝えたくて、すみません」
〈確か、ニキビがって……。ごめんね、用事ができた〉
急に大賀が話を変えてくる。
これはどう意味なんだ?
〈大丈夫! 何とかしてあげる!! そんで、うまくいったら私の事、好きになってくれる?〉
「え?」
大賀の言葉にイツキは思わず声を詰まらせる。
恋路を手助けしてくれるなら好感は持てるな。
イツキは躊躇いがちに「はい」と伝える。
〈ホント!? なら、全力出す! 後、おじいちゃんにも報告しないと!!〉
そう、言うだけ言って大賀は電話を切るのだった。
これは明日、錦織先輩と再会できるって事でいいのか?
「ハジメ」
なんだ?
「明日、野球部早めに切り上げましょう」
まあ、仕方ないな。
でも、やることは全部やるからな。
「明日も交流試合がありますね。九回まで待ってられませんよ」
はあ、目立ちすぎるのもどうかと思うんだが、了解したよ。
拳を強く握る。
イツキの瞳に涙はもうなかった。
「すみません、錦織さんはいますか?」
夜、私が夕食後に部屋に戻ろうとすると突然大賀 澪が家を訪ねてきたのだ。
ちょうど帰ってきた兄が対応しているようだ。
こんな夜にどうしたのだろうか?
「あ、恋!」
「澪、どうした?」
「どうしたのはこっちだよ」
「俺は行くね」
兄が戻ろうとするが、「ちょっと待ってください」と澪が呼び止める。
私に用があるのではないのか?
全く意味が分からない。
「ねえ、あなた今、帝海高校から転校させられそうになってるの知ってた?」
「はい?」
何のことだ?
全く知らない。
ゴールデンウィークから今日までの二日間休んでしまったのはニキビが出てしまい、イツキに見られたくなかったからだ。
表向きは風邪という事にしているが。
でも、転校?
なんで、そんな話に。
「ああ、恋人と別れて学校転校するんだろ?」
兄が意味の分からないことを言い出す。
分かれてなんてない!
「今も好きだよ。分かれてなんてない」
「は? でも、父さんが」
「ただいま、って。みんなでどうしたんだ。それに須藤さんとこの」
「お久しぶりです」
父が帰ってきました。
それに、澪は頭を下げます。
「よかったら、上がっていきなさい」
「いえ、明日は私の好きな人と用事がありますので」
そう言って、澪は不敵な笑みを向ける。
まるで、何かを企てるように。
「そうそう、彼ね」
そして、澪はそのまま父に笑顔を向ける。
「泣いてたよ」
私の中で何かが切れ、熱いものがこみ上げてくる。
「じゃあね」
澪はそう言うだけ言って帰ってしまう。
でも、その方がよかった。
「ねえ、父さん。何をしたの!?」
思わず大声を出してしまう。
しかし、今はこの憤りを抑えきれない。
「柏山君との婚約のと解消した。高校も転校する。もうあいつには会うな」
「は、はあ!? なに、言ってるの?」
「あいつはお前を泣かせた」
確かにわつぃはデートの最後に泣いてしまった。
本当はデートの終わりに私がイツキとキスをして別れるつもりだったのに。
初めてのキスを上げるつもりだったのに。
横取りされたのが悔しくて、寂しくて泣いてしまった。
でも、その後彼はすぐにマリア・ヴォルコフに怒ってくれた。
そんな彼を嫌いになるわけがない。
「何も知らないくせに」
「なに?」
「何も知らないくせに、勝手に判断して、私の幸せを邪魔しないで! 大嫌い!!」
その瞬間、頬に衝撃と痛みが襲われる。
父に殴られた。
更に、父が手を上げるが兄が後ろから止めようとする。
私は逃げるように家を出る。
そして、玄関前で思わず叫んだ。
「母さんに言いつけてやる!! もう、こんな家なんかに帰ってこないから!!」
私は裸足のまま家を走って出たのだった。
少し家を出たところでポツポツと雨が降り出す。
足も痛い。
いつの間にか私は泣きながら歩いていた。
「恋! 待っててよかった乗」
「澪」
彼女は心配して待っててくれていたようだ。
「とりあえず乗って」
澪は車の扉を開けてくれる。
彼女の言うように車に乗った。
「ひどい状態ね」
「ホントだな」
澪の言葉を肯定するしかなかった。
感情のままに動いて家を飛び出して。
しかも、彼を、イツキを泣かせた。
「嫌われてしまった、かな?」
そう呟いた瞬間に、澪が「行き先変更!」と運転手に指示を出す。
「澪?」
「気になるなら聞きに行けばいいじゃない?」




