第一話 俺たちの高校生活はこれからだ!
今日から僕こと 柏山 一樹 は高校生である。
初日から遅刻はあまりよろしくないので、彼に意識世界(モニターのみの世界)から何度も声をかけたのに起きませんでした。
そこで、身体を動かして、足の小指に当たるようタンスの角に蹴りをかましたら、大変ご立腹されてます。
「うるせえ」
でも、このままだと電車の中で居眠りしてしまいますよ。
そうなると、百パーセント乗り過ごします。
「分かってるって」
後、声のボリュームを抑えてください。
周りから視線集めてますよ。
「ちっ」
もう一人の僕は舌打ちをした後、スマホを取り出した。
彼は最近の若者同様、動画やゲームを始める。
僕はこの時間が一番嫌いだ。
どんなに彼をいじっても無視するし、クイズ系のゲーム以外は基本無駄なように感じるからだ。
暇なので、彼の視線の端にある広告を眺める。
至ってつまらないゴシップや内容の無いものばかりです。
あ、おばあさんが乗ってきましたよ。
席を譲ってください。
彼はしぶしぶ立ち上がると、席を譲った。
おばあさん感謝してましたね。
「うるせえ」
取り敢えずそっとしておきましょう。
元彼女の件で僕の事をまだ怒っているのでしょうしね。
僕が通うこととなった帝海大学附属高校は偏差値七十五以上の県トップの高校で、そのままエスカレーター式に大学へ進学するのもよし。
国立大学へ目指しても高確率で現役合格させる超進学である。
そんなわけで、入学初日から授業が始まるのだった。
〜 〜
座学になると、今度は俺が意識世界に引っ込むのだった。
あまり、勉強は好きではないので代わりに授業を受けてくれるなら、その方がいいのだ。
それに、ここに通えるようになったのもこいつの頑張りによるものだったからだ。
俺があの日意識世界で泣いていると、もう一人の俺が意識世界に現れたのだ。
俺はヤツを殴るが、ヤツは無表情で俺を見つめていた。
「かっこ悪いな」
ため息混じりにヤツは胸を抉るような言葉を投げかける。
血が上った俺はまたヤツを殴る。
だが、今度はヤツはその拳を受け止めて俺を振り払った。
「大変不本意だけど、僕は君の中でもう一人の君として生まれてしまった。でも、生まれた以上この人生を楽しみたい。そんな訳でよろしくね」
「勝手に智香と別れたヤツとよろしくできるか!」
俺の叫びに返ってきたのは哀れみの瞳だった。
「ほんと、女々しいね。あそこでどうやっても別れ話は覆らなかったよ。なら、言いたいこと言ってスッパリ別れた方が得だよ」
そんな事、言われなくても分かってる。
でも、あんな別れ方は無いだろ。
「でも、あんな別れ方じゃないと、君の心が壊れてたよ」
「うるせえ」
「受験どうするの?」
「うるせえ」
「……分かった。受験はこっちでどうにかしておくから、それまでに立ち直ってね」
完全に八つ当たりだった。
それでもヤツはやり返しもせず、優しく微笑むだけだった。
それから、どれくらい時間が立ったかわからない。
でも、時間が心を癒してくれるというのは本当だったらしい。
心も落ち着いた頃ヤツは意識世界に戻ってきた。
「お前の家族怖い。勉強は僕がやるから、それ以外はよろしく」
そう言って寝てしまった。
俺は久しぶりに体に戻る。
「「「帝海大附属! 合格おめでとう!!」」」
俺の志望校より、ずっと上のランクの高校に合格していたのだった。
聞いた話だと、あの日から睡眠時間まで減らして勉強していたのだそうだ。
ただ、ヤツはコミュニケーション能力が低いのか、心配する家族に素っ気ない返事ばかりをしていたそうで、更に心配をかけていた。
しかし、家族で仲の良かった智香のおばさんから俺達が別れたことを知って、そっとしておくしかなかったのだという。
もしかしたら高校受験を失敗してしまうのではと思われる中、帝海大附属に受かってしまう。
そこで急遽家族全員でパーティーが行われるところで、ヤツはメンタル面でギブアップしてしまい引きこもることになったのだった。
その後、奴と話し合って授業やテスト以外は俺が担当することとなった。
家族怖い。
大丈夫?と、心配しながら母親が抱きついてくる。
家族怖い。
大丈夫か?と、心配しながら父親がお風呂に一緒に入ってくる。
家族怖い。
大丈夫なの?と、心配しながら姉がベットに入ってくる。
……普通じゃない。この家族。
後、もう一人の俺は「うるさい」しか、話しかけてくれない。
グスン