第四話 知りたくなかった
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イツキはただならぬ空気の中、昼食を食べていた。
恋先輩が用意してくれたお弁当は本来なら一生の内に何度食べれるか分からないような豪華なおかずだった。
それを樹は精進料理を食べる僧侶のように何かを悟った目をして口に運んでいく。
「先程は蜜柑が迷惑をかけたな」
「い、いえ。気にしてません」
先程、倒れて意識を失った少女こと蜜柑ちゃんは恋先輩と昔馴染みで、よく遊んでいたという。
蜜柑ちゃんは意識を失ってすぐ、ゾンビのように起き上がると、覚束ない足取りで生徒会室を出て行ったのだ。
そんな、彼女のお父さんも恋先輩のお父さんの部下で、お目付役も兼ねているそうだ。
つまり、生徒会室を出て行く蜜柑ちゃんを止めれなかった時点で、恋先輩のお父さんに連絡が行ってしまったと、考えるべきだろう。
「こんな、気持ちは初めてで。…すまん、気の利いた話でもできればいいのだが」
「いえ、僕も同じなので」
本来ならゴールデンウィーク明けの、仕事が終わった後に返事を、との事だったが予期せずその結果を知ってしまったわけですが。
ど、どうする!?
このままつきあうか!?
「恋人はハジメがしてくださいよ」
すまん。
同じ体ではあるが、別の人格が好きなのに騙して付き合うなんてできない。
どうにかしてくれ!
イツえもん!
「急いては事を仕損じる。待てば航路の日和あり」
まるで、自身に言い聞かせるようにイツキは呟く。
そして、ロボットのように食事をリズムよく口に入れていく。
その順番も野菜、野菜、タンパク、炭水化物と常に規則正しく摂取していく。
「イ、イツキ! 実はす、好きな人ができたら、やってみたかった、事があって、だな」
恋先輩は箸で金箔の乗ったローストビーフを摘み、樹に差し出す。
「あ、あ〜ん」
恋先輩の瞳にうつる樹は地蔵のように笑顔のまま固まっている。
だが、何もせずにいると、恋先輩の瞳に涙が溜まっていく。
ま、まて、慌てるな、これは孔明の罠だ。
「待ってください!」
そうだ、言ってやれ!
「次は野菜、です」
「そ、そうか」
恋先輩はプチトマトを掴む。
イツキは何かを悟った穏やかな表情でゆっくりと頷く。
そして、プチトマトを口にしたのだった。
な、何故だ!
「とても、美味しいです」
「そうか」
くそ!
もう、打つ手はないのか!
恋先輩は顔を赤くしてまだイツキを見つめている。
「こ、今度はイツキ、からだな」
「はい」
そして、イツキは卵焼きを箸で摘み、恋先輩の口元へ運ぼうとした時だった。
一瞬にして卵焼きが消えたのだ。
「ご馳走様でした」
声の方へ向くと、そこには姉貴が立っていた。
「あなたはだれ?」
「私は姉の芽明です!」
「お義姉さん?」
「あなたに言われる筋合いはない!」
姉貴は恋先輩を睨む。
それに対して恋先輩も、強い眼差しで見つめ返す。
い、イツキどうにかならないか?
「……」
イツキは何も喋らない。
それでも、二人のただならない空気は部屋を満たしていく。
「錦織さん、あなたは私の弟に相応しく無いわ」
口火を切ったのは姉貴だった。
その一言に恋先輩は額にしわを寄せる。
「それは、私が彼と釣り合うだけの能力がないということか?」
「いえ、別にそんな事で認めないなら、前の恋人である智香なんて赤点もいいとこだわ」
恋先輩は一瞬樹を見る。
それを姉貴は鼻で笑う。
「あらあら、前に彼女がいた事も知らなかったの? お互いを知る時間を作った割には、その意味を成してないように思えるのだけど」
「まだ、お互いの気持ちを確かめ合ってすぐですから」
「じゃあ、智香に新しい恋人ができたからって、一方的に別れ話を切り出されて、人間不信の末に引きこもってたのも、必要のない情報かしら?」
「そ、それは……」
恋先輩は姉貴の言葉に視線を落としてしまう。
そこを追い込むように姉貴は恋先輩の肩を掴む。
「あの子は私の愛する弟をあの事件から救ってくれた。だから、全てを諦めては認めたのに! 次は無いの!」
「…何を、言っている?」
姉貴のあまりの迫力に足がすくんでしまっている。
どうにかしないと、でも俺が出て行って何か変わるわけでは無い。
「姉さん、色々辛い役目を押し付けてごめん」
その一言で姉貴は恋先輩の掴む手を離し、樹に抱きついてくる。
「大丈夫、あなたの為なら」
「後は自分で話すから」
イツキの言葉に姉貴は頷くと生徒会室を出ていくのだった。
ハジメには内緒です。
皆さんは姉さんの異常性に気付いただろうか?
まず、姉さんがなぜタイミングよく生徒会室に来たのか?
漫画やラノベならご都合主義でまかり通るかもしれません。
でも、現実にはそうはいきません。
次にハジメは姉さんの入室について語っていません。
でも、皆さんは部屋に入る際、音を出さずに入って来れるだろうか?
また、入ってきたことに中の人が気付かないなどあるのだろうか?
そうなると姉さんはどこから登場したのでしょう。




