第三話 下は上に逆えず
いつもコメントありがとうございます。
ギリギリ間に合いませんでした。
早速新しいクラスに移る。
残念ながら、良子ちゃん、大西は全て違うクラスだった。
でも、イツキは人付き合いが悪く、基本自分の席で本を読みながら過ごす事が大半だ。
しかも、誰かが話しかけてくる場合、俺に押し付けてくる。
なら、この方が良かったのかもしれない。
「おい、柏山って奴、先輩が呼んでるぞ」
イツキは声の主を一目見た後、廊下に視線を向ける。
恋先輩が笑顔で、手を振っていた。
「ハジメ、お願いします」
いや、恋先輩はイツキが行くべきだ。
「…そうですか」
渋々イツキは本を閉じて、恋先輩のもとに行く。
「や、やあ。一昨日ぶりだな、イツキ」
「すみませんが、もう次の授業が始まるので」
イツキは前回でフラれなかった事で、更に恋先輩へ塩対応で接していた。
それでも、三日に一度のペースで生徒会へ様子を見に行くのはこいつなりの優しさなのだろう。
「そう、だな。この前持って行った部費利用報告書を返してほしい」
そういえばずっとカバンに入れたままになっていた。
「分かりました。今、持って「いや! 昼休みに生徒会室に持ってきてくれ!」
恋先輩はイツキの返事も待たずに走り去ってしまったのだった。
どうする?
「どうするもなにも、最初からフラれる事しか考えていません」
でも。
気づいてないわけじゃないだろ?
「僕はあなたのせいでこんな事になってます。もしくは、今からでもハジメが対応しますか?」
いや、すまない。
だが、やっぱり恋先輩の気持ちも考えるべきじゃないか?
「ハジメがいう言葉ではないです」
確かにそうだが!
「でも、考慮しておきましょう」
イツキは自分の席に戻り本を読むのだった。
午前中の授業が終わり早速生徒会へ向かう。
生徒会室に入るが恋先輩はまだ来ていなかった。
代わりに小さいのがいた。
「新しい生徒会の方ですか?」
「いえ、錦織先輩に頼まれてこれを持ってきました」
「!? これ、無くなったファイル。あなたが持ち去ったのですか!」
「頼まれて持って来たと言ったのに、頭の中でどう変換したら持ち去った事になるのですか?」
イツキはいつもの笑顔の仮面を被るが、苛立ちを隠せていなかった。
おそらく、昨晩マーシャの夢を見たせいだろう。
「それは錦織先輩に渡しておいてください」
そう言ってイツキは立ち去ろうと、扉にてをかけた時だった。
「イツキ、もう来てたのか」
恋先輩が大きな包みを持って、入って来たのだった。
そして、包みを机に置いて恋先輩が包みを開ける。
そこには金箔で模様付された漆器の重箱があり、その中には煌びやかなおかずが所狭しと入っていた。
「実は一緒にお昼をと思って作ってもらってきた…」
振り向いた瞬間、イツキではなくその隣に恋先輩は視線を向ける。
しばし見つめ合う恋先輩とちみっこ。
「あ、あれ? な、なんで、蜜柑が」
「姉様! なんなのですか、この男は!?」
「イツキは…」
助けを求める視線を送ってくるが、イツキは視線が合う前に逸らす。
恋先輩はショックを受けた顔を見せるが、小さいのに視線を戻した。
「彼は私の恋人候補だ!」
「!? それはどういう?」
「彼から告白をされた!」
「!?」
小さいのがイツキを睨む。
「私も憎からず思っている!」
「!?」
恋先輩に向き直し大きく瞳を開きながら、浅い呼吸を繰り返す。
「だが、お互いの事を知らなすぎる! そこで、お互いの信頼を深める時間をとったのだ」
「!?」
更には顔が青ざめていき。
「なお、九割方惚れている」
「ね、姉様は、こいつの、どこが」
「寡黙でちょっと冷たいのに、いざという時は誰よりも頼りになるところが」
少女は呼吸を忘れ倒れたのだった。
完全に今までの行動が裏目に出ている。
「は、はは、ははは」
イツキからは乾いた笑いしか出てこない。
つか、イツキ正気に戻れ。
お姉様呼びの妹分がいるあたり、嫌な予感がする。
少なからず、いいとこのお嬢様だとは思うが。
そこんとこを聞かないと!
「そ、そうだね。……錦織先輩、ご実家って?」
「父が警視総監をしてる」
予想を斜め上をいく回答にイツキは笑顔を引きつらせ、俺は意識世界で頭を抱えたのだった。
「先日はすみませんでした!」
仕事場の後輩達が頭を下げてきた。
先日、未成年運転の容疑をかけてきたからだ。
今年で四十一なので、そろそろ大人の風格が出てきたと思っていたのだが、まだまだらしい。
「あれでアラフォーとか信じられない」
「若すぎ、一種の詐欺ですよ」
新人さん、陰口はもっと小さな声でしなさい。
そんな、私、柏山 広明は一課の警部でここのところ、連続強盗事件でデスクを離れていた為、新人達に顔が知られていなかったのだ。
「柏山さん、上から電話です」
「ああ、強盗犯の事情聴取の件でしょ。了解、今行きます」
私はいつも通り局長室へ向かう。
そこには青ざめた局長がソファーに座っていた。
「柏山くん。そこの電話には警視総監に繋がっている」
「…はい?」
ドラマで有名な紅茶を嗜む警部でも、頭脳は大人の名探偵も理解できないだろう。
「私も理由は分からないが、待たせてはいけない。早くでなさい!」
「はい」
恐る恐る私は電話の受話器を取る。
「変わりました。捜査第一課 警部 柏山 広明です」
「君が柏山か」
低い声が聞こえると同時に局長室がいい知れない重い空気に包まれる。
「君の息子は相当優秀なようだな」
「は、はい?」
一樹よ。
なにをしでかした!
「なに、これから娘が世話になるのだ。ちょっとした挨拶だよ。君の頑張りも調べさせてもらったよ」
私は体が急に寒くなる。
「上のポストも空きそうだしな。これからも、良い関係を築ける事を願っているよ。それでは」
どれだけ、固まっていたのだろう。
既に電話は切れていた。
私は局長に向かって頭を下げた。
「しばらく、休みをください」
局長はなにも言わず、頷いたのだった。




