仮病を使いたい(桃花)
小学生の頃、明日学校に行きたくないなと思ったことが、みんな1度はあると思う。
今の私がそんな気分。
学校から下校している最中、もう4回もため息を吐いてしまった。
・・・ ああ、明日学校休みたいな ・・・
明日は音楽の授業でリコーダーをやるんだけど
一人ずつみんなの前に出て「ふるさと」という曲を吹かなければいけないんだ。
マジックショーみたいに演奏する人を中心に残りのクラスメイトが弧を描くように座ってね…
私はリコーダーが苦手で明日クラスのみんなの前で恥をかくと思うと不安でたまらない。
だいたいなんでクラスメイトの目の前で一人ずつ吹かないといけないんだろうか。
クラスの中には人見知りの子や私みたいにリコーダーが苦手な子もいるというのに。
もし、先生が私たちの気持ちも知らずに一人ずつ発表会したら楽しいよねくらいの思いつきでやっているのであるのなら私は先生に異議申し立てをしたい所存だ。
家に帰っても何も行動する気になれなかったので布団の中で1、2時間ゴロゴロして
明日、学校をどうにか休めないかとか、音楽の授業を算数に変わらないかと考えてしまう。
・・・ よし、明日休もう ・・・
学校に行きたくない時は無理していかなくてもいいっていうし。
ということで風邪をひこう。
私は机の引き出しから体温計を取り出して広げた手の中に、はさめて前後に交互に動かしサスサスとこする。
そうすることによって摩擦熱で体温計の温度をあげることができるのだ。
この前、頭の悪い友達がこれを保健室でやって見事早退を勝ち取っていた。
体温計がピピって鳴るまで頑張ってサスサスこする私。
頭の中では孫悟空のかめはめ波を放つ姿をイメージする。
・・・ はぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁー ・・・・
しばらくして体温計が鳴ったので確認。
42.2°
・・・ 上がりすぎか、これじゃ病院コースだ。 調整調整 ・・・
再びやり直す。
サスサス、サスサス
37.7°
・・・ うん、素晴らしい、excellent!! さすが私! ・・・
「桃花、あんたお風呂掃除。今日当番でしょ」
体温計で頑張って温度調整しているとお母さんから声がかかる。
「あ、うんすぐやる」
布団の中でゴロゴロする時間が長かったようでいつの間にか日が暮れていた。
私は体温計を机の上に置いてお風呂掃除に取り掛かる。
お風呂を掃除して洗面台も拭いて足拭き置き場のマットを交換して今日の家事当番は終了。
さて、お母さんに具合悪いアピールをして明日学校を休もう!!
「お母さん、具合悪い」
お母さんはキッチンで晩御飯を作っている。
「どうしたの」
私が自分の体調不良を訴えるとゆっくりと駆け寄ってくれる。
お母さんは私に近寄ると自分の手を私の額にあてた。
「熱はないみたいだけど」
「んにゃ、体温計で測ったら7.7°だった」
早く、早く私が頑張って作った体温計の記録みてくれないかな、と心の中はワクワクしてる
「体温計、ストーブに近ずけなかった?」
・・・ 悲しいかな。親子なのに信用されてないよ私 ・・・
「んにゃ、そんなことしないよ。手でこす・・・」
私は言いかけて止めたが時すでに遅し
「自白してくれてありがとう。手でこすったらそれは正確に測れないわよね」
「あ、うん」
「きちんと学校に行きなさい」
作戦失敗か、
私のしょんぼりした顔を見たのかお母さんは言った。
「なんで休みたいのかきちんと話してくれるんだったら少しは聞いてあげるわよ」
「え!!」
フライパンを手にしながら再び料理を作り始めるお母さん。
「いつも、遅刻してもきちんと行ってるのに急にどうしたのよ、だれかに何か言われたの?」
「実はね。明日、リコーダーのテストがあるんだけどみんなの前で演奏しないと行けないんだ」
「それが嫌なの?」
フライパンを持って後ろ向きのままの私はお母さんと話す。
ジュウジュウという肉が焼ける音が聞こえる。
「うん、私リコーダー苦手で」
「なんで練習しなかったの。練習する時間はあったでしょう」
だんだん、焼けた肉の香ばしい香りがしてくる。
「だって、まさかみんなの前で演奏することになるとは思わなくてさ」
最初からみんなの前で行うことがわかってたら私のやる気だって違ってたんだ。
「思わぬ伏兵がって感じ?」
後ろ向きでもお母さんの声のトーンは落ち着いていて笑っているのがわかる。
「そうそう」
「じゃあ、音楽の授業になったら憂鬱になったんで休みますって言って、保健室に行ったら?」
「それ、先生が認めると思う?」
「思わない」
「でしょう」
そんなことで保健室に行けたら保健室のベッドなんて2つじゃ足りない足りない。
「じゃあ、リコーダー忘れましたっていえば?」
「無理、だって音楽室にリコーダーの貸し出しがあるもん」
「それで演奏したらリコーダーがおかしかったから上手く吹けなかったって言い訳できるじゃない」
「それはそうかもだけどみんなの前で吹かないといけないのは変わらないじゃん」
「そうね」
「それが嫌なんだ」
「笑われるから?」
「・・・・うん」
つぶやく程度の低い声で私はうなづく。
「じゃあ私はあんたが笑われないと予想しようかしら」
「???」
お母さんが急に変なことを言い出した。
「あんたは明日リコーダーを吹けなくて笑われるという予想でしょ、どちらが当たるか勝負しましょう」
出来上がったハンバーグをお皿に盛りつけながらお母さんは勝負を持ちかける。
・・・ そんなの私が勝つに決まってんじゃん ・・・
「その勝負、勝ったらなんか出るの?」
「何も出ないわよ」
「じゃあ、やる意味ないじゃん」
「私は公務員だから賭け事はしないの」
「それ、公務員を言い訳に使ってない?」
一瞬、お母さんの手が止まる。
・・・ ははーん。 図星なんだ、わかりやすい。 ・・・
「どうかしら。でも、何事もなく終わると思うわよ」
・・・ 根拠もなくそんなこと言わないでほしい ・・・
そんなこんなで奈々も帰ってきていつも通り家族みんなで食事してお風呂に入って1日が終わった。
そして次の日。
憂鬱な気持ちで午前中を過ごし、心苦しい5時間目の音楽の授業が始まった。
私は緊張しながら早くこの時間が終わらないかと祈っていたのだがその授業は出席番号順で一人ずつ演奏するらしく私の番がくる前に授業が終わってしまった。
さらに私と同じでリコーダーができない人もいたのでいまは少し安心している。
・・・ なんだ、吹けなくても馬鹿にされなないのか ・・・
私の昨日の悩みはなんだったのだろうか。
家に帰ったらお母さんから「ほら、私の行った通りでしょう」と言われそうな気がする笑