初陣と再会
ーー15年という歳月、毎日心待ちにしていた日が遂に来た。
初陣の地は偶然にも俺の生まれ故郷であるアルドレスだ。
出陣前、2000を超える部下達の前で士気を高める為に演説をした。
「えー、改めて本日は私の初陣だ。勝利の女神は全ての者が全力を尽くした時にのみ微笑む。一丸となり、全力で立ち向かえ! 」
「「「「おおー!! 」」」」
「では、いざ出陣だ。テレポーテーション!」
我々はアルドレスから10キロメートルほど離れた場所にテレポーテーションした。
なぜ街の傍にテレポーテーションしないのか。それは簡単な事だ。
あえて遠くから向かうことで、人間達に「魔王軍が来たぞー! 緊急クエストだー! 」って準備の時間を与えるため。この世界ではお約束である。
「全軍進め!! 」
俺が先頭を走り、2000を超える部下達を我が故郷へと誘導する。
ーー「魔王軍の襲撃だ! リーダーは魔王の息子“イーブル・マル・ユーベル”! 全員配置につけ!」
アンドレスの街では緊急クエストが発令され近衛騎士団及び私兵団、冒険者各位が配置につくのが遠目に見える。
我々が街の門まで数百メートル付近に到着すると、近衛騎士団が待ち構えていた。
「イーブル。お前達の好きにはさせない。ここでお前達の息の根を止めて、消えていった戦友たちの仇を摂る!」
威勢よく一人の男性が声をかけてきた。
彼の名はアレックス・ファンネル。彼は俺と苦楽を共にした、最高の戦友であり最高の友人だ。
当然歳はとっているが、当時の面影は十分にある。
「待て!アレックス。5秒だけ時間をくれまいか」
彼は話の分かる男だ。俺は5秒という時間を求めるーー部下を消す時間を
「・・・貴様、何故私の名を...まあ良い。この場に及んで命乞いか? 」
「デス・フォール!!」
俺は魔王に代々伝わる魔法を詠唱。部下達を巨大な魔法陣が覆い次の瞬間に血飛沫が上がる。
「ーーッ!!貴様... “お前達など俺一人で十分だ”とでも言うつもりか? 」
「違う。俺は交渉に来たのだ」
「これまで好き勝手に暴れ続けた魔王軍と交渉だ? ふざけろ。冗談はーー」
「冗談ではない。冗談では無いのだ。アレックス、私の話を聞いて欲しい。俺はこんな姿になったが、ユークリッド・アレジオだ。
魔王軍幹部に殺された俺は、魔王軍への復讐を誓いこの世に再び舞い降りた。皮肉にも魔王軍の息子としてな... 俺を、近衛騎士団に亡命させてはくれないだろうか」
俺は装備していた武器、防具を全て足元へ捨てた。
沈黙が時を支配する。
そして、アレックスが口を開いた。
「・・・・・・確かに、口調が似ているな。しかし、本当にユークリッドであるという事をどの様に証明してくれる?」
「ガルドレア... ガル爺はまだ生きているか?彼は全てを見通す占い師。きっと事実を、私の正体を証明してくれるはずだ! 」
「なるほど、ガル爺か。ーーおい、ガルドレア殿をここへ呼べ」
「し、しかし...」
「呼べ」
「は!直ちに連れて参ります」
アレックスが部下に命令を下し、指令を受けた青髪の青年の姿が消えた。
「魔法使いの青髪...もしかして、ダンさんのところのダイナか?迷子で有名だったよな。あんなに立派になって」
「そんな事まで言われると、ますますお前がユークリッドの気がしてくるな」
「ユークリッド本人なんだけどな。ところで、ガル爺には小さい頃から世話になったよな。例えば、ガキの頃に秘密基地に行こうと歩いていたら、“今日は行くな”って言われてーー」
「行くのを辞めたら、その日の夕方俺達の秘密基地周辺で殺人事件が起きていた」
アレックスが俺の言葉を引き継いだ。
俺達が十数年前の話をしていた所でダイナとガル爺が現れた。
「ガルドレア殿、この男です。 この男の前世を占って頂きたい」
ダイナが俺を指さす。
「ええ、構いませんよ。しばしお待ちを」
ガル爺が俺に両手を向けて、ブツブツと何かを唱えている。
そしてーー
「彼の前世は、近衛騎士団団長ユークリッド・アレジオで間違えない」
その言葉を受けてアレックスが俺に駆け寄ってきた。
「疑って悪かったよ。おかえり、ユークリッド」
「ただいま。15年ぶりにだな」
俺達は、泣きながら握手を交した。