死と誕生
ーーもはやこれまでか。
28歳という若さにして近衛騎士団の団長を任された俺は、魔王軍との戦争に勝つために、愛する人を守るために必死に戦った。
魔王軍に世界を支配させるものか。
魔王軍に愛する人を奪われる訳には行かない。
魔王軍により殺された多くの同胞達の仇を打つのだ。
右、左、次は頭上。一心不乱に剣を振るう。左右からの同時攻撃を身を翻して避ける。
しかし、多勢に無勢だった。
「もはや立つこともできぬか勇者よ。貴様の戦いは見事であったぞ?静かに眠るが良い。クズが。」
高笑いをしながら、魔王軍幹部が俺に向けて魔法を放つ。
こうして俺、ユークリッド・アレジオの人生は幕を閉じた。
ーー気が付くと、天井や奥行きが全くわからない真っ白な空間にいた。
「大変でしたね。お疲れ様でした。」
若い女性の声がする。
まるで直接脳内に語りかけられるような感覚だ。
「ここは何処だ...俺は死んだのか?」
「はい。貴方は魔王軍との戦闘中に戦死されました。」
また女の声が聴こえた。
「俺はまだ死ぬわけにはいかない。頼む!死に戻りさせてくれ!!」
「それはなりません。死体は死体です。如何なる場合であっても生き返らせる事は出来ません。」
躊躇なく俺の希望は切り捨てられた。
「ですが、貴方は生前に多大なる功績を残された。今の記憶をお持ちのままで先程の世界に生を受けることは出来ます。貴方はそれを望みますか?」
「当然だ」
迷うまでもない。
「分かりました」
次の瞬間、魔法陣が展開。俺の体が宙へ浮かぶ。
「な、何が起きている!体が宙に...」
「ご安心下さい。これから貴方は元の世界に産まれることが出来ます。
これから世界は更に苦しい時代に突入します。貴方が世界を変える方になると私は信じております。貴方に幸あらんことを」
ーー次の瞬間、場面は濃紫の一室に切り替わった。
天井が見える。俺は今寝ているのだろうか。
起き上がる努力をするが首が座らない。
「あらあら、イーブル目が覚めたの?」
声のする方へ首を向けると、“魔女王”シャータイン・マル・ユーベルがこちらへ近づいてくる。
「あう!」
来るな!そう叫ぼうとした。しかし呂律が回らない。
「はーい、よちよち。イーブルは大きくなったら、パパみたいな立派な魔王になるんでちゅよ?」
今、なんと言った。俺が立派な魔王になるだと?ふざけるな。
俺は世界を救いたくて、この世に戻ってきた。それなのに、魔王の息子として産まれてきてしまったというのか。
ぶつける先のない怒りに自然と涙がこぼれる。
「あああーーーー」
建物が揺れ、ガラスが割れる。壁の一部がポロポロと落ちてきた。
泣くだけでこの威力とは...
俺は今、強く決心した。
“この力は絶対に悪用しない。近衛騎士団に戻り、正義のために我が力を使う”