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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第一章 その『朱』はまさに最強
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行間1

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 そう電子アナウンスを聞いて、私はヘッドマウントディスプレイを外した。

 部屋の中はゴミが散乱していた。ペットボトルにコンビニの弁当、宅配の弁当など種類は数多いが、全てをひっくるめて、たった一言で言い表すことが出来る。『ゴミ』と。

 そしてそのゴミをかき分けるようにベッドとテレビ周りだけは綺麗になっていた。ヘッドマウントディスプレイの充電台も綺麗にされている。

 ヘッドマウントディスプレイを充電台に置いて、私は深く溜息を吐く。

 私はこの現実の世界が、嫌いだ。

 考えたことがあるだろうか? 嵌まりに嵌まったゲームから抜け出せないという気持ちを。

 今、私はまさにそれを実感しているところだ。

 私はあの世界で生きて、あの世界で死にたいと思ってきていた。

 だからバグだらけのゲームでもVRMMORPGというジャンルが素晴らしいものであるということは自覚しているし、それによって様々な仲が生まれていることもまた事実だ。運営が言うには、アビスクエストで出逢ったカップルが結婚まで行った事例があるらしい。どこまで本当なのかどうかは分からないが。

 いずれにせよ。

 私はあの世界で死にたいと思っていた。

 だからあのゲームでレベルカンスト勢と呼ばれる存在まで登り詰めた。

 でも、満たされなかった。

 私の心が満たされることは無かった。

 いっそオフ会でも参加すれば、心が満たされるのだろうか、と思ったことはあった。

 けれど、オフ会に行ったところで何が満たされるというのだ? 満たされる物など何もありやしないではないか。

 そんなことを思うようになってしまい、結局塞ぎ込んでしまっていた。

 お金については、ゲーム内の十億ダイスと、家族が遺した遺産が僅かだが残っている。タイミングを見計らって、ゲーム内の十億ダイスを換金していけば、一生暮らしていくことは出来るだろう。

 だが、問題はそこではない。

 私は考える。連続でプレイ出来ない葛藤を。何時間もアビスクエストにログイン出来ない葛藤を。アビスログインには安全性を考慮した装置が設置されており、六時間以上連続ログインしているユーザーに警告を発報するのだ。そしてそれを無視し続ければ、それがいかなる状況であろうとも強制的にログアウトされる。もし相手の戦闘中なら、自動的に敗北となる。

 私はそれが嫌だった。そもそも、どうして六時間なのだ? 人間はもっとゲームに溶け込んでもいいのではないだろうか? 人間という生き物は、普通の世界で生きて行くには、とかく面倒なことだらけだ、と思っていた。普通に生きていれば腹も減る、喉も渇く、疲れも出てくる。しかしアビスクエストではそういうパラメーターはあるものの、無視し続けても何が起こるかと言われれば、体力の減少ぐらいだ。現実に囚われ続けているだけではないか、と思い込んでしまうが、それぐらいならばたいした誤差になりゃしない。


「私は……」


 できる事なら、アビスクエストで死にたい。

 アビスクエストのゲームオーバーを、現実でのゲームオーバーとしたい。

 そう思っていても、簡単に出来る訳ではない。幾ら天涯孤独の私だろうと、それを簡単にしてしまうことは、犯罪になってしまうからだ。

 ああ、ひどく面倒臭い世の中だ。

 そんなことを考えながら、私はスポーツドリンクとカロリーメイトを一口かじり、ヘッドマウントディスプレイ(HD001型の最新型だ)を頭に被せた。


「アビスクエスト、ログイン。ログインIDはAlice093、パスワードは********」


 さあ、始めよう。

 アビスクエストの冒険を。



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