第五章7『最終決戦(前編)』
「……受諾します」
「アリス!?」
「白旗、受諾します! 戦闘、戦闘中止ー!」
「戦闘中止!?」
「戦闘中止せよ! 戦闘中止せよー!」
唐突の『戦闘中止』命令に、現場は困惑する。
当然と言えば当然のことかもしれない。そしてそれは、紛れもなく、間違っていないことだったかもしれない。
いずれにせよ。
白き女王から出された『白旗』に一番驚いたのは、紛れもなく、この私なのだから。
「白き女王」
武装を解除して、私は白き女王と対面する。
白き女王は話を続ける。
「少しは、人間に興味が沸いてきた」
「沸いてきた、というのは?」
「人間がどれ程変わった存在だったのか、私は資料でしか知り得なかった。けれど、貴方達に出会って、人間とはこれ程までに優秀な存在だと知り得た。というよりか、人間と戦う意味がほんとうにあるのか、分からなくなってきた」
「……やっぱり、そう思ってくれると、思っていたよ」
それがほんとうの思いかどうかは別として。
とにかく、私としては戦闘を避けられるなら避けてしまった方が良い。
「……ならば、どうすれば良い? 私は」
「貴方は、『創造主』と対面出来る機会を設けてくれれば良い。ただ、それだけで……」
『そうはさせないよ』
ザシュッ、という音が響いた。
白き女王の背中に、雷鳴を槍にしたような形状の何かが突き刺さっていた。
「き、貴様……」
『やはりAIは人間に興味を抱いてしまうから厄介な存在だねえ。だったら、』
「だったら?」
『私自らが、出てくるほかない』
そう言って。
向こう側にある扉がウィーンという音を立てて開いていった。
そこに入っていたのは、一人の騎士だった。
赤い鎧に身を包んだ彼は、老齢の男性だった。
「貴方が……創造主?」
「いかにも」
「創造主を倒せば、貴方が考えている計画は頓挫する?」
「一応、頓挫するだろうね。国が考えている計画だから、いずれはまたやって来る機会だろうけれど」
「だったら、貴方を倒す」
私は剣を構える。
「みんなは、手を出さないで」
「ええっ?」
「これは、私と彼の戦いよ」
「それよりも先に、やっておくことがあるのではないですか?」
「何だと?」
パチン、と指を鳴らす。
すると、何処からともなく、二十人の人間が姿を現した。
そしてそれは紛れもなく――白き女王に監禁された人々だった。
「少年!」
「アリス……さん!」
私は少年と抱き合った。
少年の小さな身体を、全身で感じ取った。
「これで、問題は解決した」
創造主はそう言い放った。
そして、創造主の顔を見た少年は、開口一番こう言い放ったのだ。
「おじいちゃん……」
それに私は驚くことはしなかった。
知っていたからだ。理解していたからだ。承知していたからだ。
少年の祖父が、『アビスクエスト』の開発者である事実。
少年は、それを知っていた上で『アビスクエスト』にやって来た。
というより、『アビスクエスト』を知ったのは完全に偶然で、それから開発者が祖父であることを知ったのだという。
私と少年が出会ったのも、そのタイミングでの出来事だった。
少年が困っているところを、私が救ってやった。
そして少年は、彼が知っていることを全て教えてくれたのだ。
だから、驚きも感動もない。
全て知っている事実だ。
「……まるで、何もかも理解しているような様子ですねえ。ああ、くだらない。むかついてきますね」
創造主は笑っていた。
笑い倒していた。
笑い狂っていた。
「……だとしたら、どうする?」
「だとしたら、答えは明白ですよ。叩き潰す、のみ!!」
そうして、戦いは始まる。
それが最後の戦いであることを、理解していたような気がした。




