第五章5『互いに、互いを、見極めて』
それから、十時間後。
私達は『カセドラル』に到着していた。カセドラルとは、今更説明するまでもないが、『アビスクエスト』にログインしたユーザーが最初に訪れる場所であり、各アビス島のカウンターの役目を担っている、非常に重要な場所である。
そのカセドラルに私達はやってきていた。
そして、カセドラルの中心には、見慣れないエレベーターが設置されていた。
「……どうやら、案内されているようね」
私の言葉に、何人かの人間が頷く。
目的地である、カセドラル十四階会議室までどうやって行けば良いのか、等と議論していたばかりのことである。
もしかしたら、相手は私達の情報も筒抜けなのかもしれない。何せ相手はこのゲームを作り上げた『創造主』。それぐらい容易に出来てもおかしくないのだ。
「……相手は何をしでかすか分かったものじゃない。皆、分かっているな?」
「ああ、分かっているよ。今は全員お前の作戦に期待している。失望させるなよ? レベルカンスト勢のアリスさん」
そうわざとらしく言ったのはゴードンだった。
こいつは結局最初から最後までこんな調子だった。それに私がどれ程助けられたか分かったものではない。
ただ、今感謝の気持ちを伝えるのでは違う。
未だ、感謝の気持ちを伝える場面ではない。
さあ、始めよう。決戦を。
これから始まるのは、我々だけではなく、『アビスクエスト』に住まう全員の気持ちが通った、聖戦だ。
◇◇◇
カセドラル、十四階会議室。
そこには『白き女王』が立っていた。
完全に、絶対に、勝者となる存在。
完全に、絶対に、一位となる存在。
その存在が十四階会議室を自らのバトルフィールドに見立てていた。
創造主からの助言はゼロ。
創造主からの言葉はイチ。
「……今からやってくる人間を、殲滅せよ」
プログラムに定められたとおりの結末を迎えれば良い。
人間の魂を格納するプログラムが完成すれば良い。
ただそれだけのことなのに。
ただそれだけだったのに。
どうして人間と戦争を続けなければならない?
白き女王の中には、いつしかそんなデータが生まれつつあった。
しかし、白き女王は直ぐにプログラムで『不定』という処理を送る。
しかし、何度もそのプログラムは生まれ続ける。
なぜ戦い続けなければならない?
なぜ戦い続けなければならない?
答えはまったく見えてこなかった。
そして、それを『創造主』に質問してしまったが最後、自らのプログラムも『バグ』として処理されてしまうのだろう、ということも分かっていた。
だからこそ。
だからこそ。
だからこそ。
それを言うことはなかった。
それを告げることはしなかった。
それを発言することは許されなかった。
では、どうすれば良いのか?
では、どのように解決すれば良いのか?
答えはまったく見えてこない。
「いや、例えば」
今からやってくる人間は、その答えを持っているのだろうか?
その答えは、誰にも分からない。
◇◇◇
エレベーターには全員が乗り込むことが出来た。というか、全員が乗り込んでも未だ余裕のある構成になっていた。
「これは、創造主が元々我々が戦闘を行うことを理解していた、ということか……?」
彼女の問いは、誰かが答えを見つけられるものではない。
しかしながら。
彼女の言葉は、全員に届いていた。彼女の言葉は、全員が理解していた。彼女の言葉は、全員に共有されていた。
そして。
そして。
そして、だ。
その言葉に何を求めるのか。
その意思に何を求めるのか。
その行動に何を求めるのか。
答えは分かりきっていた。
答えは理解しきっていた。
答えは成熟しきっていた。
「……戦わねば、答えは見えてこないのだろうな」
きっと、言葉では解決しない。
きっと、言葉以外でしか解決しない。
きっと、言葉というジャンルでは解決できない。
ならば。
――やるしかない。我々の手で。
これから始まるのは、『アビスクエスト』の歴史に残る、大きな戦争の一つだ。




