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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第一章 その『朱』はまさに最強
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第一章4『ゴブリン退治も楽ではありません(3)』

 さあ、楽しい楽しいゴブリン退治のお時間がやってきましたよ! 作戦はさっきも言った通り、北と南で一人ずつ張り込みを続けて、『出てきた』方に総攻撃を仕掛ける。至ってシンプルなプログラム!! 簡単に言ってしまえばそれまでだけれど、問題は山積みではあることには変わりないし!! 少年はレベル1のままだから、私が急いで駆けつけないと、少年がゲームオーバー状態になって『アビス・ファースト』のオンラインカウンターからやり直しになってしまう訳だから!!


「ちょっと、アリスさん、テンション高すぎです。少し押さえてください」

「……少年に文句を言われると、ちょーっちいらつくかな☆」

「そろそろ少年と呼ぶのを辞めて貰えないですか、僕の名前はエクスだって何度言ったら」

「はいはい、一人でゴブリン退治が出来るか、レベル2に上がったら名前を呼んでもいいけどね!」

「そんなことを言っている場合……!?」


 少年の言葉が詰まった。


「少年! どうした、少年。応答しろ!」

「……大量のゴブリンがやってきています! その数、えーと、十匹以上!! 正直言って、なんとかなる数じゃないです!!」

「何だと! 少年のところにやってきたというのか、あの大量のゴブリンが!!」


 いや。

 そもそも海の洞窟からやってくる可能性は充分にあったではないか。

 牧場のNPCが、そんな言葉を臭わせていたでは無いか!!


「畜生! 私としたことが!! 少年、未だなんとかなりそうか!?」

「正直言って未だなんとかなると思いますけれど!! でも早く来てください!」


 そんなことは百も承知だ。理解している。


「分かった。それじゃ、私がそちらへ向かうまで耐え抜いてくれ! 問題が無いようなら、そのまま攻撃を開始して構わん!!」

「でもアリスさんは……!」

「私はただのバックアップに過ぎない。少年が、このゴブリン退治をクリアしないと駄目なことぐらいは理解しているだろう!?」


 そう。

 私がこのクエストの経験値を得ても、はっきり言って微々たるものだ。

 しかし、レベル1の少年が経験値を得れば、充分レベル2に上がってもおかしくない経験値を手に入れることが出来るのだ。


「だから、少年は――」

「ええい、分かりました! 分かりましたよ! 良いから急いでやってきてくださいね!! 経験値は僕ができる限り入手させて貰いますけれど!!」

「もとより最初からそのつもりだ!」


 そうして。

 私は大急ぎで少年の元へ急ぐ。

 急がなければ、少年が【ゲームオーバー】になってしまうためだ。そうなってしまえば、自動的にクエストは失敗に終わってしまう(クエストの受注者が、少年になっているためだ)。



 ◇◇◇



「おーっと、【剣聖女】が移動を開始したようだね? やっぱり、あちらの洞窟にゴブリンは集中しているようだけれど」

「やっぱりな。……わざわざこちら側の出口を塞いだ甲斐があったというもの」


 ゴードンとメディナの二人は、何をしたのか。

 答えは単純明快。ゴブリンのアジトの『こちら側』の出口を塞いだのだ。それも物理的に。盾師は、力がある。だから大きな岩を転がして出口を塞いでやることぐらいは簡単に出来てしまうのだ。

 とどのつまり。

 今、ゴブリンたちが攻撃を仕掛けたくても、仕掛ける場所は一カ所しか有り得ないということだ。


「……それにしても、そこまで『下調べ』していたなら、私たちがクエストをクリアした方が充分だったんではなくて?」

「バカ。そしたら『あの少年』と【剣聖女】の戦いを見ることが出来ないだろ? それに、ゴブリン退治で得られる報酬と経験値なんてたかがしれてる。だったら利用させて貰うのさ、ゴブリンたちをね」

「……あんた、軍師の方が向いてるんじゃない?」

「余裕があったら、そっちの転職も考えてみてもいいかもな。だが、レベルを上げないと、ランカーには追いつけないさ」

「ランカーには追いつきたくても追いつけることが出来ないでしょう? だって彼らは睡眠時間を削ってまでやっているんだ。まさに『仕事人』だよ。はっきり言って彼らに追いつきたいんだったら、今の仕事を辞めるレベルじゃないとね」

「お前、仕事辞めないとね、って言うけれど、仕事してないだろ?」

「プライベートのことはタブーよ、タブー」


 ああ、そうだったな。

 そうゴードンは言って、持っている遠眼鏡を海の洞窟の方に向ける。


「さあ、少年よ。この危機にどう立ち向かう? 【剣聖女】の動きにも注目しておきたいことだな」

「だからあんたは盾師だから幾ら頑張っても【剣聖女】にはなれないでしょって。それに、そのジョブ自体女性しかなれないものだし。男性の場合は、【剣聖人】だったかな? はっきり言ってしまって申し訳ないけれど、語呂が悪いよね」

「五月蠅い。良いから、戦いを見るんだよ。そうしないと、あの少年のスキルを見ることが出来やしない」

「……あれ? さっき、スキルを盗み見たんじゃなかった?」

「盗み見たよ。……だが、スキル自体は『見えなかった』」

「……見えなかった?」


 ああ、とゴードンは頷く。


「スキルが見ることが出来なかった。こんなの、今まで初めてだ。俺の『神の目』を遮ることが出来るなんて……。これも運営が仕組んでいないバグの一つだというのだろうか?」

「……あんたが、そう慌てるのも珍しいっちゃ珍しいね。ずっと組んでいたのに、初めてじゃない?」

「そうかもしれないな」


 ゴードンは、海の洞窟に視線を集中させる。

 海の洞窟の近辺では、少年が戦っている。

 少年のスキルを垣間見るためにも、今は戦いを観戦しなければならない。ゴードンはそう思いながら、そちらに意識を集中させた。

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