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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第五章 その『色』めき立つ世界を
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第五章2『マルスとその幼馴染』

 さて。

 話をここで綺麗にまとめたところで、さらなる問題が我々に襲いかかってくるのだ。


「……でも、やっぱり場所が分からないのは問題じゃないですか?」


 失礼、訂正しよう。

 私達は、今のメンバーで動くことには問題無い。

 しかし、それ以上に問題がつきまとっていることもまた事実だった。

 それは、その『戦闘』の場として設けられることとなった、『十四階会議室』について。

 やっぱりそこが何であるか分からない以上、戦闘をすることは出来ない、と言ってきた訳だ。

 ……私としては面倒臭いことなので、さっさとスルーして欲しい事柄な訳だけれど。


「……で? それの何処が問題だと言いたい訳?」

「問題も、問題。大問題じゃないですか。その場所がどういう場所であるか分からない以上、戦闘をしようが無いですよ。いきなりこのフィールドが出されて、はいそうですね、と従える程、我々は場を踏んできていません」

「場数のことを言いたいのかね?」

「ええ、まあ、そうとも言いますよね」


 そうとしか言わんわ!

 その剣士の言い放った問題については、確かに放っておくことは出来ない。

 しかし、今の現状でそれを解決する術など出てきていないのだ。これじゃあ、解決のしようがないと結論付いたばかりなのだ。

 だのに。

 にもかかわらず。

 この剣士はそれを持ってきて、いったい何がしたいのだろうか?

 場を引っかき回すことをしたいだけか? だとしたらさっさとそいつには『消えて』貰うしか道は無い。

 平穏な場を乱してくれるのだ。それぐらいしなければ後々に響いてくる。そしてそれは、今回も前回も分かりきっている話なのだ。

 だとすれば。

 簡単な話だ。

 私はさっさとその剣士を話の場から引きずり落とそうと、その剣士に語りかけようとした――そのときであった。


「もう、マルスったら、あんまり話していると、周りの人に迷惑をかけるだけじゃない!」


 突然、人混みをかき分けて、その仲から一人の少女が出てきたのだ。

 その少女は、私に向かって頭を下げると、


「アリス様、でしたっけ?」

「あ、ああ。そうだが」

「本当にすいません。何というか、彼、生きづらい性格しているでしょう?」

「そ、そうなのかもしれないな。で? 君は彼の何だと言うんだ」

「幼馴染です。それ以上でもそれ以下でもありません」


 幼馴染って実在するのか……この年齢まで本当に一緒に居る幼馴染が……。

 私には居なかったな……。

 いや! 今はそんな悲しい話をしている場合では無かったな! 今は、その少年についての対応を何とかどうにかしなければならないところだった訳だが。


「私の顔に免じて許してやっては頂けないでしょうか?」

「……何だと?」


 冷静に。

 至って冷静に、私はその少女の顔を見た。

 少女の顔に免じて許してやって欲しい? いったいあんたの顔面偏差値がどれくらいなのか、と言いたい訳だ。まあ、そんなことを言ったところで、顔面偏差値自体のデータそのものが『アビスクエスト』そのものにデータ化されている訳で、それを実際の顔に当てはめる必要がある訳で。そもそもプライバシーを明かしたくないんだから、実際の顔で登録している人なんて居る訳が無いよね。だって、メリットが無いし。


「ああ、私の顔に免じて、というのは言い過ぎでしたよね。……すいません。けれど、これだけは言っておきたいんです。彼は、決して悪い人間じゃないんです。それだけは、どうか分かって欲しい」

「それを言われたからって私が納得するとでも……?」


 それは引っかけ問題のような言い回しだった。

 いや、正確には。

 それを言うよりかは、もっと何か良い選択があったような気がした。無いような気もするけれど。


「……それを言ったからといって、納得して貰えるとは思っていない。思っていないのだが、」

「だが?」

「でも、やっぱりこれだけは言える。……彼の狼藉を許して貰えないだろうか?」

「……別に私は怒って等いない訳だけれど?」


 怒っていない、というのはあくまでも喧嘩などしたくない、という意味に捉えて貰えれば構わないだろう。

 結局は常套句。

 それを言うか言わないかで場の空気がぴりぴりとしてしまうかが決まってしまうのだ。

 そして私は、出来る事ならそれをしたくない。むやみやたらと、場の空気をぴりぴりさせたくないのだ。

 いや、そもそもの問題。

 私は、戦いが嫌いなのかもしれない。

 そして、出来る事なら戦いたくないのかもしれない。

 今の地位に登り詰めるまでは、必ずしも戦わなくてはいけない場面が出てきて、そして、戦わざるを得ない場面においては戦ってきた。自らの腕を研鑽することもしばしばあった。それは任務を達成させる為には仕方の無い事だし、それを実現させる為には、どれだけの努力を費やしてきただろう、と思う。

 だからこそ、だ。

 私はその戦いに終止符を打ちたかった。

 出来る事なら、戦いを続けたくは無かった。

 出来る事なら、戦わずになんとかなる道を歩みたかった。

 出来る事なら、私がこのゲーム世界以外の生きがいを見つけるべきだと思っていた。

 しかし。

 それは叶う事は無かった。

 現に、私はこの『アビスクエスト』を遊び尽くしている訳だが、その『アビスクエスト』でずっと戦い続けることを私は願い続けていたのかもしれない(『アビスクエスト』でやらなくてはいけない『任務』というのは、どれもが戦わなくてはならないものばかりだから、だ)。

 では。

 私が戦わないという事は、このゲームから逃れる、という事でもあった。

 しかし、それは出来る事ならやりたくない。

 でも、戦いたくも無い。

 それは中途半端な現金を手に入れてしまった、私だからこその悩みなのかもしれない。

 贅沢な悩み、と言われるかもしれない。

 貧弱な悩み、と言われるかもしれない。

 だからこそ。

 私は戦い続けるのだ。

 私は願い続けるのだ。

 私は祈り続けるのだ。

 戦わなくて良い世界を。

 あの現実世界よりも良い世界を。

 勿論、運営には感謝している。この素晴らしい世界を、この色めき立つ世界を与えてくれたのだから。

 だが、今は違う。

 だが、今は違う。

 そして、今は違う。

 感謝することはしても、何かの命令にホイホイ従う程、私は甘い人間じゃない。

 


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