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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第四章 その『白』き女王は最強なり
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第四章9『宣戦布告。』

「次のリーダー、ですって? そんなの、私は興味無いわ。あなたがやればいいじゃない」

『私が独断で実行すると、少々困ることが起きるのだ。「アビス・シックス」の鎧武者のようにな』

「……ああ、あの鎧武者ね。何考えているか分からないから嫌いなのよねー。『創造主』様が決めたことだから仕方無くしたがっているけれど。あれって何? 何かのファッション? あちらの世界では流行っていることなの?」

『それがどうかは分からないがね。いずれにせよ、会議を開かなくてはならないのだよ。ああ、面倒だ。本当に面倒だ。出来ることなら誰かに代わって貰いたいくらいだよ』

「……あんた、たまーに、年長者かこいつ? みたいな発言繰り返すよね?」

『年長者だとしても話して良いことと悪いことがあるかもしれないが、それを人間の常識で当てはめて貰っては困るのだよ。それ以上でもそれ以下でも無い。何か別のたとえがあるなら話は別だがね』

「まあ、別にどーでも良い話ですけれど。私はリーダーになるような素質なんてまったくねーですよ?」

『……素質がある無しに関係ないのだ。問題は、誰がやれば一番リーダーとして務まるかどうか、というポイントだけだよ』

「そんなことを言われても……」


 困る、というのが正直なところだった。

 それをどうこうしようと言うべきでは無く、それをどうするべきかという懸案でも無く。

 ただ、今まで通りに過ごせれば良かったのに。


「……ただ、私は今まで通りに過ごせればそれで良いんですよ。『白き女王』は死んじまいましたけれど、私の空間は引き続き維持されるようだし、『管理者』から何か伝達がある訳でもありませんしね?」

『そう。問題はそこじゃ。「管理者」から何の伝達も無い。それは問題と言えることではないかね』


 管理者。

 とどのつまりが、創造主と同じ立ち位置に居る存在のことである。

 もしゲームに何か不具合が発生した時、人間(プレイヤー)だけではなく、【アビスロード】である彼らにも情報が伝達される仕組みになっているのだ。

 しかし、今回。

 その【アビスロード】の一柱である、『白き女王』が斃されたにもかかわらず。

 アナウンスがまったく無いのだ。

 そもそも、『白き女王』が斃されたのは、人間によるものではなくて、創造主による攻撃が原因であることに、彼らは気づいていない。

 しかしながら、【アビスロード】に伝わる電流というか電子というか、何かよく分からない仕組みが、彼らの中で『白き女王』が損失したということを分からせてくれるのだ。


『【アビスロード】は今欠員が出ている状態であることは間違い無い。そして、管理者が新しく増員してくれるのかどうかもはっきりしていない現状、我々だけで回していかねばならないこともまた事実。そうだとは思わないかね?』

「そりゃ、そうかもしれないけれど……。でも、【アビスロード】が増員される可能性もあるということでしょう? だったらそちらに期待した方がいいんじゃ……」

『「管理者」の計画が何処まで進行したのかは分からないが、我々は所詮捨て駒だ。その捨て駒を増員し続けるメリットよりも、計画を進める方が良いメリットが得られると分かってしまったら? 寧ろそれでお終いだ。我々は解体を迫られ、プログラムごとアンインストールされるだろうね』

「いやだなあ、それだったら。私、この空間案外嫌いじゃないし」


 ラルドが空のグラスにワインを注いでいく。

 それを見て頷くと、グラスを傾けていく。


『……それにしても、「鬼姫」よ。人が話しているというのにワインを飲むというのは、どうかと思いますがね』

「いいじゃない、ゼウス。私と貴方の関係性でしょう?」

『それはそうかもしれないが……』

「なら、良いじゃない。貴方だって飲んでもいいんですよ? 十分な思考力が維持出来るなら話は別ですが」

『いや、遠慮しておこう。私はこういうときに酒を呷るのはあまり好きではないのでね。幾らデータとはいえ、遠慮がちになってしまうところがある。……私も年を取ったものだ』

「貴方が? 年を取った? あはは、あはははははは! 笑わせてくれる。確かに貴方は最年長と言われているかもしれないが、それはあくまでも『設定』に過ぎないでは無いですか。私達【アビスロード】はプログラムの内で必要だと判断されたから同時に開発された。その中でキャラクター付けされていった経緯もあるけれど、それは今話すと長くなりますわね」

『とにかく、一言だけ言っておこう』

「何ですの?」

『私達のリーダーを決めたところで「管理者」には何ら関係の無いことだということだ』



  ◇◇◇



 帰ってきた。

 帰ってきた。

 『アビス・ファースト』のオンラインカウンターへ帰ってくることが出来た!


「いや、まあ、問題は山積みだけれどよ」


 言ったのはゴードンだった。


「……カセドラルに向かえば良いのだろう? と言えれば済む話なのだがな。そんな簡単に済む話でもあるまい。だが、問題もある」

「例えば?」

「あれが『創造主』が先行して立てた計画なら、他のPC(プレイヤーキャラ)は意味を理解していない可能性が高い、ということだ」

『他アビス島に居る人間と、全ての存在に告げる』


 中空から声が聞こえた。

 その声は、先程聞いたばかりの声――『創造主』によるものだった。


『私はこの世界を創造し、管理している存在だ。神と思って貰って構わない』


 一息。


『私はこの世界と人間に宣戦布告をする。時間が過ぎれば君たちは私の計画に参画して貰うことになる。ただ、しかしながら、もし君たちが勝利した場合は、それを止めよう。君たちの自由意志に協力し、この『アビスクエスト』を解放する』


 とどのつまり。

 答えが見えてこない。

 創造主とやらはいったい何がしたくてこの放送を流しているんだ?


『私が進めるべき計画は人間の肉体からの解放、その計画だ。そして対決はカセドラル第十四階会議室にて執り行うことにする。参加するのも参加しないのも自由だ。君たちの意思に任せる。但し、今から二十四時間後、もし私が斃されるか、私が計画の凍結を発表しない限り、計画は速やかに実行される。それだけは忘れないでおきたまえ、それでは諸君。健闘を祈るよ』


 残り、二十四時間。

 泣いても笑っても時間はそれだけしか残されていない。

 私達は、『アビスクエスト』を守るため、そして生きていくために、『創造主』と戦うという決断に迫られるのだった。


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