第四章6『対決、白き女王(5)』
「あんたは、ただ人間と戯れたいと思っているの? それとも、【アビスロード】同士で戯れたいと思っているの? そのどちらでも構わないけれど、あんたの考えによっては、人間がどう触れ合うべきか考えなくてはならないと思うのだけれど」
「……黙れ、と言っている!」
さらに。
さらに。
さらに。
攻撃を続ける『白き女王』。けれどその勢いはすっかり衰えている。今は、私達に勝機がある!
「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!! 黙れ黙れ黙れ!!」
ズガン、ズガン、ズガン、ズガン、ズガン!!
今度は五発。無差別に繰り返される魔法の連続攻撃。しかしながら、それを遮る術を既に私達は手に入れている。
私は剣の攻撃によって放たれたオーラを使い。
レオンは『シールド』魔法を使い自らを守り。
ゴードンとメディナはレオンの張ったシールドに隠れて攻撃を凌ぎ。
お互いがお互いに、『白き女王』の攻撃に備えた対策を取っている!!
今までも、『白き女王』対策に取られていた手法の一つだが、ここまでうまく行ったのは今回が初めてだ。それまでは、その対策を講じるまでに『白き女王』の魔法に有無を言わさず、攻撃を送り込まれたためである。
しかし、今回は違う。
けれど、今回は違う。
だって、今回は違う。
今は、『白き女王』の攻撃を完全に遮ることの出来る態勢が整っている!!
「さあ、『白き女王』!! 幾らあんたが【アビスロード】だからといっても、その力は無限大では無いはず。いつかは終わりがやってくるエネルギーのはずよ! 私達との根比べ、果たしてどちらが勝利するでしょうね?」
「貴様……貴様らああああああああああああああ!!!!」
その攻撃に、狂気が増したような感覚があった。
ガキン、ガキン、ガキン!! と剣で跳ね返すことは出来ても、その一撃一撃が、重くのしかかってくる。決してダメージを受けていない訳では無い。ダメージを受けていても、受けていなかったとしても、それがどうであろうとも、剣で跳ね返すことにも限界はある、ということだ。
だが、それを悟られてはならない。その感覚を悟られてしまってはいけない!
ぐいっ、と回復ポーションを一気飲みして、私はさらに攻撃の機会を窺う。
回復ポーションのストックはあと五つ。それが無くなってしまえば、私の回復する手段が無くなってしまう。そうなったら、レオンの元に向かい回復魔法を使って貰うしかない。
だが、魔法は一度に一回しか使うことが出来ない。とどのつまり、攻撃のタイミングを見計らって回復魔法を使って貰う必要がある訳だ。或いは誰か別の存在が盾となるか。というか、誰か『盾師』のジョブを持っている人間が居なかったっけ?
……とまあ、そんなことはさておき。今は『白き女王』にどうやって一発攻撃を当てるかを考えなくてはならないだろう。『白き女王』はすっかり精神的に不安定な位置になっている。それはつまり好機と言っても良いだろう。いつ狙うかどうかは、私達に賭けられている訳でもあるのだが。
「……しかし、どうやって、攻撃すれば」
そう。
問題はそこにある。
(どうやって、どのように、どうして行動すれば良いのかが見えてこない!! このままじゃ、幾ら相手のエネルギーが無尽蔵じゃないと言っても、無理なものは無理な訳であって……!)
ならば。
どうやって。
どのようにして。
問題を解決していけば良いのかが見えてこない。
議題を解決していけば良いのかが見えてこない。
問題を解消していけばいいのかが見えてこない。
「さあ、どうした! どうした! さっきまでの勢いは何処に行ったというのかしら!! 貴方達人間に、攻撃を遮る術はあったとしても、私達【アビスロード】を倒す術が見つかる訳がないということよ!!」
ズガン、ズガン、ズガン!! と。
三回の爆発があった。
「どうした、どうした! あれ程気合いを入れていたのに、その程度の実力だった、って訳か!? 私を焚きつけておいて、その程度の実力ならば、私を焚きつけた意味も無いと言っても過言では無いぞ!!」
「言うだけ言いやがって。……分かっているよ、あんたが『寂しがっている』ことぐらい」
「あぁ!? まだ口にするつもりか、その発言を!!」
「何度だって言ってやるさ。それが事実なんだから」
「何ぃ!?」
すっかり、怒り心頭になっている『白き女王』。
ならばそれを狙うしか好機は訪れない。
「巫山戯るな!! 巫山戯るな!! 巫山戯るな!! 我々【アビスロード】がどれだけ時間をかけてお前達人間をここまで成長してやったと思っている!? それはそう、全て『開発者』のプランがあってこその物語!! その物語に何ら違和感を抱かないだろう!? その物語に、何ら違和感を抱くことは無いだろう!? それは当然だ、我々がそうしないように仕組んでいたからだ!! 人間を救うために!! そう『開発者』が命じたから!!」
「でも、開発者である人間と、プログラムである【アビスロード】との間には、何ら関係性など感じる必要性も無いはずだ。そうだろう? 違和感を抱くことは確かに無かった。それについては、賞賛するべきポイントかもしれない。だが、だがね、問題は山ほどある。どうやってその人間を、どうやってプログラムである【アビスロード】が管理出来ると確証出来る? それは結局の所、ただの勘違いじゃないのか?」
「勘違い、ですって……!?」
一瞬。
ほんの一瞬、『白き女王』の攻撃が弱まった。
それが好機だった。
「なあ、『白き女王』。もう戦いは終わっているんだよ。終わりにしないか、この戦いを。この戦いをこれ以上続ける必要性は無いはずだ。そう、きっと、『開発者』だってそう願っているに違いない」
「お前が『開発者』の意思を語るな……!」
『そうだ。それでお終いにしたまえ、「白き女王」』
唐突に。
言葉が発せられた。
それは『白き女王』からでも、私達からでも無い。
中空から発せられたその発言に、私達は耳を傾けるしか術が無かった。




