第四章5『対決、白き女王(4)』
「うふふ、うふふふふふふ!! 何を聞こうとも、何を話そうとも、結局は何も変わらない。私は【アビスロード】として存在しているプログラムに過ぎないのだから!!」
「だったら!! さっさと人間を解放しろ!!」
ガキン!! ガキン!! と。
剣と魔法のぶつかり合いが起こる。
果たして、剣と魔法のぶつかり合いだけでそれほどの物理音が出てくるものなのか、という話なのだけれど、『白き女王』の魔法はどうやら空気中の水分を凍らせることによって、それを自らを守る盾としている。だからこそ、氷を打ち砕く音が響き渡り、それが剣と魔法のぶつかり合いだと表現せざるを得ないのだ。
結局の所。
魔法が使えない【剣聖女】ジョブの持ち主としては、これ以上魔法戦に持ち込みたくない、というのが本心だ。
物理で押し切る。それが一番の手段であり、【剣士】ジョブ最上級である【剣聖女】であるということ。それが一番のポイントであるということだ。
そして。
そして。
そして、だ。
それよりもやらなくてはならないことが。
存在しているのだ。
確立しているのだ。
「……うふふ、うふふふふふふふふふふふ!! 『白き女王』最大出力。何が何でも貴方達を倒す必要がある訳ですからね!! 何せ私にとって、『人間の魂を保管する』ということは、問題ではなく、疑問でもなく、解消されるべき議題であるからして!!」
『白き女王』の脳のクロックがヒートアップしているのか、発言が徐々におかしくなってくる。
それは、ヤルダバオトにも言えることだったし、もしかしたらプログラム(とどのつまりが、人工知能とも言えるかもしれないが)にとっての限界なのかもしれない。
と、同時に。
我々人間にとっても、処理速度の限界が訪れることは間違い無いだろう。
だからこそ。それを処理出来る限界までやる必要があるし、やらなくてはならないことだろう。
攻撃以外の全てを排除しろ。
言語も、思考も、何もかも全て。
そうして漸く『白き女王』と同じステップに立つことが出来る。
立つことが出来て、それから何が出来る?
答えは間違っていない。答えは、たった一つ。シンプルに決められている事柄だ。
「……さあ、『白き女王』、始めようじゃないか。我々の戦いを」
そうして。
私は言い放つ。
白き女王に。
「……これから始まる全ては、お前の記憶に刻まれることになるだろうよ、『白き女王』よ!!」
◇◇◇
ズガン!! ズドン!! と。
二度、大きな爆撃があった。
私はそれを華麗に避けつつ、バリアに決定的な一打を繰り出す。
それでも。
それでも、だ。
あいつは――『白き女王』は、なおも余裕のある表情を貫いていたのだ。
「『白き女王』を倒すと言っておいて、この記憶に刻まれると言っておいて、その程度とはほとほと呆れてしまいますね。今、この場に立ち尽くしている人達も、きっと絶望していることでしょうよ。……ま、貴方達人間にはどうでも良いことなのかもしれませんけれど」
「何が、どうでも良いだって?」
「あら。ただ言葉を放っただけなのに。どうして貴方達人間って怒りの沸点が低いのでしょうね? 私には全く分からないものですけれど」
「お前が、全ての元凶だろうが! お前さえ居なければ、死ぬ人間だって居なかった!!」
「けれども、それはただの偶然に過ぎないのですよ? この『アビスクエスト』において【アビスロード】の存在は必要不可欠。【アビスロード】の存在が無ければ、この『アビスクエスト』も存在しなかったと言っても過言ではありません。にも関わらず、です。貴方達人間は、それを守ろうとしない。我々【アビスロード】に頭を下げようともしない!! それの何処がおかしい話だというのですか!! それの何処が、それの何処が……!!」
「結局、」
私は告げる。
冷静さが欠けつつある『白き女王』に告げる。
「あんたはただ、『寂しかった』だけじゃないの?」
「…………何ですって?」
「結局は、結果的に、結論から言えば……いろいろな解釈の仕方があるけれど、結論はたった一つだけ。あなたは人間に対して『物珍しい』存在だと思っていた。あんたはただ、複数人で戦うことを主とする人間に対して『憎悪』を抱いていた。ただそれだけのことじゃなくて?」
「何を、言っている。何を、言っているの!! 私が、この【アビスロード】の私が!? 人間に対して、『物珍しさ』を抱いていた、ですって!? そんなこと、そんなこと有る訳がないでしょう!! だって人間はただの人間。私達【アビスロード】にとってみれば、取るに足らない存在なのですから!!」
「背伸びは、止めた方が良いよ。プログラムのくせに」
「何ですって?」
「何度でも、何度だって言ってあげる。貴方は人間に対して、『憎悪』を抱いていた。けれど、それは同時に『うらやましさ』も兼ね備えていた」
「黙れ」
「いいや、黙らない!!」
ガキン、ガキン!!
魔法の攻撃を、剣で何度も跳ね返す。
正確には瞬時に剣を振り翳すことで生まれる盾による反射なのだが。
「何度でも、何度だって言ってあげる!! 貴方は寂しかった。貴方は仲間が欲しかった。共に戦える『仲間』が欲しかった!!」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
ガキン、ガキン、ガキン!! と。
三度、『白き女王』からの魔法攻撃。
しかし、その攻撃には最早意味など持ち合わせていなかった。
その攻撃には、何の意味も持ち合わせて等いなかったのだ。




