第四章4『対決、白き女王(3)』
さて。
第二ラウンドと言ったからには、お互いに作戦が立てられているものだと思うかもしれない。
しかしながら、実際にはお互いに作戦を思いついちゃいなかった。お互いにあの一撃で戦いが終わってしまうものだと思っていたからだ。
ならば、どうすれば良いか?
余裕の表情を浮かべている『白き女王』ですらも、今や困惑の表情を浮かべそうになっていた。
しかし、『白き女王』はそれで諦めるような存在じゃなかった。
『白き女王』はそれで諦めるような存在ではなかった!
「うふふ、うふふふふふふふふふ!! さあ、どうしましたか、人間? 私の攻撃を受けて、攻撃をする暇もなくなりましたか? だとしたら結構。さっさと諦めて尻尾を巻いて帰るというのなら、私は止めませんよ? 私は弱者には優しいことで、他の【アビスロード】にも有名なことなのですから」
ほかにも【アビスロード】が居るのか――ということを思いながら、私はゆっくりと立ち上がった。
それは、『白き女王』の言葉に明確な否定の意思を示す為だ。
それは、『白き女王』と対決するという明確な意思を示す為だ。
「うふふ、うふふふふふふふふふふふ!! そうでなくては、そうでなくてはなりませんわ!! 人間とてどのように生きていくかは分かりませんが、そのまま死んでしまうのも、かといってとっても面倒。一年前でしたっけ? 半年前でしたっけ? いずれにせよ、過去に起きた事例をそのまま繰り返すようならつまらないですからね!!」
「貴様……! それを分かっていて、言っているならば、貴様は最低最悪の存在だと言えるだろう!!」
剣を構えて、私は『白き女王』と対面した。
『白き女王』の話は続く。
「うふふふふふふふふふふふ、勿論、勿論分かっていますことよ。貴方が、貴方達が何のためにここにやってきているのか。簡単ですわね。お金のためにやってきているということ、それぐらい誰にだって分かります。私が【アビスロード】で無かったとしても……」
「ならばさっさとやられてくれないかしらね? あなたに捕らえられている人間がどれ程居るか知らない訳でもないでしょう?」
「ええ。二十人ぐらいでしょうか。けれど、簡単に目覚めさせる訳には参りませんわね。だって、」
一息。
「……つまらないでしょう?」
「避けろ。アリス!! 攻撃が来るぞ!!」
ゴードンの言葉を聞く刹那、私達に衝撃波が襲いかかってきた。
「くうっ!!」
バリバリバリバリバリバリ!! と風と見まがう音が放たれたその衝撃波は、私達の身体からヒットポイントを、僅かながら、しかし着実に失わせていく。
しかし。
しかし。
しかし、だ。
そんな簡単に諦めてならないこともまた事実だ。
諦めてたまるものか。諦めてなるものか。諦めたから、諦めてしまったからということで、『少年』の命が失われてしまうだけだ。
だけ?
それだけ? な訳がないだろうが!!
なんとか倒れそうになるタイミングだったが、剣を思い切り大地に打ち立てて、すんでの所で押さえ込む。
それを見ていたゴードン、レオン、メディナは驚いていた――と後に語っている。
【アビスロード】の攻撃を、面と向かって受け続けるだけでも難しいのに。
【アビスロード】の攻撃から避けていくというのが王道の攻略法ということが言われているぐらいなのに。
だのに。
だのに。
だのに。
だのに、だ。
「【アビスロード】の攻撃を幾ら受けようとも構わない! けれど、少年の命だけは絶対に助けなくてはならない……!」
「うふふ、うふふふふふふふふふふふ!! 何を、思い違いをしているのかさっぱり分かりませんけれど、どうして貴方がそこまで『あの少年』に心を惹かれているのでしょうか!? リアルと何か関係があるからではありませんこと!!」
「……そうかもしれない。そうかもしれないがな……」
「?」
「たかだか、0と1で出来た存在である【アビスロード】に、文句を言われる筋合いなんてないんだよ!!」
ざざざざざざざざざざざざざ、と。
一歩、また一歩ゆっくりと歩み続ける。
「どうして。どうして歩き続けるのですか! 私の力は絶対のはず。絶対に、完全に、完璧に! その力に屈することしか出来ないはずなのに!!」
「そうでしょうね。そう思うでしょうね。……けれど、それは間違いにしか過ぎないのよ、『白き女王』!!」
「何が?」
「貴方がどう考えていようと、私の少年に対する思いは変わらない。ええ、変わらないのよ!」
「………………それ、自分が何を言っているのか分かっているのでございませうか?」
「……え? ええっ?」
あきれかえっている白き女王の言葉を聞いて、私は我に返る。
ようく、ようく考えてみれば。
私はとんでもないことを口にしてしまったのでは!?




