第四章3『対決、白き女王(2)』
「【アビスロード】【アビスロード】と五月蠅いな……! 【アビスロード】がそれだけ強い存在だと思ってるのか!!」
「……では、貴様達は【アビスロード】を強い存在ではないと認識しているとでも? それとも、常日頃にして出現する【アビスロード】の片割れを【アビスロード】」そのものと思っているならば、笑止! 【アビスロード】にも階級があるでな。私たちのような存在とは違う、【アビスロード】である!!’
「【アビスロード】【アビスロード】うっせえんだよさっきから!!」
びくり、と。
白き女王の肩が少しだけ震えたような気がした。
「てめえが何をしてえのか知らねえけれどよ! お前のせいでたくさんの人間がトラブってる! 分かってんのか? お前の『好き勝手なやり方』のせいでたくさんの人間が犠牲になってることぐらい、理解しやがれよ!!」
「ふふ、ふふふふふふふふふ!! 何を言い出すかと思いきやそんなことですか!! 元々あなたは分かっていたはずでしょう、【アビスロード】がどのような存在で、【アビスロード】の立ち位置がどのようなものであるかということに!! 【アビスロード】は神であり、それ以上でもそれ以下でもない存在。そうして私たちはこの『アビスクエスト』に存在し続けている。プログラムの一つとは、最早言いがたい存在なのですよ!!」
「プログラムだろうが何だろうがどうだっていい……。とにかく私たちは、あんたに捕らえられた十九人の人間を助けるため!! 【アビスロード】の討伐は後回しよ!!」
「ふふ、ふふふふふふふふふ!! そうですか、そうでしょうか!! 貴方達がしたいことと私達がしなくてはならないことは相容れないようですね。いいや、そうでしょう。そうでなくてはならないのです!!」
白き女王は一歩前に出る。
ただ、それだけだったのに。
ズドッ!! という衝撃波が私達に襲いかかってきた。
「……何、何だというの……」
立ちくらみを起こしながら、私はうつらうつらとした様子で、白き女王に問いかける。
「これが私の戦い方、これが私の戦法、これが私の戦術!! 私には指一本触れさえない。私の戦い方なのよ!!」
「……戦い方、戦い方、と五月蠅いわね……。あんたは一つの物事を連続して言うことしか出来ないのかしら……!」
しかし、それは強がりにしか過ぎない。そしてそれは『白き女王』にも分かっていたことだった。
「……あなたが何を言おうとも、それが『強がり』だってことは理解できているのよ? かつて、【ゲームオーバー】に陥らせられなかったのは、確かあなただけだったと記憶しているはずだけれど!!」
「……覚えているなら、倒しがいがあるというもの!! 今度こそ、あなたを倒す! 私の師匠もきっとそう思っているはず!!」
「意地だけは認めましょう。だけれど、どうするつもり? 私のこの攻撃に、あなたたちは立ち向かうことは出来ない。ならば、あなたたちはどうやって私の攻撃を掻い潜るつもりかしら?」
「お前は少し油断しているようだな」
しかし。
一人の青年が立ち上がっていることに、私は気がついた。
「……そのスキル、まさか『盾師』か!」
「俺にはゴードンという立派な名前があるんだ……よっ!」
そうして、ゴードンは。
私達の前に巨大な壁を作り出した。
盾ではない、それは立派な壁だった。
「今だ! 懐に潜り込むチャンスだ!!」
「あんた……」
「だから言っただろ、俺にはゴードンという立派な名前があるんだって! ……ま、このゲーム上じゃただのユーザー名に過ぎないけれどな!」
「有り得ない、有り得ない有り得ない有り得ない! 私の魔法が通用しない盾が存在、いや、生成出来るなんて! そんなこと出来る筈が、」
「出来てるのよ、現に」
「な……」
私は。
懐に潜り込んでいき、そのまま剣を『白き女王』の身体を突き刺した。
「が…………はっ…………」
ぼとっ、という音とともに白き女王が血の塊を吐き出した。
「…………なーんちゃって」
「下がれ、アリス!!」
言われなくとも!! 私は嫌な予感がしてそのまま後ずさった。
確かに突き刺したはずだった。感触もあった。
だが、だが、だが。
それでも『白き女王』は倒れなかった!
それでも『白き女王』はその場に立ち尽くした!
「……ふふふふふふふふふ! どうやら私を本気にさせてしまったようですね……! どうなっても知りませんよ、貴方達がどういう道のりを歩んできたかは知りませんけれど、それでも! 私は! 勝つ! なぜなら私は【アビスロード】だから! 人間には圧倒的力で挑み、圧倒的力でねじ伏せる! それが私達の『生き方』ってものよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「不味い! あいつ、力をさらに上げてきている! どういうことだよ!? 確かに急所は突いたんだよな!!」
「ええ、間違い無く!! だから、あいつの力が強まることはない、ない、筈なのに」
だのに。
あいつは力をつけてきている。
さらに力を強めてきている!
そんなこと有り得ない。そんなこと信じられない、筈なのに。だのに、それでも目の前の事実を見ろ、と言わんばかりに風が強く吹き荒れる。
「ふふふふふふふふふ!! さあ、第二ラウンドと参りましょうか☆」
バーサス【アビスロード】、『白き女王』。
第二ラウンドの始まりだ。




