第一章3『ゴブリン退治も楽ではありません(2)』
「ストーカー行為をしたくてやっている訳じゃない、って言うけれど、どう考えても、そうしている風にしか見えない訳だが?」
「いやいや! そんなことしているつもりは一切無い訳だが!!」
「だーかーらー、何度言ったら分かるんだ。お前のやっている行為は紛れもなくストーカー行為だよ。それにお金も一切入ってこないからやるだけ『無駄』だ」
「そう言われると切なくなるな! だが、俺はそんなことを思った覚えは無いぞ!」
わいわいがやがや。
話をしているだけで何も進まない二人。
「……話をしている場合じゃないんだ。今はとにかくあちらの動向を確認しないと!!」
「平和だねえ。……あ、あとでジュースおごれよ」
「分かったよ。おごりゃーいいんだろ。おごりゃー」
◇◇◇
「作戦を発表するよ。とは言っても、単純でシンプルなものだけれどね」
牧場にある小さな小屋を借りて、作戦会議。
本来なら、NPCを交えてやるんだろうけれど、NPCは作戦会議をするぞと言っているのに、『牛の面倒を見なきゃなんねえ』と言って何処かに消えてしまった。ほんとうに、ゴブリンがやってくるのかね? ここに。
「それで、それで! どうやるんですか、アリスさん!」
「『メッセージアプリ』を使おうと考えてるんだよね」
メッセージアプリ。
『アビスクエスト』内でユーザーが情報共有するために運営側が用意したアプリケーションのことだ。ボイスチャットにも対応しており、メッセージアプリというよりかはボイスチャットの側面として使う方が多い。
「そのメッセージアプリを、どうするつもりですか?」
「海の洞窟と山、二人が一人ずつ張り込む。そんで出てきた方を叩く。これだけだ」
「……メッセージアプリは何処で使うんですか?」
「出てきた方が連絡をして、救援を申し込む。救援が来るまでの間は何とか耐え抜く。私ならなんとかなるけど、少年の場合は……」
「大丈夫ですよ! 防具屋で立派な鎧を買ってきましたから!」
「でもその鎧、【重量】オーバーで使えないんじゃなかったっけ?」
「うう……。でも、その後鎖帷子を購入したんですよ!」
「あら。そうだったかしら?」
少年の行動を逐一確認している訳ではないから、急にそんなことを言われても困る、というのが実情だったりする。
しかしまあ。
何というか、あんまり少年のことを考えていると、少年のことが好きなんじゃないか? なんてことを思われかねないけれど。
今のところは。ノーと言っておく。今のところは、というのは、考える余地があるのか、ということであって、それが正しいことかどうかはまた別の話。
「……あの、作戦会議、まだ終わっていないですけれど」
そうだった。
作戦会議をさっさとしないと、いつゴブリンが襲ってくるか分かったものではない。
そう思いながら、私は、作戦会議を再開させた。
「……少年の場合は、先程買ったという鎖帷子を……ちゃんと装備してるか?」
「勿論! きちんと装備していますよ!」
「ならばよし。問題はどちらがどちらを守るか、ということになるが……」
「僕、海の方を守りたいです」
「何故?」
「ゴブリンが襲いかかってくる可能性が高いのは、そちらですよね? だったら、そっちで守っていて経験値を少しでも手に入れて早くレベルアップしたいです! 何故だか知らないけれど、モンスターを倒しても、レベルアップしないというか何というか……」
そう。
それが、少年の謎でもあった。
少年は、レベルが上がらない。いつまで経っても、レベルが上がることがないのだ。
最初、それはスキルでは無いかと考えた。しかし、ユーザーにプラスに働くスキルは多数確認されているくせに、ユーザーにマイナスに働くスキルが確認されたことはない。それに、運営側も『今までユーザーにマイナスに働くスキルが確認されたことはない。よって、スキルはすべてユーザーにプラスに働くものである』という見解を示しており、つまり、それはスキルでは無く、何か別の問題では無いのか? と考えてしまうのだ。
「……少年、悲しむことはないよ。私がついているではないか。だから、レベルアップしなくても、それは少年の取り柄だ。レベルアップしたらしたで、それはそれで少年の取り柄だ。難しく考える必要はない。ただそのままに進めば良いだけの話だ」
「……そうですか?」
「そうだとも」
少年はこういうときが面倒臭い時があるな。
……げふんげふん、あまりこういうのは口にしない方が良い。いや、口にしてないけど。
「……さあ、前を見よ。そうして新たな道が開かれる」
ゴブリン退治の時間が漸くやってきた。
後は、やってきたゴブリンをただひたすらに倒すのみだ。