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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第三章 その『黒』の神は怒り狂う
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第三章12『決戦、ヤルダバオト(前編)』

 次の日。

 武器屋へ向かうと、人数分の『隠れ蓑の装備』が用意されてた。おかげさまで漸くヤルダバオトに挑むことが出来る。実際に倒せるかどうかは分からないけど、でも、倒さないと先に進めない。


「……なあ、あんたら。その装備、何に使うつもりなんだい?」


 帰り際、武器屋の男からそう訊ねられたので、私はこう答えた。


「……神を倒しに行くのよ」


 それは間違いじゃない。正しいことだ。でも出来ることなら隠しておいた方が良かったのかもしれない。NPCかPCかどうか分からない以上、あまり事実を漏洩しない方が良いのだろうから。

 でも、私ははっきりと言い放った。

 隠し事をしても無駄だと分かってるから。

 白き女王が私たちのために何か模索してるっていうなら、こっちだってやってやろうじゃないの。

 策はない、訳ではない。

 どのようにしていけばいいか、考えてない訳でもない。

 私にとって、皆にとって、最善の選択をすることが大事だということ。

 それが一番優しいことであるから、それが分かってるから。


「……どうかしましたか、アリスさん」


 私は考え込んでたのか、立ち止まってたらしく、それをレオンに(たしな)められた。

 私は一瞬考え込んでしまったが、直ぐに笑顔を取り戻す。


「ううん、何でもないわ」


 それを伝えることは、今はしない方が良いだろう。

 それを話すことは、今はやらない方が良いだろう。

 それくらい、私にも分かってることだから。

 それぐらい、私にだって理解できてることだから。



     ◇◇◇



 ロギ族の村に辿り着くまでに、私たちは『隠れ蓑の装備』に着替えた。草の匂いが少々鼻につくが、カモフラージュのためには致し方無いことだ。

 そうして私たちはロギ族の村に入る。……しかし、ただ入るだけでは見つかる可能性が高い。

 そこで、ロギ族の村が森林に囲まれてることを利用して、森林から経由して『祠』へ向かおうという話になった訳だ。実際問題、その方が私たちにとっても一番やりやすい方法だろうと思ったし、そういう推測に至るのは当然の事実でもあった。


「……今回ばかりは見つからないことを祈るしかないけど、ね」

「見つかりませんよ。……この『隠れ蓑の装備』はそういう物のためにある装備なんですから」


 そうだろうか。

 正直なところ、まだ使ったことがないから、この装備を信用してない節がある。

 ほんとうにこの装備だけでロギ族の人間から逃れることが出来るのだろうか?

 いや、逃れるというと何か私たちが悪いことをしたみたいに見えるけど!


「……どうした? まさか怯えているのか、お前のようなレベルカンスト勢が?」

「何を言いたいの? そんなこと有る訳ないじゃない」


 ゴードンの言葉に、私は速攻で返事をする。

 何というかこいつのキャラは憎めないが、時たまに面倒な物言いをしてくることがある。

 別に悪いとは思ってないのだけど、何というか、相手が嫌だと思えるようなことをしてくること自体が問題なのよね。普通なら、そりゃあ、女性の友人なんていないわよね、なんて言えるのだけど、こいつには何故だかメディナという人間(プレイヤー)がついて回ってる。果たして彼女とはどういう関係なのかしらね? リアルのことを詮索するのはタブーと言われてるけど。


「……まあ、あまりここで話をしたところで何かが進む訳でもあるまい。とにかく、今は前に突き進むだけだ」

「それ、何度言ったか忘れていないかしら?」


 メディナの言葉が、棘のように痛々しく突き刺さる。

 しかしながら、それは真実だ。紛れもない事実である。

 ならば今は前に突き進むしかない。そう、あるべきなのだ。


「何とか祠のところまでやってきたわね」


 意外にも。

 というか、それが想定されていた性能なのだろうけど。

 『隠れ蓑の装備』は私たちを祠のある場所まで連れて行ってくれた。祠の前には誰も居ない。行くならば今しかないだろう。

 そう思って私たちは祠の中へと潜入する。

 ヤルダバオトが居るであろう、祠の奥底へと。



  ◇◇◇



 祠の奥地では、一人の人間が眠りに就いてた。

 いや、正確には。人間というよりも獣と言った方が近しいかもしれない。その獣は腕が六本も生えており、時折髪や肌をぽりぽりと掻いていた。胡座をかいて眠っているその様は、さながら瞑想をしてるようにも見える。


「……これが、ヤルダバオト?」

「ええ。確かに、『彼』がヤルダバオトです。間違いありません」


 一度戦いを経験してるレオンが言うならば、間違い無いだろう。


「それなら、眠ってる今のうちに攻撃を仕掛けた方が……」


 良いじゃない、と言いかけた、そのときだった。


「何者だ。私に攻撃を仕掛けようとしている者は」


 声が、聞こえた。

 その声は、低く厳かで荘厳な雰囲気を放っていた。

 その声を聞いて、私はそれが何者の声なのかを特定する。


「ヤルダバオト……ね? 『邪神』と言われてるあなたを討伐しに来たわ」

「はっはっは。私を討伐しに来たか。驕るのも大概にしろよ、人間」


 ヤルダバオトはゆっくりと、目を開けた。

 


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