第三章11『任務:ギザギザの葉を見つけましょう(後編)』
「それは分かってるけど……」
「分かっている? ほんとうに、分かっているんですか?」
「うう……。そう言われると自信無くすけど。でも、【アビスロード】がどういう存在かってことぐらいは私も理解してるつもり」
「そりゃあ、レベルカンスト勢だからな。一度や二度は、【アビスロード】撃退イベントに出会したことはあるやもしれん」
何も、【アビスロード】は珍しい存在ではない。
確かに『白き女王』のように強い存在も居れば、何十人の人間によってあっさり撃退されてしまう【アビスロード】も居る。彼らの中に等級があるのかは定かではないが、あるとするならば『白き女王』は圧倒的高位に立つ存在なのだろう。
そして、【アビスロード】は弱い存在かと言われればそうではない。仮に百人の人間が挑戦したとして、実際に倒した時には九十五人に減ってることだって、よくある話なのだ。
とどのつまり、油断すればやられる、というだけのこと。
ただそれだけのことでしかないのだが、それだけでも【アビスロード】が脅威であるということには間違い無い。
「【アビスロード】が、どれだけ強い存在かは私だって知っています。ですが、実際に【アビスロード】と戦ったことはありません。私は未だ、地道に任務を重ねて何とかここまでやってきた存在にしか過ぎないんです。矮小な存在ですよ、私は」
「そんな……。自分を卑下することはないでしょう。あなただってレベルが100を超えてる。『アビスクエスト』の中では立派な上位ジョブを持ってるじゃない」
「……レベルカンスト勢のあなたには分からないと思いますよ、きっと。永遠に」
「……じゃあ、分かるようになるように、私が努力しないといけないね」
「何をいきなり、突然」
「だってそうでしょう? 私はレベルカンスト勢。あなたはレベル100『そこそこ』の人間に過ぎない。そして、私は貴方よりも数多くの修羅場を潜ってきたこともまた事実。そうある中で、貴方のこと、チームメイトである貴方のことを理解していかないと、先に進まない。そうは思わない?」
「先に、進まない、ですか……。何だか、上から見ている物言いにも聞こえますが」
「あっ!! ゴメン、もし何か悪い風に聞こえたんだったら謝る!!」
「……良いですよ、別に」
彼女は、鼻で笑って答える。
「……それに、今はそんなこと話している場合じゃありませんから。ギザギザの葉を集めること、それが一番大事なこと。そうでしょう?」
「そうだった! そうだね」
私は、笑みを浮かべて彼女の言葉に答える。
それは優しさを込めたつもりだったのだけど。
彼女は、それに気づいてくれたかな?
「……よし。それじゃ、捜索の再開といこうか」
そう始まりの合図をとったのは、ゴードンだった。
何というか、レベルが低いくせに、彼には助けられるところが多い。
この戦いが終わったら、ご飯を奢ってやっても……。
「今、何か壮大なフラグを立てようとしていないか?」
「え? 何のこと?」
「答えないならそれはそれで構わないが……。とにかく、『隠れ蓑の装備』を作って貰うためにも、ギザギザの葉を見つけなくてはならない。そのために俺たちは今ここにいるのだから。……ところでメディナの姿が見えないんだが、何処に行った?」
「ここにいるよ」
「うわっ!? 突然声を出すなよ驚くだろ!!」
「探しもしないで話ばかり進めてたあんたたちとは違って、私は一人でギザギザの葉を探してたの。ほら、これ」
見ると、メディナの手には何かが握られていた。
私の身体ぐらいの大きさの巨大な葉っぱ。その葉っぱには特徴的なギザギザ模様が描かれており――。
「って、それ、ギザギザの葉……!?」
「せーかーい! さっき、ギザギザの葉の群生地を見つけたの。これで人数分揃うと思うんだけど」
「でかしたな、メディナ! 大手柄だ!」
「えっへへー。後でジュース奢りな」
「おっしゃこないだの件と合計して二本だな分かった!!」
そんなやりとりを見つつ。
「とにかく! ギザギザの葉の群生地を見つけたというのはほんとうなの!?」
「……え、ええ。ほんとうよ。この場所ばかりを探してたから盲点だったわ。この場所から少し行ったところに、ギザギザの葉の群生地があったのよ」
「急いで人数分確保しましょう。案内してください、メディナさん」
「わ、分かったから、慌てさせないで……」
そういう訳で。
メディナを先頭にして、私たちはギザギザの葉の群生地へと足を運ぶのだった。
◇◇◇
夕方。武器屋に到着した私たちはギザギザの葉を納品した。
店員は私たちの様子を見て少々驚いてるように見えた。……まさか、彼はギザギザの葉がないことを知ってたのだろうか?
それはそれとして。私たちは大急ぎで『ヤルダバオト』を討伐したかったので特急料金でお願いすることにした。少々値は張るが、白き女王を討伐したらそれでも充分おつりが出る程のお金が手に入るので申し分ない。
「……それじゃあ、よろしくお願いいたしますね」
そう言って。
私たちは武器屋を後にするのだった。




