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レベルカンストの彼女とレベル1の僕  作者: 巫 夏希
第三章 その『黒』の神は怒り狂う
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第三章10『任務:ギザギザの葉を見つけましょう(中編)』

「確証は持てないけれどね。でも、やっぱり、そこまで来たらその可能性が充分に有り得る話じゃないかな」

「でも、それだったらテクノポップ社は訴えられるんじゃないの? 例えば、【アビスロード】の暴走について」

「それはそうかもしれないけれど……。もしかしたら、警察とグルなんじゃないか?」

「そんなこと、考えられる訳が、」

「でも、確実に考えられる可能性は、それしか有り得ない」


 ゴードンは言った。

 はっきりと言い放った。

 確かにそう考えるのは自然かもしれない。そして、その考えに至るのも半ば当然のことなのかもしれない。そして、その言葉を紡いだことも彼にとっては暴論になっていたのかもしれない。暴論というよりかは、彼自身の『危うさ』に触れるものがあったのかもしれない。

 何故そう思うのか。

 答えは単純明快。『アビスクエスト』はテクノポップ社が運営しているゲームであるということは周知の事実だ。そして、『アビスクエスト』をプレイしてるということは、テクノポップ社の何らかのフィルターが通っているのは確かだろう。

 とどのつまり、『アビスクエスト』はテクノポップ社によって監視されている世界だ、ということ。

 それが分かっているならば、変な言葉なんてメッセージアプリ内部ですら言い出すことが出来やしない。いや、やろうと思えばその事実を歪曲させることだって出来るんだから。


「……でも、テクノポップ社がやっていないというなら、他に誰が?」


 ゴードンはさらに追い打ちをかけていく。

 確かに、その通りだ。

 テクノポップ社がこのゲームを開発した。言うならば、『神』だ。その神がしていないこと――それはどういうことを意味しているのか。


「或いは、プログラムが自我を持った……とか」

「そんなことが? ほんとうに有り得るとでも?」

「可能性は否定出来ない。技術は常に進歩し続けているのだから。特にAI技術が発達している昨今なら、不可能ではない出来事だろう?」


 それは、そうなのだろうか。私はあんまり詳しくないから分からないのだけど。


「……とにかく、ギザギザの葉を、データテーブルごとなくしちまったんだったら、そいつは悪い出来事だ。だって、『隠れ蓑の装備』を永遠に手に入れることが出来ないんだから。だが、もしそうだとするならば、それを【アビスロード】が仕向けるだろうか?」

「……【アビスロード】は今回の『事件』には無関係、と言いたいの?」


 敢えて、私は『事件』と言った。

 それが事件と言える規模なのかは分からなかったけど。

 私にとっては紛れもない『事件』であることは間違い無かった。

 ゴードンの話は続く。


「……とにかく、問題としては、ギザギザの葉が見つからないこと。これは重要な問題だ。これが見つからない限り、俺たちはあの武器屋に戻ることが出来ないんだからな」

「それはあくまでも『可能性の問題』では無くて?」


 言ったのは、メディナだ。

 確かにその通りかもしれない。

 でも私たちにとって重要な問題であることは間違い無いだろう。

 仮にデータテーブルごと書き替えられていたとするならば、そしたら別の方法を考えなくてはならない。


「……でも、ギザギザの葉が見つからなかったら、どうすれば良いんでしょう?」

「そのときは、新たに『忍師(しのびし)』を雇うしかありませんね」

「忍師? 確か『上位ジョブ』のうちの一つだったと記憶してるけど、不人気ジョブの一つだから、実際にそれでレベルカンストに近い人間(プレイヤー)は居ないんじゃない?」

「あんたみたいなレベルカンスト勢を基本にしないでくれ……。それで? 忍師を雇うとどうなるんだ?」

「忍師には、『隠れ蓑の装備』を補うスキルである『隠密スキル』を使うことが出来ます。それに、それがパーティ全員に使うのが出来るということも」

「だったら最初から忍師に依頼をした方が……あ、」

「だから行ったじゃないですか、貴方自身が。今さっき。忍師は不人気ジョブの一つで、実際に高レベルまで存在している人間が居るかどうかも危ういって」

「そういうことね……。確かにそうかもしれない。その通りなのかもしれない。実際問題、見つかるかどうか分からないものを探した方が一番っていうことになってしまうのだけど」

「それは、致し方無いことですね。私も想定していなかった事案ですから」

「とは言っても……」

「じゃあ、どうしますか?」


 レオンは、両手を左右に広げて、話を続ける。


「これから見つかるかどうかも分からないギザギザの葉を探し続けるか、居るかどうかも分からない高レベルの忍師を傭兵から探し当てるか。どちらにせよ、答えは二つに一つですよ。さあ、どちらを選択しますか?」



  ◇◇◇



 結局。

 私たちはギザギザの葉を探すことにした。

 忍師を探すよりも、ギザギザの葉を探した方が効率が良いという判断に至ったから?

 否。

 ギザギザの葉がデータテーブルごと消えている可能性は限りなく低いと思ったから?

 否。

 答えは、そのどちらでもない。

 答えは、隠れ蓑の装備を一目見てみたかったから。そう言うと、巫山戯るなと言われても仕方無いことになってしまうのだけど、私にとって隠れ蓑の装備は今だ使ったことのない装備だったし(というか、今まではレベルでごり押してた節がある)、他の人間にとってもギザギザの葉を売り払うことはあってもそれを加工した『隠れ蓑の装備』は意外にも使ったことがない、という形だったのだ。


「でも、期限は設けましょう。【アビスロード】に会ったことはありませんが、普通に考えて時間をかけてしまったら、それだけ【アビスロード】が怒りに包まれるのは間違いありません」

「【アビスロード】の怒りを考慮する必要があるってこと?」

「ええ、そうです。そうしないと、今捕まっている二十人の人間がどうなるか、分かったものではありません。それぐらいは分かりますよね?」

 


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